手洗い15秒 「魚の生臭ニオイ」を一掃する石けんがすごい!釣り好き会社員が開発、起業「もっと釣りを楽しくしたい」

昔から根強い人気のある趣味、「釣り」。昨今の屋外レジャー人気の高まりと共に、釣り人口も増えていっています。釣った魚は美味しく食べられるため実益も兼ねており、老若男女問わず愛されている趣味です。

しかし、生臭い「魚の臭い」は気になるもの。特に調理後の手の臭いに辟易する方は多いのではないでしょうか。そんな悩みを解消する商品を、奈良県にある「ふたかみワークス株式会社」が開発しました。その名も「釣り好きの石けん」。この石けんをつけて15秒間洗うだけで、なんと嫌な臭いが消えてしまうとのこと。これはスゴイ。

■魚に不可欠な“悪臭の素”

なぜ「釣り好きの石けん」を使うと臭いが消えるのかの説明の前に、人間が匂いを感じるメカニズムを説明しましょう。

「匂い」とは小さな分子が嗅粘膜に届くことで発生する五感の一つです。分子が鼻の奥にある嗅粘膜に付着すると、嗅覚神経細胞を通じて大脳に信号が送られます。送られた信号が心地よければ「良い匂い」で、不快であれば「嫌な臭い」になるのです。

魚の生臭い臭いの原因物質は、魚のぬめりなどに含まれる「トリメチルアミンオキシド」が微生物の働きで生じる「トリメチルアミン」という有機化合物。アンモニアの水素がメチル基に配列されています。トリメチルアミンオキシドがなぜ魚に含まれているかというと、浸透圧を調整するためです。海で捕れた未調理の魚に塩味がついていないのは、トリメチルアミンオキシドがあるからこそ。私たちにとっては悪臭の素でも、これがないと魚たちは海の中で暮らしていけません。

トリメチルアミンオキシドは海に生息する魚類や甲殻類以外にも、ウナギなど降河回遊する淡水魚にも含まれていることが分かっています。

■臭いの問題が解消すれば…釣りはもっと楽しくなる

さて、臭いの仕組みや原因は分かったものの、消すとなると超難題です。臭いの物質は、皮膚のタンパク質や脂質に付いて、簡単には取れにくい状態になっているのだそうです。

普通の人なら、「難しい」で諦めてしまうものですが、ふたかみワークス株式会社の社長・堤隆弘さんは違います。堤さんは化学畑の研究者だからです。国立奈良工業高等専門学校化学工学科を卒業してから、食品や医薬品を作る会社で商品開発に携わってきました。

何より堤さんは釣りを愛しているのです。約40年前の中学生のころから釣りに親しみ、35歳からは本格的に海釣りにのめり込んでいます。釣りは楽しいものの、ずっと気になっていたのが臭いでした。これさえなければ、もっと釣りが楽しくなるのに…。

この長年の想いと培った知識を生かし、何とかして魚の臭いを消したい。

まずは、手軽に魚の臭いが消えると評判の石けんを試しました。他にもメントールやショウガに含まれる「ショウガオール」も試しました。どれも完全に臭いは消えません。クエン酸や酢酸は臭いは消えるものの、手に傷があると激痛が走るため除外。

結果は全て、納得のいくものではありません。

■「消す」のではなく「隠す」

このまま魚の臭いを消す石けんは作れないのだろうか…。気づけば、5年の歳月が流れていました。

実は臭い消し石けんを開発中、堤さんはまだ会社員でした。激務をこなしながらの開発に疲れを覚え始めたころ、ある資料と出会います。そこに書いてあったのは、とてもシンプルな内容。臭いの原因物質を「マスキング」するという手法でした。

