“三世俳優”という視線は覚悟の寛一郎 「実力派でも演技派でもない。ましてやイケメンでもない」 目指す役者像は常にまっさら状態

もう肩書も枕詞もいらない。『どついたるねん』『顔』で知られる阪本順治監督による時代劇『せかいのおきく』(4月28日公開)で、父であり俳優である佐藤浩市と共演した寛一郎(26)。寛一郎は一人前の俳優としての自我が芽生えつつあるという。

■覚悟の上で同じ役者の道

祖父は三國連太郎、実父は佐藤浩市というサラブレッド。2人の存在はあまりにも大きく、常に寛一郎には祖父と父の名前が肩書や枕詞のようにつきまとった。

「役者をやっていようがやってなかろうが、どこに行ってもそれは言われることなので仕方のないことです」と認めつつ、「最近はちょっと嫌な時期かもしれない」という。

佐藤浩市の息子と言われると条件反射的にビクッと固まり、自分でも上手く説明ができない感情の波を感じるそうだ。「『そうだよ』と素直に認める時期と『もう疲れた』と気にしてしまう時期が交互に来る」と揺れ動く心情を説明する。

失礼ながらこちらが「それも覚悟の上で同じ役者の道に進んだわけですよね?」と尋ねると、前言を打ち消すように「もちろんです」と力強く語る。鋭い眼差しで「そんなの覚悟の上でやっています」とも主張する。

黒木華主演の『せかいのおきく』で寛一郎が演じたのは、下肥買いの中次。糞尿を売り買いする中次は町人たちから差別を受けながらも、声を失ったおきく(黒木)から字を学ぶことで“せかい”に想いを馳せていく。佐藤はおきくの父役だ。

■エモい以心伝心の親子共演

「プロデューサーから『親父も出すよ』と伝えられたときは『そうですか』と自然と受け入れた感覚です。でもまさか中次が想いを寄せるおきくの父親役とは…。でも親父とのシーンは自分としても好きで、すごくいいシーンになったと思います」と手応えを感じている。

父と初めてセリフを交わしたのは、同じ阪本監督の『一度も撃ってません』(2020年)。「初共演ということもあり、あの時は親父も僕もガチガチでした。撮影現場では一言も喋れなかった」と当時を思い返して笑う。

では今回は?「監督も2回目だし、親父とも2回目。スタッフさんも昔から知っている顔ばかりだったので、お互いに荒ぶることなく。仕事とは思えないくらいの居心地の良さを感じました」とリラックスして挑めたようだ。

父とは厠でのシーンで顔を合わせた。「面白かったのは父と子で考えていることが一緒だったこと。このシーンをワンカットでやってやろうという暗黙の共通認識があって、どちらからともなくワンカットで撮り切れるように動いていました。結果的に阪本監督の判断でカットは割りましたが、その時に親父が『昔の阪本だったらワンカットでやったな』と言って、それに僕も『俺たちもその感覚で動いたしね』と返しました。親子で考えていることが一緒だなんて…エモいですよね」と息の合った演技に嬉しそうだ。

■性格的にはネコ?

確かに微笑ましくエモいエピソードだが、同時に寛一郎の俳優としての余裕も感じる。俳優デビューして6年。大河ドラマにも出演し、祖父も父も経験していない演劇にも初挑戦した。一人前の俳優としての自我は着実に育まれている。もはや“佐藤浩市の息子”なる枕詞も肩書も不要になるだろう。ならば次なる肩書は?

寛一郎は「僕は実力派でもないし演技派でもないし、ましてやイケメンでもない。仕事も自分の興味があるものを選んでいきたいので、肩書はありません」と常にまっさらな状態でいたいという。

クールな印象を抱かれがちだが、実際は屈託ない笑顔を見せる礼儀正しい好青年だ。主演の黒木からも「寛ちゃん」と親しみを込めて呼ばれている。「嘘がない人に僕は懐きますね。マネジャーさんからは『ネコっぽい性格』と言われたりします」と明かす。

ちなみに一番好きな食べ物はハンバーグ。その可愛らしさをふざけてツッコむと、寛一郎は腹を抱えて笑いながら「もしかしたら僕の肩書として“可愛い”寛一郎はいい肩書かもしれない。なんでも好きに書いてください!」と、こちらの意図を汲んで乗っかってくれる。役者としても人間としても、魅力の尽きないサラブレッドだ。

(まいどなニュース特約・石井 隼人)

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