血液が乱流する心臓病、眼にも異常の子犬 犬舎の老犬たちに愛され懸命に生きた バギーに乗って味わった外の景色と空気
動物愛護センターなどから保護犬として引き出されるワンコの中には、老犬や病気を抱えたワンコも少なくありません。犬の保護・譲渡活動に取り組む団体、ピースワンコ・ジャパン(以下、ピースワンコ)では、こういった譲渡が難しそうにも思えるワンコも多く引き出し、そしてその命を全うするまで同団体の施設でお世話をしています。
あるとき、ピースワンコが引き出した子犬がいました。ガープという名前です。
■「かなりの重病です」
保護当時のガープは生後5カ月とみられました。新しい里親さんへの譲渡は難しくなさそうにも思えますが、深刻な問題を抱えていました。
先天的に心臓は弁の壁がなく、血流が乱流してしまうという重篤な心臓病を抱え、そして眼球には奇形が見られます。ピースワンコのスタッフが保護後、すぐに獣医師に診てもらったところ「かなり重病で、いつ亡くなってもおかしくない状態です」と告げられました。
悲しんでいても何も始まりません。スタッフはガープが、その命を全うするまで、ずっとお世話をし続ける決意を改めて抱きました。
■興奮しないよう細心の注意を払ってのケア
ピースワンコには「オレンジ犬舎」という施設があります。
「老犬や病気が理由で里親さんがたとえ見つからなくても、最期の瞬間まで幸せに生きて欲しい」
そんな思いのもとで建設された施設では、重大な病気を抱えるワンコや歳を取ったシニア犬などが、介護や治療といったケアを受けながら過ごすところです。
ガープもまた、このオレンジ犬舎で過ごすことになりました。しかし、前述の心臓病の影響で、散歩などでひとたび興奮すると、血が回らなくなって息切れを起こし、歯茎や舌が真っ白になってしまいます。このため、スタッフはオレンジ犬舎にいる他のワンコ同様に、細心の注意を払ってお世話をすることにしました。
少しでも心臓の負担を減らせるよう、フードには水を含めて柔らかくし、少しずつ食べるようスタッフの手からご飯を与えたり、興奮させないようにスタッフたちも急な動きをしないなど、その配慮はかなり細部にわたりました。
■制限の不満・有り余った体力から吠えるようになったガープ
本来であれば、遊びたい盛りの年ごろ。体には病気を抱えながらもガーブはお手もお座りもできることからすごく賢いワンコです。
オレンジ犬舎の中から外を眺めているだけの毎日では体力が余ってしまい、あるときからワンワンワンと吠えるようになりました。
スタッフは考えました。確かにガープを自由に散歩に連れていくわけにはいかない。しかし、制限してしまっても体力が余り、このように吠えてしまうようになってしまう。それならば、ガープをワンコ用のバギーに乗せて、せめて外の空気と景色を感じてもらい、定期的に気分転換をしてもらうのはどうだろうか、と。
スタッフが獣医師に相談したところ、「それくらいなら良いのではないか」という返答でした。結果、ガープはバギーに乗って外へと遊びに行けるようになりました。
■先輩ワンコたちが、ガープを思いやる姿に感動
スタッフによると、重病を抱え制限ある生活をせざるを得ないガープを思いやってか、オレンジ舎にいる他の老犬や他のワンコたちが、ガープの面倒をよく見てくれるといいます。他のワンコたちも、老化や病気を抱えているにもかかわらず、です。他のワンコがガープに接する様子は、まるで孫の世話をしているようで、優しい気持ちが伝わってきます。そして、その愛情を受けたガープも、仲間のワンコたちのことが大好きでした。
尻尾を振りながらコミュニケーションを取る毎日をおくっていましたが、心臓病が悪化してしまい2021年末に虹の橋を渡りました。
重い病気を持っていたガープのように、病気などが原因でどこまで生きられるのか分からないワンコたちがピースワンコには他にもいます。スタッフはこういったワンコたちの世話をし続けていますが、同時に全国の支援者からの寄付などがなければ実現できないことだとも言います。保護犬にまつわるこういった事実がさらに認知されることを願うばかりです。
(まいどなニュース特約・松田 義人)