マスキングとは分析化学用語で「隠ぺい」を意味します。化学反応において目的を妨害する物質があった際、その物質を取り除いてしまったり隠してしまう現象を指します。

堤さんは思いつく限りの物質で実験をしましたが、なかなか生臭さに対応できる物質が見つかりません。ここまで分かっているなら何とかしてマスキングできる物質を見つけたい。そう考えた堤さんは、仕事の片手間だったはずの臭い消し石けんの開発に本腰を入れ始めます。試行錯誤の末、トリメチルアミンと相性の良い物質も分かり、いよいよ魚の臭いを消す石けんの試作をスタートしました。

■会社員をしながら起業

それまでの試作品は、堤さん自身がベースになる石けんも作っていたんです。けれど、今度はプロに任せてみようと、OEM(製造依頼)を試みます。インターネットでOEMをしてくれるメーカーを探しました。ようやく見つけた1社目の試作品は、臭いは消えるものの失敗。堤さん側にも不手際がありましたが、低温下で分離が起きてしまったのです。あと、使用感も良くない。

次にお願いした2社目の試作品も、臭いは消えました。でも、また失敗するかもしれない…。不安を抱きつつ、1カ月間開封状態で様子を見ます。1カ月間様子を見るのは、堤さんが長年商品開発に携わってきた経験から。1カ月間問題がなければ、商品として自信を持ってお客さんに提供できる。

この時、ハッとしました。自分は「商品として」、この石けんを世に送り出そうとしているのかと。自分は会社員なのに。

迷いはあるものの、2社目が作ってくれた試作品は魚の臭いが完全に消え、良い香りもする素晴らしい出来。きっと喜んでくれる人は沢山いるはず。釣り好きなら、避けて通れないのが臭い問題なのだから。

2021年7月、堤さんは会社に所属したまま起業を果たします。石けんの商品名は、そのものズバリの「釣り好きの石けん」に決定しました。

■「釣り好きの石けん」を中心に広がる世界

会社員と起業家の二足の草鞋を履き、忙しさが倍になった堤さん。会社を辞めようかと考えていると、上司が釘を刺します。「上手くいくまで待つのも仕事だよ」と。分かっているものの、会社員をしていると発送の時間が取れません。

発送に時間が取れないにも関わらずどんどんと入ってくる注文に、思い切って堤さんは退社を決意。堤さんにもう迷いはありませんでした。

それは「釣り好きの石けん」がたくさんの人とのつながりを作ってくれていたからです。OEMを引き受けてくれたメーカーや開発時に色々と相談に乗ってくれた取引先、問屋や取り扱ってくれている釣具店、喜んでくれるお客さんなどなど。起業仲間もできました。会社員をしているころよりも、世界が広がったのです。

「その分、全部自己責任で大変ですけどね」

広がった世界の中心にある「釣り好きの石けん」は、対前月売上比率1.3倍で右肩上がり中。多い時は1.8倍になることも。堤さんの狙い通り、たくさんの釣り好きを笑顔にしているようです。

■海がない奈良だからこそ中心地

現在は、クーラーボックスやまな板、シンクにも使える石けんを開発中の堤さん。道具の臭いも取れればもっと快適に釣りを楽しめるはずと、実験を繰り返しています。

そんな忙しい日々を送る中でも、海釣りは欠かせません。会社と自宅がある奈良県から、和歌山県や三重県、兵庫県の釣りスポットへ出掛けます。もちろん「釣り好きの石けん」も忘れずに。

海がない奈良県なのに、海釣りが好きなのは意外に思えるのですが、堤さんは笑いながら言うんです。

「奈良は釣りスポットに囲まれた場所なんですよ。和歌山へも三重へも同じぐらいの時間で行けます。中心にいるからこそ、色んな場所に行けるんです」

釣りをこよなく愛する堤さんだからこそ開発できた「釣り好きの石けん」。これからどんな商品が送り出されるのか楽しみですね。

   ◇   ◇

▽ふたかみワークス株式会社

奈良県天理市石上町696-9

(まいどなニュース特約・ふじかわ 陽子)

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