「MayukoとJapanのためにあえて言う」欧州の外交官から受けた忠告 豊田真由子が広島サミットを前に思うこと 世界には多様な価値観や立場がある

■G7巡り苦い経験

5月19日から、G7サミット(主要国首脳会議)が広島で開かれます。準備に尽力される多くの方々に敬意を表した上で、思うところを少し申し述べたいと思います。それは、「G7は、G7以外の国々には、どう見られているか?」ということです。これについて、私は少々苦い経験があります。

スイス・ジュネーブで、WHO(世界保健機関)担当の外交官として仕事をしていたとき、日本では洞爺湖サミット(2008年7月)が開催されることになっていました。本国からの公電の中には、様々な国際会議において、「『今年、日本がG7の議長国であること』に触れるように」との指示があり、私は特に疑問を持つことも無く、会議で発言する際には、本論に入る前に、都度その枕詞をつけていました。

ある日の会議の後、欧州のとある国の、普段から親しくしている外交官に言われました。

「MayukoとJapanのために、あえて言うけど」と前置きをし、「『G7、G7』って、あまり言わない方がいいと思うよ。考えてみて。G7というのは、ここ(WHO)にいる193カ国の国連加盟国のうち、一部の先進国、さらにそのまた一部の7カ国が、勝手にやってることで、うちも含め、ほとんどの国には関係のないことなんだよ。それなのに、その7カ国が、あたかも世界の秩序を作って、世界を引っ張っていっているように思うのは、やめた方がいい。」と言われ、私はハッとし、そうかもしれない、と痛切に思いました。

それを受け、G7の他の構成国の外交官たちにも、聞いてみました。そうしたら、「まあ、それはそうだよ。だから自分は、(G7以外の国が集まる)会議で、G7の話はしないし、そもそも、自国がG7の議長国の年だからといって、特にどうということも、あまりないかな。」と言われ、なるほど…と思いました。

■G7の歴史と現状

現在のG7は、日、米、カナダ、仏、英、独、イタリアと、EUのトップが年1回集まり、国際的な政治経済等の課題について議論する会合で、議長国は持ち回りで交代します。

G7の議長国は、招待国を決めることができ、今年の広島サミットでは、豪、ブラジル、コモロ(アフリカ連合議長国)、クック諸島(太平洋諸島フォーラム議長国)、インド(G20議長国)、インドネシア(ASEAN議長国)、韓国、ベトナムのほか、国連、世銀、IMF、WHOなどの国際機関が招待されています。

G7は、1973年の石油危機に続く世界不況を受け、解決を模索する動きとして、同年3月、米国の呼びかけで、西独、仏、英の財務長官が集まり、その後順次、日本、イタリア、カナダが加わる首脳会議となりました。(冷戦終結後の1994年から、クリミア侵攻の2014年までは、ロシアも参加し、G8と言われていました)

G7は、国際連合のような国際条約に基づくものではなく、そこでの決定事項に法的拘束力もありませんが、経済力・軍事力の大きな国が集まって意見表明をするG7は、決断力や実行力等の観点から、優位性・影響力を持つとされてきました。

例えば、わたくしが専門とする国際保健分野では、2000年の九州・沖縄サミットで「沖縄感染症対策イニシアティブ」が打ち出され、2002年のグローバルファンド(世界エイズ・結核・マラリア対策基金)設立につながったとされ、G7を契機として、なんらかのプロジェクトが始まるといった流れはあります。                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                             

近年は、新興国・途上国の政治力・経済力の上昇に伴う相対的な影響力の低下とともに、セレモニー化・形骸化も指摘され、先進国と、新興国・途上国の代表とで形成するG20等の重要性が増してきているとも言われます。

具体的には、どういうことでしょうか?

■世界は多様な国で成り立っている

率直に言って、今は「ごく一部の“大国”が、ルールを決めて、世界を牽引していく」という時代ではありません。そもそも、新興国・途上国も、それぞれが強いプライドを持っています。さらに、経済力・軍事力・政治力を付け、存在感と発言力を増し、国際社会の一員として、意見を表明し、意思形成に参画し、「世界のことは、一部の国ではなく、自分たちも含めた皆で決める」という意向を強く持っています。

例えば、環境問題に関する国際会議では、新興国・途上国が、「CO2排出など、これまで先進国が経済発展を遂げる過程で生じてきた問題のツケを、我々に押し付けるな。我々も経済発展を目指しているのに、先進国がやってきたのと同じやり方を、取れないようにするのはおかしい。」という主張には、彼らの立場に立って考えてみれば、一定の説得力があります。(だからといって、その主張通りでよい、というわけにはいきませんが)

ウクライナ侵攻のような問題は、さらに複雑になります。西側諸国においては、「民主国家vs非民主国家の戦い」「善vs悪」といった見方をされがちですが、実は、世界の多くの国は、どちらの陣営にも与していません。

