歯を剥き出し噛みつかんばかりの元野犬 優しく根気強く接したスタッフ 思いが通じた数カ月後、リードをつけての散歩が実現

犬の「殺処分ゼロ」を目指し、犬の保護および譲渡活動を行う団体、ピースワンコ・ジャパン(以下、ピースワンコ)。同団体にやってきた元野犬のワンコ、ルード。推定2018年生まれのミックス犬ですが、保護した当2019年当初、ルードは人間に接したことがほとんどないワンコでした。

触れようとする同団体のスタッフに歯を剥き出し威嚇。今にも噛みつかんばかりです。そんなルードにスタッフは「このワンコは、他のワンコよりもずっと高度なトレーニングが必要になるだろう」と覚悟をしました。

■抜きん出て警戒心が強く、噛みつこうとするルード

元野犬の保護犬は、多頭飼育崩壊で行き場を失ったワンコや、捨てられたり何らかの原因で元飼い主さんを失ったワンコとは性格が大きく異なります。人と接したことがないために怖がりで警戒心が強く、ときには攻撃的になってしまう場合もあるので、トレーニングには危険が伴うこともあります。

ピースワンコの西山犬舎には、元野犬で保護され、人馴れしていないワンコたちが生活していますが、ルードもしばらくの間、ここで暮らすことになりました。ここでもルードは他のワンコたちよりも警戒心が強く、スタッフが少しずつ距離を縮めようとするとすぐに察知し、逃げ出そうとするか、逃げられないとわかると歯を剥き出しにして噛みつこうとしてきます。

それでもスタッフは諦めません。噛みつこうとするルードを前に、スタッフは「怖くないよ。大丈夫だよ」と声をかけ続け、繰り返し手を伸ばします。

■少しずつ心を開いてくれつつも、リードを前にまた大暴れ

警戒心が強く「近寄るな」「噛みつくぞ」と威嚇し、吠えまくっていたルードに変化が訪れました。威嚇したり、噛みついてくることが少なくなり、落ち着いた表情でスタッフを見つめるようになりました。「この人は敵じゃない」「自分に攻撃をしかけるわけではない」「むしろ優しく接してくれようとしているのかもしれない」。ルードはそんな風に理解したのかもしれません。頬に触らせてくれ、なでさせてもくれるようになりました。

人間との触れ合いも嫌がらなくなったルードを前に、「一歩前進した」と安堵するスタッフでしたが、しかしルードは次のステップでもまた壁にぶち当たります。

人馴れトレーニングの一環でルードを散歩に連れていこうと、その体にリードをつけようとすると、これまた大暴れ。全身でリードを嫌がり、そして嚙みちぎろうとします。

落ち着かせるために一度犬舎から外へ連れて行き、広い空間に放しましたが、ルードが落ち着くことはありませんでした。逆に、さらに激しく暴れるようになり、ついには緊張しているからか、恐怖なのか、お漏らしもしてしまいました。

■ハーネスに馴れ散歩に行ける日が来ることを待つスタッフ

なかなか手強いルードですが、仕方ありません。それまでは野犬として自由に走り回っていたであろうワンコです。もちろん、ハーネスもリードも知りません。人間と接したことはおろか、人間に連れられての散歩も初めての体験です。

そういったバックボーンを考えれば、過剰に警戒することも「自分の身を、自分だけで守り抜いて生きてきた」とも考えられます。過剰な警戒心から極度に嫌がるルードを前に、またスタッフは優しく接します。

「わかったよ、ルード。首輪からのリードが嫌なんだね。じゃあ、ハーネスからのリードはどうかな」と、今度はハーネスに馴れてもらうことにしました。スタッフのことを信頼してもらえるように、おやつをあげるなどの工夫も取り入れることにしました。

そして、まずは「ハーネスに慣れる」ことを目標にし、体につけさせてくれても、すぐには散歩に行かず、様子を見るなどし、ルードの態度が変わってくれることを根気強く待つことにしました。

■散歩もリードもやっぱり苦手で大不満

ハーネスに対しても「何をするんだ」と抵抗していたルードですが、ようやく体につけることに慣れました。そこでスタッフは、ルードと一緒に初めての散歩に出掛けてみることにしました。犬舎の中にいるよりも表情は少し柔らかくなったようにも見えるルードですが、ここでもまた警戒心からか、なかなか前に進もうとしません。

「自由に動き回れる」はずの屋外空間でリードをつけられていることに対し、ルードは強い不満があるようで、後退りしたり立ち止まったり、リードを噛みちぎろうとしたり、思うように進んではくれませんでした。

■数カ月後、ルードは常に笑顔で過ごすようになった!

根気強くルードに接したスタッフの成果は数カ月後に訪れました。ハーネスからのリードをつけての散歩ができるようになり、スタッフや他のワンコとの生活に安心することができたのか、常に笑顔を見せてくれるようになりました。引き出した当初からは打って変わって優しく楽しそうな表情を見せてくれるようになったルードを前に、「本当に良かった」とスタッフは喜びました。

人間に対する恐怖心から、威嚇してしまうワンコは確かにいます。しかし、こういったワンコには、愛情をたっぷり注ぎ根気強く心を開いてくれるように接することで、逆に人間に対して強い信頼感を抱き、深いパートナーになってくれるケースは多くあるものです。

スタッフはルードの好例を胸に、改めてこれからも多くのワンコに心を開いてもらえるよう、努力し続けたいと思うのでした。

(まいどなニュース特約・松田 義人)

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