「乗ったら、絶対に寝てはいけない」ポールダンスも、感謝祭のパーティーもOKなのに…自由すぎる街の地下鉄、身を守るための“掟”とは
多く人々にとって憧れの街・ニューヨークの地下鉄は、まさに「自由の国アメリカ」を体現しているかのよう。思い思いのことをして自由にすごす人々であふれているそうですが、ただ一つだけ「してはいけないこと」があるそうです。13年在住している志田さん(仮名)に、意外な禁止事項についてレポートしてもらいます。
■「お金をください」と大演説
日本の電車内のマナーは「他人に迷惑をかけないように静かにする」こと。しかしニューヨークの地下鉄では、そんな常識は存在しません。「静かにする」という概念はないように感じられます。
そもそも車内で喋っている人の声がとても大きいですし、イヤホンを使用せずにスピーカーで音楽をかけている人も。「他の人に気を遣う」よりも「自分がやりたいことを、やりたいようにする」というのがアメリカのいいところでもありますが、正直「迷惑だなぁ…」と思ってしまうことも。
ホームレスの人たちの「お金をください」と懇願する場面に遭遇することも多いです。大きな声で「Ladies and Gentleman(淑女並びに紳士のみなさん)」と、ショーでも始めるかのように声を張り、自分の不幸話を演説しながらお金を要求する様子は、初めてニューヨークに旅行に来た人たちはびっくりする点だと思います。
中でも「少々度を超えているな…」と思うのはパフォーマンスをする人たちです。
ニューヨークといえば、街のいたる所で披露されるパフォーマンスが醍醐味の1つ。それが地下鉄の車内でも行われているのです。突然スピーカの音楽に合わせて大声で歌い出す人や、ストリートダンスの地面でするスピンを地下鉄の車内でするのですから、びっくりどころの騒ぎではないですよ!
■突然のパフォーマンスにびっくり
しかし、狭い車内で突然始まるパフォーマンスは、トラブルの元になることも。
私も以前、ポールダンスをしているパフォーマーの足が、誤って乗客に当たってしまい喧嘩に発展したところに遭遇した経験があります。
結構たくさんの乗客が乗っている時間帯だったのにも関わらず、パフォーマンスをし始めて「危ないなぁ」とは思っていたんですが…。手すりを使ってグルグル回り始め、足を上にあげようとした時に靴でガツン!とそばにいた乗客を蹴り飛ばしていました。
当然蹴られた乗客は大激怒!「なんでこんなに乗客がいっぱいいる時にパフォーマンスするんだよ!ふざけるなよ!!」と怒る乗客に、最初こそ「ごめんなさい…」と謝っていましたが、次第に不機嫌になっていき…。「謝ってるだろう!こっちは生活がかかってるんだよ!!」と、まさかの逆ギレ。
今にも殴りかかりそうな雰囲気を察知し周りの乗客が必死になって止めましたが、力及ばず結局殴り合いに。最終的に非常停止ボタンが押され、お陰で地下鉄は一時停止となりました。私は待ち合わせに遅れてしまったので、いい迷惑でした。
■車内はまるでレストラン
車内での飲食も、日本ではあまりしないと思いますが、ニューヨーカーは地下鉄で色々なものを食べています。
私が実際に出会った中でびっくりしたのは、ピザを食べている人とケーキを食べていた人。どちらもホールのまま食べていました。思わず目を疑いたくなった光景でした。
最近私が聞いたニュースでは、感謝祭の日に地下鉄車内でディナーパーティーをしている人たちがいたという話に驚きました。アメリカの伝統行事でもある感謝祭に「お腹を空かせている人がいてはいけない」と、突然一般の人が開催したそう。もちろん地下鉄は非公認でしたが、ニュース曰く、乗り合わせた乗客はみな一緒に食事を楽しんだそうです。
■これだけ自由なのに、なぜか寝ることだけは
なお、これだけ自由な地下鉄ですが、ひとつだけ「やってはいけないこと」があります。それは「寝ること」。防犯上、禁止行為レベルです。寝ているのは、ホームレスのおじさんくらいで、日本のようにがっつり寝ている人はいません。
油断してしまう人はいるもので、私のアメリカ人の友人はうっかりうたた寝をした隙に、買ったばかりだった最新のiPhoneを盗まれていました。カバンの中に入れていたそうですが、カバンを持ったまま熟睡。ジッパーなどがついていないタイプのカバンだったため、中を覗かれiPhoneだけ抜かれてしまったよう。
幸いお財布に被害がなかったので良かった…と語っていましたが、「地下鉄内では気を抜いてはいけないな」と思った瞬間でした。
ニューヨークの地下鉄は24時間運営されていて便利ですし、意外とキレイ。一見すると治安も良さそうに見えるかもしれませんが、盗難や恐喝、暴力事件にあったという声も非常によく聞きます。ニューヨークを旅行する際には、地下鉄の利用時間にも気をつけたほうが良いでしょう。
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ニューヨーカーにとって地下鉄は「憩いの場」でもあるようです。日本では他の乗客に話しかけるようなことは、あまりないと思いますが、ニューヨークの人たちは知らない人でもすぐに話しかけます。
天気の話から、「その服どこで買ったの?」といった質問も普通にされますし、世間話以上の話をし出す人たちもたくさんいる印象です。実際、地下鉄の中で出会って付き合いだしたり、結婚した友人を何人も知っています。
ニューヨークは日本では当たり前と思っていたことが、当たり前ではない街。エキサイティングな経験ができる面白い街ではありますが、そのぶん気を張っていなくてはいけない場面も多いのも事実。クセが強いけれど、次第に愛着がわいてくる街です。
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▽志田さん(仮名)プロフィール
大学時代に交換留学でアメリカへ。その後帰国し日本の企業に就職するも、休みを取っては海外旅行をしていた。当時は友人であった夫とはアメリカ旅行中に再会し、現地妻に。ニューヨークに移住し今年で13年目となる。
(まいどなニュース特約・宮城 杏)