製本職人の紙を折りたたむ所作の美しさ…手仕事の極致をとらえた動画が話題 手と竹ベラが一体化してる!?
流れるような手さばきで、製本会社の職人さんが竹ベラで紙を折りたたんでいく動画がTwitterに投稿され注目を集めました。動画にはためらうことなく、ひと息に大きな紙を折っていく寡黙な姿が映っています。
ただ紙を折る、その様子が撮影されているだけなのですが、ふしぎなくらい魅力的な動画に仕上がっており、何度も再生したくなってしまいます。4月上旬現在、動画は59万件を超えるインプレッション数を獲得しました。
「竹ベラで束見本用の紙を折りたたむショート動画です。紙折り機械がない昔々は、全量こうして手折りしていたのだそうですよ」という文言を添え、ツイートしたのは「渡邉製本」(@booknote_tokyo)の公式アカウント。投稿元である「渡邉製本株式会社」(東京都荒川区)に問い合わせると、動画に映っているのは同社3代目代表取締役社長、渡邉浩一さん。同社は77年続く老舗の製本会社であり、渡邉さんの見事な手さばきは世代をこえて積み重ねた経験と研鑽のゆえかと納得します。
その仕事ぶりを見た人たちから
「美しい… 職人の技は時間を忘れて見入ってしまうね」
「なんかずーっと見ちゃいます!職人技!匠の技!すごい!」
「ずっと見ていられますね。素晴らしい技術。折る紙の音も心地よく聞こえます。」
などと惜しみない賛辞の声が寄せられました。
今回の投稿が話題になったことで「数日間で800人(もフォロワー数が増えた)などということがこれまで無かったので、未だ驚いてます」と心境をツイートする同社Twitter担当の河合枝里子さんに動画の中で渡邉さんが従事している作業についてお聞きしました。
■「束見本は、現在でも機械ではなく手加工で作られます」
--「束見本(つかみほん)」は現在でも手で折って作るものなのですか?
「束見本」は、製本の本製造に入る前に、本番と同じ紙の材料と製本仕様でつくるダミーのことです。本製造では機械や手加工で何百、何千という冊数をまとめて製本します。その本番に入る前に、クライアントと製本会社の双方間で、厚みや仕上がり具合を確認するために作られるものです。数冊あれば十分ということがほとんどですので、機械ではなく手加工で作られます。
--動画に映っている作業の内容を教えてください。
「束見本」を作るための最初の工程が、今回の動画になります。動画では大きな紙を折りたたんで、本文(本の中身)を作っているところを撮影しています。書籍製本は16ページが一つの単位になっており、大きな紙をまず半分に折って時計回りに90度動かし、もう一度半分に折って時計回りに90度動かし、さらにもう一度半分に折って、合計3回折りたたむと16ページ(八つ折り)になります。詳細は弊社WEBサイトにも記載しております。
今回は、折る前のサイズが約770ミリ×540ミリの紙を直角に3回折って約270ミリ×190ミリにしています。これはB5サイズの本に仕上げるための大きさです。この工程の後に何工程も経て、一冊の本の形にしていきます。
■紙によって性質が違うので、きれいに折れるようになるためには経験値と慣れが必要
--「竹ベラ」には何か正式な名称が?
名称はそのまま「竹ベラ」です。幅5センチ×長さ21センチくらいの薄く平べったい道具で、紙を折りたたむ作業に使用します。紙折作業を機械ではなく、手作業でこなしていた時代に使っていた道具で、現在、渡邉製本では束見本用の本文用紙を折る際に使用しています。
--紙をきれいに折れるようになるまではどのくらい時間がかかるのでしょうか。
社長に聞いたところ、竹ベラで紙をきれいに折れるようになるまでにかかる時間は一概には言えないそうです。が、紙の厚みや性質により折り方の加減を変える必要があり、厚い紙はシワになりやすいため折りにくく、薄い紙は一枚ずつ取る時に重なって複数枚取れてしまいやすい、といった難しさがあるそうなので経験値と慣れは必要とのことです。
また、1折目、2折目、3折目で竹べらの角度と力加減と変えています。内側がシワになりやすい3折目は強く押し付けずに、空気抜きを行うようなやさしめの力加減で折っています。最後に体重をかけて押し潰して、空気を逃がしながら折り目をキチッとつけています。
--まさに職人技ですね。
竹ベラでの作業については、社長が弊社noteにて記事にしておりますのでよろしければご覧ください。実は、今回の動画を作ったきっかけは「noteに竹ベラの記事をアップしたいから、紙折りの動画を撮って」と社長から頼まれたからなのですが、(ただ紙を折るだけの動画なんて、地味だし面白いのかな…?)と私自身は疑問に思いながら撮影と編集をしました。
--思いがけない反響だった、と。
感想を社長に聞いたところ、「嬉しかった」と一言。それだけ?と聞いたら「だって本当に嬉しかったんだもん」とのことで、相当嬉しかったようです。
書籍のデジタル化もすっかり浸透した現代、紙を折るだけというアナログな動画に多くのいいねやRTをいただけたことにひたすら驚き感激しました。私は夜に動画を投稿したのですが、翌朝目覚めたら通知が大変なことになっていて、コメントを読んで有難すぎて布団の中で少し泣いてしまいました。
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さらに「コメントの中では、ご自身や身内の方が製本に従事されていた(されている)という方が思いのほか沢山いらっしゃり、先輩やお仲間に見守られているような心強い気持ちになりました」と続け、今回の投稿に寄せられた声に励まされた、と語る河合さん。
同社のHPやSNSでは職人さんたちの仕事内容やその手わざの数々が紹介されています。今回の投稿を見て、奥深い「製本業」の仕事をさらに知りたい、と思った人はぜひチェックしてみてくださいね。
【渡邉製本株式会社】
昭和21年(1946年)創業、令和5年現在77周年を迎える老舗の製本会社。並製本・上製本といった一般書籍製本やノートなどの紙製品の企画・製造・販売する主要業務に加え自費出版など個人の依頼にも対応。機械だけでは完成しない特殊製本を手加工との組み合わせで実現することを得意とし、装丁デザイナーからの直接依頼実績も多数あり。
(まいどなニュース特約・山本 明)