地域情報サイトで猫を譲ったら「虐待が発覚」…心配な猫を取り戻すことはできるのか【弁護士が解説】
地域の情報サイトを通じて子猫の譲渡が行われた際、猫の虐待を目的にしているにも関わらず「里親になります」と偽って猫を譲り受けようとする、「里親詐欺」と疑われるトラブルが起きていたことが以前話題になりました。
「まいどなニュース」の記事によると、保護ボランティアが生後4カ月ほどの2匹の子猫兄妹の里親を地域情報サイトで募集し、「2匹とも引き取る」と連絡してきた人物に譲渡。しかし、譲渡後に子猫たちの様子を知りたいと保護ボランティアが再三問い合わせても適切な回答がなく、心配のあまり譲渡して4日目に「子猫たちを引き取りたい」と連絡したところ、猫の虐殺が疑われる写真が送られてきたといいます。
このように、譲渡した猫が適切に飼育されていないと思われるとき、譲った側は何ができるでしょうか。また、こういったトラブルを未然に防ぐにはどうすればいいのでしょうか。ペットに関する法律問題を取り扱っているあさひ法律事務所・代表弁護士の石井一旭氏が解説します。
■きちんとした契約書を取り交わしておくことが重要
ブリーダーの方や保護団体の方(譲り手さん)から受けるご相談の中で非常に多いものに「譲り渡したペットを取り戻したい」というものがあります。「受入先で愛情をもって世話されていないようだ」「月に1度は会わせてくれる約束だったのに守られていない」「食事も満足に与えられず動物病院にも連れて行ってもらえていないようだ」などなど、その理由は様々です。
他方、逆の立場である飼い主さん(貰い手さん)からご相談を受けることもあります。過去には、ほんの僅かな契約違反をタテに長年飼ったペットを返せと迫られて困っている、というご相談を受けたこともありました。
このように、ペットの譲渡についてはいろいろとトラブルがつきものです。
法律上ペットは「物」として扱われることとされています。「ペットを譲渡する、里子に出す」という事実を法律的に解釈すると、無償であれば貰い手さんとの間に贈与契約が、有償であれば貰い手さんとの間で売買あるいは交換契約が結ばれた、ということになります。いずれにしても、契約の成立によって、ペットの所有権は譲り手さんから貰い手さんに移転します。
そして、物の所有者は、法令の制限内で、自由にその物を使用することができるものとされています(民法206条)。
「自己の所有物を自由に利用することができる」、これは私達が暮らす資本主義社会の基盤となる非常に大切な考え方です。「一度物をもらったり買ったりした後は、その物をどう使おうと、法律に違反しない限り、基本的に、もらった・買った人の自由である」
この理屈は、ペットについても同様に当てはまります。
ここまで読んで、ペットは生き物なのに物扱いされて残酷な話だと思われたかもしれませんが、みなさんも、自分の飼っているペットに他人から干渉されたら愉快な気持ちはしないでしょうし、まして飼い方や接し方を指図されるいわれなどないと思われるでしょう。その当然の感情を保護しているのが、前述した所有権の考え方です(なお念のため、たとえ自分の所有物=飼っているペットであっても、愛護動物に対する虐待やネグレクトがあれば、動物愛護法違反で処罰の対象となります)。
他方、愛情を持って育ててきた譲り手さんの側からすれば、譲渡先で幸福に暮らしているのかどうかはどうしても気にかかるでしょうし、手塩にかけて育てた子がもし満足な飼い方をされていないのであればすぐにでも取り戻したいと思うのもごく自然なことです。
干渉されたくない貰い手さんと、干渉したい譲り手さんのすれ違い。これを防ぐためには、譲渡の際に両者で十分に話し合ってきちんとした契約書を作成し、取り交わしておくことが極めて重要です。
譲り手さんは、気にかかっていることを契約の条件として、契約書にしっかりと明記しておきましょう。
例えば、「毎日散歩に連れて行くこと」だとか「病気にかかったら直ちに獣医にかからせること」などといった条件を並べ、「これらの条件を満たさなかった場合は、貰い手は譲り手にペットを返還しなければならない」と定めておくのです。
このように一定の条件付きの譲渡契約にしておくと、貰い手さんが契約書に書かれた条件を満たさなかった場合には、ペットを取り返すことができます。
もちろん、契約は両当事者の合意によって有効なものとなりますので、譲り手さんが一方的に決まりを定めて強制することはできません。
譲り手さんは貰い手さんにきちんと説明して、その理解を得ることが必要です。貰い手さんも、譲り手さんの過剰な要求や、受け容れられない条件にはきっぱりNOと返答し、変更や削除を求めるべきです。どうしても条件が折り合わなければ、譲渡を諦めるという選択肢も検討せざるをえないでしょう。うやむやのまま譲渡してしまうと、のちのちお互いの認識がすれ違い、「返せ、返さない」といった争いを生じさせかねません。
なお、たくさんの譲渡を手掛けておられる貰い手さんでも、契約書のひな形を個別の譲渡ごとにカスタマイズせずに他に使い回すことはおすすめしません。無個性な物品であればともかく、生体であるペットは千差万別ですし、それに合わせて適正な飼い方も異なってきます。飼い主の事情もまた人それぞれで異なるでしょう。トラブル防止のために契約書を作るのですから、それぞれの事情に応じた契約条件を定めることが必要になります。譲渡先が心配な譲り手さんは、面倒でも、一人ひとりの貰い手さんと向き合い、お互いの希望を話し合い、合意に至った内容を契約書に書き残しましょう。
また、たとえ譲渡先でペットの虐待が発覚したとしても、契約条件を明確に付さないままペットを譲渡していた場合は、ペットを強制的に取り戻す法律上の手段はありません。ペットを取り戻すためには、譲渡先と独自に交渉して、ペットを返してもらうよう務めるしかありません。
譲渡制度を悪用するような貰い手はごくごく少数だと思いますし、最初から不信感丸出しでは譲渡もできなくなりますが、元記事にもありますように、事前に貰い手さんとよく話し合って、ペットに対する考え方や、ペットを飼う適性の有無を、しっかりと確認しておきましょう。
◆石井 一旭(いしい・かずあき)京都市内に事務所を構えるあさひ法律事務所代表弁護士。近畿一円においてペットに関する法律相談を受け付けている。京都大学法学部卒業・京都大学法科大学院修了。「動物の法と政策研究会」「ペット法学会」会員。