「戦車は入っちゃいけません!」…自衛隊演習場で見かけた“超レア”道路標識 もし間違って入ってしまうとどうなるの?
一般道路ではまず見かけない超レアな標識が、陸上自衛隊饗庭野(あいばの)演習場にある。それは「戦車通行止」。道交法で定める正規の道路標識ではないそうだが、設置している理由などについて、演習場に隣接する今津駐屯地に聞いた。
■路面を保護するため装軌車輌用の道路を設けている
陸上自衛隊饗庭野演習場は、滋賀県高島市にある西日本最大の演習場だ。陸上自衛隊の今津駐屯地が隣接しており、駐屯地から演習場へ直接出入りできる。
この饗庭野演習場には、風変わりな道路標識が設置されている。
それは「戦車通行止」。
一般の道路でよく見かける赤丸に斜線を引いた「車両通行止」の標識に、戦車のシルエットが描かれたもの。
そもそも演習場は道路交通法が及ばないエリアだが、かといって無法地帯ではなく、自衛隊車輌はルールを守って走行している。
今津駐屯地によると「演習場で車輌を管理統制するためのルールのひとつとして、装軌車輌(キャタピラ車)の通行を禁止する目的で設定しております」とのこと。また、戦車のシルエットにした理由は「分かりやすくするため」だという。
では、なぜ装軌車輌を通行止めにする必要があるのか。
「自衛隊の装軌車輌は重量があるので、注意喚起を強調したいという目的があります。規制の対象は、訓練を行う部隊です」
演習場には戦車が走れる広い道路から、人間1人がやっと通れるくらいの小道まで、さまざまな道が入り組んでいる。
「そういう中で標識を置いて、安全を確保したいという意図のもとで設置しております」
安全確保のほかに、もうひとつ理由がある。今津駐屯地には、2つの戦車部隊が駐屯していた。そのうちのひとつ第3戦車大隊は今年3月16日に「第3偵察戦闘大隊」に改編されたため、タイヤで走行する16式機動戦闘車を装備することになったが、もうひとつの戦車部隊・第10戦車大隊が74式戦車を装備している。戦車が走行すると、履帯(キャタピラ)で路面をひどく傷めるのだ。
履帯の役割は、車体の重量を接地面で分散することのほかに、道路ではない場所でも走行できるようスパイクの機能ももっている。そのため、まっすぐ走っているだけでも、路面が掘れてしまうのだ。発進や停止など、一カ所に力が加わる操作をすると、さらに大きくえぐれてしまう。さらにカーブを切ろうものなら、まさに「耕したような」状態にしてしまう。そんな戦車が隊列を組んで何輌も走ったら、路面はたちまち破壊されてしまうのだ。
そのため演習場の全部ではないが、戦車が走行するための「装軌車道」とタイヤで走る装輪車用の「装輪道」に区分されたエリアが設けられているのである。
もし誤って、戦車が装輪道へ入ってしまった場合でも、とくに罰則はないという。かつて旧第3戦車大隊で勤務していた筆者の経験をいえば、操縦手が車長から、やや厳しめの注意を受ける。
ところで、標識は金属製だから、雨ざらしの状態では月日と共に傷んでくる。ときには、経験の浅い操縦手が倒してしまうこともあるそうだ。
傷んだり破損したりして修理できなくなった標識は、民間の業者に製作を発注して新しいものを設置するという。
一般の人が自衛隊の演習場へなかなか入れないが、訪れる機会があれば探してみるのも一興かもしれない。
(まいどなニュース特約・平藤 清刀)