路線バスにもEVの波 唯一の国内メーカー、EVモーターズ・ジャパンが描く戦略は 決め手は「航続距離」と「乗り心地の良さ」
都市部ではよく見かけるようになったEV(電気自動車)ですが、中国のEVメーカーであるBYD(比亜迪)が、日本市場に参入してきたのは記憶に新しいところです。BYDのEVは「東京オートサロン2023」の会場でお披露目し、2023年1月31日からミドルサイズの「BYD ATTO 3」を日本でも販売しています。
路線バスの世界でもEVの波が訪れています。いまからさかのぼること4年ほど前には、BYDの量産型小型電気バスの予約が開始され、量産型大型電気バスは2021年1月から納車を開始しています。
BYDは国内での電気バスのシェア7割を誇っていますが、国内メーカーも負けてはいません。それが、日本で唯一電気バスを量産している北九州市に本社を構えるEVモーターズ・ジャパンです。
同社の大型路線バスは、2023年1月に伊予鉄バスが2台導入し、小型コミュニティバスは、2022年4月に那覇バスが2台、2023年3月には渋谷区が「ハチ公バス」として2台導入し、すでに運行しています。
EVモーターズ・ジャパンの電気バスがぞくぞくと登場しているところ、今回、大型EV路線バスである「F8 series2-City Bus」4台を、東日本で初めて富士急行グループが導入しました。
導入したのは、富士急バス株式会社、富士急湘南バス株式会社、富士急シティバス株式会社、富士急モビリティ株式会社の4社で、株式会社フジエクスプレスは、今年1月に東京都港区の小型コミュニティバス「ちぃばす」に「F8 series4-Mini Bus」を2台導入しています。
富士急ハイランドの駐車場で大型EV路線バスを公開したので、さっそく富士急行の担当者に日本メーカーの電気バス導入の理由を聞いてみました。
■決め手となったのは航続距離280kmと乗り心地の良さ
富士急行は、すでにBYDの大型EV路線バスを2020年に3台導入しています。今回、EVモーターズ・ジャパンの大型EV路線バスを導入した大きな理由は、航続距離と乗り心地の良さだそうです。
メーカー公称による航続距離は280km(定速60km/h、負荷重500kg、エアコン不使用)と、路線バスのルートである一日の走行距離180~200kmを十分満たしていて、BYDよりたくさんの距離を走行できるとのことです。ちなみに、一回の充電にかかる時間は7~8時間で、昼間の運行後に充電して朝には満充電で走行可能。
航続距離の延長を可能にしたのは、独自技術のアクティブ・インバータによるもの。通常のインバータは反応速度が遅く、加減速時にはいくつもの出力ピークが発生してしまい、そのせいでバッテリーの劣化や電力消費の増大という課題がありました。
EVモーターズ・ジャパンでは、これらを解消するために電池の劣化予測・出力最適化制御をバッテリーマネジメントユニットが行い、アクティブ・インバータがダイレクトにモーターを制御しています。電池消費をコントロールして、極力ピークが発生しないような出力制御により、バッテリー劣化防止と世界トップレベルの低電費を実現しています。
通常の商用EVバッテリーに比べて1.5~2倍の長寿命になり、バッテリー交換にかかる経済的負担も低減しています。
さらに、制御量の最適化設定によって、スムーズな発進・加減速を可能にし、乗り心地も良くなっています。
EVの航続距離は、気象、道路、運転、架装、冷暖房などの使用によっても変わってきますが、4段式の回生ブレーキを採用しているため、回生率も上がり航続距離も伸びるのではないかと富士急行の担当者は見込んでいます。
バスのラッピングデザインも特徴的です。環境にやさしいことが一目でわかるように、コンセントをモチーフにした「EV-BUS」をロゴマークにし、そこから伸びる枝が富士山の緑につなげることで、環境への配慮と世界遺産である富士山の自然を守り続けていこうというメッセージがあるとのことです。
また、バスを一周ぐるりと取り囲んだ枝は、車体にデザイン的な緊張感を与えるとともに、再生可能な社会の実現を意図しています。「電気で走る環境にやさしいバスです」のロゴも車体のサイド、リアに掲げているので、電気バスだということがわかります。
路線バスのEVは乗用車に比べると、導入台数はまだまだ少ないけれど、見つけたら乗ってみたいですね。
(まいどなニュース特約・鈴木 博之)