「53人」と「1例」 新型コロナワクチン「因果関係を否定できない」死亡例…認定基準が2種類ある理由 豊田真由子が解説

今般、出演しているテレビ番組で、「新型コロナワクチンと死亡の因果関係」がテーマとして取り上げられ、正確なご理解に資するために、改めてご説明が必要と感じましたので、少し専門的な話になり恐縮ですが、ご説明したいと思います。

何よりもまず、亡くなられた方とご家族に、心からの弔意を表します。大切なご家族を亡くされたご遺族のお悲しみは、いかばかりかと思います。

ワクチン接種を巡っては、様々な意見・立場があります。

本稿は、「予防接種法に基づく制度上、認定される『因果関係』には2種類あり、それがどう異なるのか、そして、その理由はなにか」といったことについて、現行の法律及び行政上の整理を解説する趣旨のものであり、「ワクチン接種の是非」、「推奨か反対か」「個々の因果関係認定の判断が妥当かどうか」といったことに関するものではないということを、申し添えます。

   ◇   ◇

①2023年4月17日、厚生労働省の疾病・障害認定審査会/感染症・予防接種審査分科会は、新型コロナワクチンの接種後に死亡した23~93歳の男女12人について、「因果関係を否定できない」として、死亡一時金などを支給することを決めました。

新型コロナワクチン接種後の死亡例で、国の「予防接種健康被害救済制度」の認定がなされたのは、計53人となりました。

さらに、2023年5月8日に開催された同分科会での報告として、これまで新型コロナワクチン接種後の健康被害として、死亡以外を含む計7,473件の請求を受理し、現在までに2,595件について医療費などの支給を認めました。否認は346件で、その他は審査中ということになります。

②一方、厚生労働省は「新型コロナワクチンQ&A」において、「日本において、『予防接種後副反応疑い報告制度』により、ワクチン接種後の死亡事例が報告されていますが、現時点で、ワクチン接種との『因果関係が否定できない』とされた事例が1例あり、その他の事例についてはワクチン接種との因果関係があると判断されていません。」としています。

https://www.cov19-vaccine.mhlw.go.jp/qa/0081.html

   ◇   ◇

①の「因果関係を否定できない」として認定された方が53人である一方で、②の「因果関係を否定できない」とされた事例が1例、というのはどういうことでしょうか。

これは、①の「健康被害救済」と②の「副反応疑い報告」とでは、目的や認定の基準が異なっているということによるものです。

①の「健康被害救済」は、予防接種法第15条1項の規定に基づき、定期の予防接種等を受けた方が、疾病、障害、死亡した場合において、厚生労働大臣が、審議会の意見を聴いた上で、「当該予防接種を受けたことによるもの」と認定したときに、給付が行われます。

接種した「個々の方の救済」が目的なので、厳密な医学的な因果関係までは必要とせず、接種後の症状が予防接種によって起こることを否定できなければ、対象として、広く救済しようとしています。

②の「副反応疑い報告」は、予防接種法第12条第1項の規定に基づき、医師等が、定期の予防接種等を受けた方が、一定の症状を呈していることを知った場合に、厚生労働省に報告しなければならない、という制度です。

「今接種しているワクチンの安全性に問題が起きていないか」を確認する目的で、死亡など重大な副反応がこのワクチンで発生したと認められたら、「すぐにワクチン接種の全体を止めに行く仕組み」なので、疑いあるものは幅広く報告していただくこととして網を広げつつ、因果関係は、医学的に厳密に判断される、ということになります。

したがって、同一の死亡事例でも、②の「副反応疑い報告」では、因果関係が評価できないとされた場合でも、①の「被害救済制度」では、因果関係が否定できないとして給付対象にされることがある、ということになります。

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新型コロナワクチンに限らず、ワクチンには基本的に「副反応」(例:発熱、頭痛、腫れ等)があり、そして、確率は極めて低いとされてはいますが、死亡のような深刻な副反応が生じることがある、とされています。

それでも、社会全体として見た場合に、リスクとベネフィットを勘案して、接種をすることに意義があるので接種を行う、ということになっています。

「ワクチンを接種しなかったら、新型コロナに感染して、重篤化して亡くなっていたであろう、たくさんのケースが、ワクチンを接種したことで、重篤化しなかった、亡くならずに済んだ」、また、「多くの人が接種をすることで、免疫が獲得され、パンデミックが収束に寄与した」といったことになります。

ただ、実際にご相談を受けて思うのですが、ワクチン接種後に、亡くなる、寝たきりになる、といったことになってしまった方にとっては、「全体として確率は非常に低い」かどうかなんてことは、全く問題ではなく、まさに100分の100というか、「接種しなければよかった」というお気持ちになることも、当然であろうと思います。

…考えれば考えるほど、確率、リスクとベネフィット、そうした言葉で単純に解が見つかるものではない、非常に難しい問題であると、思う次第です。

ワクチンで救われる命があり、ワクチンで失われる命がある。

ひとつ言えることは、行政等に、医学的判断がどうあれ、深刻な状況にある方やご家族に、真摯に寄り添う気持ちを持っていただくことが大切なのではないかと思います。

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【参考】

▽予防接種健康被害救済制度

https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/shingi-shippei_127696_00001.html

疾病・障害認定審査会 (感染症・予防接種審査分科会、感染症・予防接種審査分科会新型コロナウイルス感染症予防接種健康被害審査部会)

▽予防接種後副反応疑い報告

https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/shingi-kousei_284075.html

厚生科学審議会 (予防接種・ワクチン分科会 副反応検討部会)

◆豊田 真由子 1974年生まれ、千葉県船橋市出身。東京大学法学部を卒業後、厚生労働省に入省。ハーバード大学大学院へ国費留学、理学修士号(公衆衛生学)を取得。 医療、介護、福祉、保育、戦没者援護等、幅広い政策立案を担当し、金融庁にも出向。2009年、在ジュネーブ国際機関日本政府代表部一等書記官として、新型インフルエンザパンデミックにWHOとともに対処した。衆議院議員2期、文部科学大臣政務官、オリンピック・パラリンピック大臣政務官などを務めた。

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