本年2月の国連総会では、ロシアによるウクライナ攻撃の非難決議案には、141カ国が賛成(ロシア、ベラルーシ、北朝鮮、シリアなど7カ国は反対、中国など32カ国は棄権、13カ国は投票せず)しましたが、実際にロシアに経済制裁を行っている国は40カ国弱(欧米+日、韓、台湾、豪、NZ、シンガポール等)だけで、中国、インド、トルコなどは、対ロシア貿易を大幅に増大させています。さすがに、積極的にロシアを支持する国は少ないですが、かといって、多くの国は、欧米の側についているわけでもないのです。

それぞれの歴史や地政学的状況によって、理由や対応は異なり、例えば、資源や武器等でロシアに依存している、反米感情がある、欧米中心主義や過去の植民地主義への反発など、いろいろでしょうが、多くの国にとっては、ロシアによる侵攻は悪いことと考えつつも、大国間の対立に巻き込まれたくない、積極的に関与するメリットがない、どの国とも良好な関係を保ち自国の利益に資するようにしたい、ということが言えると思います。

西側諸国の経済力や軍事力が大きいことと、日本がそこに属しているが故に、私たちは世界は西側諸国を中心に回っているように捉えがちですが、国際社会の実相や各国の思いというのは、実は大きく違います。そして本来は、国力に関わらず、それぞれの国が、本当の意味で、尊重されなければならないわけですが、その当然のことが、“大国”においては、きちんと認識されてきていない、という現実があるのではないでしょうか。

■先進国の中でも一部の国の話

新興国・途上国だけではありません。「G7以外の先進国」から見ても、G7については、おもしろくない、というのが本音です。例えば、日本は「国連安保理の常任理事国入り」を、長きに渡り切望しているわけですから、「同じ先進国なのに、自分たちは意思決定に参画できない」ことのフラストレーションは、よく理解できるはずです。

■G7は、合意が前提

G7は、価値観や利害を共有する国、同じ方向を向いて、同じように考えている国同士の集まりですから、(細部の相違はあれど)まとまることが前提です。そして、合意文書についても、関係国間で、外交的に事前に綿密な準備がなされていますので、実際に平場の会議が始まってから、各国首脳がいろいろ勝手を言って、紛糾してしまう、ということも、ほぼありません。

もちろん、万が一にも、G7広島サミットを狙ったテロが発生するといった不測の事態があれば大変なことです(2005年の英スコットランドサミットでは、ロンドンで爆破テロが起こり、死者52名、負傷者700名という大惨事となりました)。警護警備、また、ウクライナやエネルギー、核軍縮問題等、山積する世界の課題に対して、G7としての表明をするために、多くの関係者の方々が尽力されており、そうした努力に対し、大いに敬意を表したいと思います。

■さらにその先へ

国際会議の中には、例えば、気候変動やエネルギー、知的財産権問題等、先進国vs新興国・途上国といった形で、参加国の利害が激しく対立して合意形成に至らないこともたくさんあります。しかしだからといって、ごく一部の利害の一致する国同士で何かを決めたところで、実際にその課題を解決させることはできません。そうした課題に関係するのは、世界に存するほぼすべての国・地域であるからです。

2007年に、ジュネーブWHOで、新型インフルエンザH5N1の検体共有問題を巡って、先進国と途上国が激しく対立しました。これはもう、合意に至るのは難しいのではないかと何度も思いましたが、(日本を含め)両陣営の複数の代表国と、調整をする立場の国とが非公式に何度も集まり、そして、全加盟国での政府間会合を繰り返し、2011年に合意に至った経験があります。(侵攻や戦争といった問題になると、また違ってくるとは思います)

G7開催の盛り上がりに、水を差したいわけでは全くありません。

ただ、自分たち以外から、自分たちはどう見えているか?今の国際社会はどのように動いているか?世界の課題を改善するために、真に必要なことは何か?といったことについて、この世界には多様な価値観や立場があるということを前提に、考え、謙虚かつ果敢に、根気強く行動していくことが、我が国と、そして、世界の未来のために、必要なのではないか、と思う次第です。

◆豊田 真由子 1974年生まれ、千葉県船橋市出身。東京大学法学部を卒業後、厚生労働省に入省。ハーバード大学大学院へ国費留学、理学修士号(公衆衛生学)を取得。 医療、介護、福祉、保育、戦没者援護等、幅広い政策立案を担当し、金融庁にも出向。2009年、在ジュネーブ国際機関日本政府代表部一等書記官として、新型インフルエンザパンデミックにWHOとともに対処した。衆議院議員2期、文部科学大臣政務官、オリンピック・パラリンピック大臣政務官などを務めた。

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