ケージの中に「処分してください」の手紙 冬の雨の日、動物愛護センター近くに放置された飼い犬 数年経ても心の傷は癒えなかった
それは6年ほど前のこと。寒さが厳しくなりつつある立冬の頃の冷たい雨が激しく降る中、動物愛護センターの近くの場所にペット用のケージが置いてありました。その中にはなんと1頭のメスのワンコの姿が…。
すぐに愛護センターの職員が施設に連れて帰りましたが、よく見るとケージの中には一通の手紙があり、「処分してください」と書かれていました。
■心身ともにぼろぼろに
今どきそんなことをする人がいることが信じがたいですが、この現実を前に職員はただただ保護することしかできませんでした。
人間に裏切られたこと、大雨の中で狭いケージの中で放置されていたことなどから心身がぼろぼろになっていたのでしょう、そのワンコは愛護センター職員にも噛みつき、威嚇するような態度を取りました。
このワンコのことを知った、保護団体・ピースワンコ・ジャパン(以下、ピースワンコ)はすぐにこのワンコを愛護センターから引き出すことにし、「みゆき」と命名。健康面でのケアはもちろんのこと、人馴れトレーニングなどをし、人間に対する信頼をもう一度取り戻してもらえるよう接することにしました。
■数年経っても癒えない心の傷
ピースワンコが引き出した当時、推定4歳ほどだったみゆきは、数年間の人馴れトレーニングなどを経て、気づけば10歳のおばあちゃんワンコになっていました。当初は噛み癖や威嚇することも多くありましたが、スタッフの献身的なケアの効果があり、元々の「お散歩大好きな甘えん坊」の片鱗が表に出るようになり、スタッフの前で笑顔を見せてくれるようになりました。
また、一時、前庭疾患(体の平衡感覚を失う病気)を発症し、大好きな散歩をするのが難しい時期もありましたが、これも獣医さんの尽力で、少しずつ回復することができました。おばあちゃんワンコになっても散歩好きは変わりがありません。散歩が好きすぎて、1時間歩いてもなかなか帰りたがろうとしないほどです。
ただし、おばあちゃんワンコになっても、どうしても変わらないこともありました。
それは、ドッグランなどで遊んでいるとき、スタッフの姿が見えなくなると、悲しそうに鳴くことです。
信頼していたであろう元飼い主にケージに入れられ、見知らぬ場所に放置され、不安の中で過ごしたあの日のことを、みゆきは今も心の傷として背負い続けているようにも見えました。
■「家族の中心は犬猫」という里親さんが現れた!
どんなに穏やかで甘えん坊だとしても、おばあちゃんワンコとなったみゆきです。シニア犬を迎え入れる新しい里親さんはそう多くはありません。スタッフは、ピースワンコの施設で生涯を過ごすのかもしれないと、ある程度の覚悟を決めていました。
しかし、そんなある日のこと。みゆきのバックボーン、病歴なども全て理解した上で「ぜひうちで迎えいれたい」と申し出た人がいました。
その人は、自身も犬や猫の保護活動を行い、たくさんの尊い命を救い続けてきていると言います。また、自宅を犬猫が快適に暮らせるようリフォームしたり、大きなドッグランを作ったり。「家族の中心は犬猫です」と言う優しい人でした。この上なく、みゆきにピッタリの里親さんとの出会いが繋がりました。
■「ずっとここで暮らしていたんじゃないか」
辛い過去を持ちながらもおばあちゃん犬になったみゆきに、やっと幸せな第2の犬生への道が開け、2022年の暮れに、みゆきはピースワンコを卒業することになりました。
ピースワンコのプロジェクトリーダー・安倍誠さんが、3時間かけて新しい里親さんの家へみゆきを送り届けました。施設を後にする際のみゆきの表情は柔らかく「本当に良かった」と喜ぶスタッフでした。
後日、みゆきを迎え入れた里親さんからメッセージが届きました。
「ずっとここで暮らしていたんじゃないかと思うほど、すぐに馴染むことができた」とのことで、新しい家で、先住犬や先住猫たちに迎えられ、穏やかに暮らしていることを教えてくれました。
みゆきは、長い時間をかけてこの里親さんとの縁を待ちのぞんでいたのかもしれません。これからのみゆきは、優しい里親さん、仲間のワンコやニャンコと一緒にずっと幸せに暮らしていけることでしょう。
(まいどなニュース特約・松田 義人)