【きょうだい児って?】「彼氏に申し訳なくて夜、突然涙が出る」 結婚、出産…自閉症の弟がいる25歳女性の悩み
障害のある兄弟姉妹を持つ子どもたちを「きょうだい児」と呼びます。社会人4年目のラム(25)=仮名=もそう。知的障害と自閉症のある弟(21)がいます。弟のことを彼氏になかなか話せませんでした。彼氏や彼の家族が受け入れてくれるのだろうか。話せない自分自身も嫌。「弟が悪いわけじゃないのに…。彼氏にも申し訳なくて」。心が不安に押しつぶされそうになり、一人になると涙があふれていました。そんなラムの心の声に耳を傾けてみました。
■けんかしても、私だけが怒られた。なんで…
ラムは、兵庫県播磨地域の出身だが、今は神戸市内で一人暮らしをしている。弟の愛称はたーくん。身長178センチ。母親に「たーくんは、ほかの子と違うのよ」と言われ続けてきた。幼い頃は、家を突然飛び出して迷子になったり、知らない人を勝手に触ったりと、お騒がせっ子だった。今も家の中を走り回ることはあるが、簡単な会話もできる。文字も書ける。数字が好きで、教えれば難しい数式も解ける。
ラムは「昔はよくけんかして、私だけが母から怒られていたので『何で?』と思っていました。今は、愛されキャラな部分もあって、面白い弟だと思っています」と話す。
■弟のことで嫌われるかも
初めて彼氏ができたのは、高校1年。小さな町で暮らしていた。彼も弟のことは知っていたが、あまり深く考えなかった。「いつか結婚しよー」。無邪気に話すだけで、現実味がなかった。
「社会人になってからかな。周りの結婚話を聞くようになって、焦り始めました」。彼氏がほしい。そう思って、婚活を始めた。メッセージを交換し、数回会って、関係性が発展しそうな人もいた。でも、家族の話になると、自然と弟を避けてしまった。嫌がられるかもしれない…。そんな怖さを拭いきれなかったからだ。
夜、ワンルームの部屋。不安は波のようにやって来る。弟のことを話して、理解してもられるのだろうか。理解してくれたとして、相手の家族は受け入れてくれるのか。出産への怖さもあった。障害が血縁で遺伝するかは一般的にはいろいろな見解がある。ただもし、子どもに障害があったら自分のせいかも…。
実際に、障害者の兄弟・姉妹を持つ人が、結婚を断られたケースもあると聞く。考えると、もう涙が止まらなかった。「こんなに余計なことを考えるんだったら、面倒くさいなーって。結婚しない人生もありだなって」。投げやりになって、誰かのせいにする自分もまた、嫌だった。
■理解してもらい、吹っ切れた
今の彼氏は昨年6月、知り合いの紹介で出会った。3歳年上の穏やかな人。人の話を根ほり葉ほり聞くタイプではなく、「私の方がよくしゃべってるかも」。ラムの顔がほころぶ。弟のことは小出しにして話していたが、気にする素振りも見せなかった。
ある日、思い切って弟のことを話すと、彼氏はあっさり言った。「別に大丈夫やで。好きで付き合っているんやし」。その後は、何も聞いてこない。かと思えば、ゲームセンターで遊んでいると、カービィのぬいぐるみを見つけて言った。「たーくん、カービィ好きだっけ。取る?」
さりげない言葉がうれしかった。今年の正月には、彼氏は初めてたーくんと対面した。知らない人を敵対視し、「嫌い」と言ったたーくんだったが、彼氏は「面白い」と笑ってくれている。たーくんも今では、彼氏と一緒に買いに行ったヨギボーのクッションがお気に入りだ。
正直、今も出産への不安はある。彼とだって、いつ、どうなるかは分からない。でも、受け入れてもらえて、吹っ切れた。
「分かってくれる人は分かってくれる。分かってくれない人とは付き合えないくらいの気持ちでいいかなって」
(次回は、両親が亡くなり、障害が残る弟を施設に入れるかどうかで悩む女性のお話を紹介します)
(まいどなニュース・山脇 未菜美)