覆面パトが追突事故→警察車両の任意保険未加入知らされ… 兵庫県警では6割超、全車加入なら1億「緊急走行する車を優先」
「実は…警察車両は任意保険に入っていないんです」。兵庫県警の覆面パトカーに追突された男性(48)は事故後、謝罪に来た警察幹部の言葉に耳を疑ったという。調べてみると、兵庫県警の警察車両2064台中、6割以上に当たる1372台が未加入であるという。県警の担当者は「事故を起こす可能性の高い緊急走行のあるものを優先的に加入している」と説明する。識者はその真意を推測する。多数の車両を保有する民間施設や行政機関は一般的に、任意保険に加入した場合と加入しない場合の保険料と賠償金の試算をして判断するケースが多いといい、「東京のタクシー会社でも、入っている会社と入っていない会社とに、分かれます。弁護士費用も含めて、年間の賠償が低いのであれば、入らない。得かどうかの判断です。覆面パトカーも事故を起こす確率が低いとは思えないですが…」とする。
■課長が菓子折り持って謝罪
事故が起きたのは2017年7月1日朝7時半ごろ。車で通勤していた男性は兵庫県の阪急西宮北口駅から南西約700メートルの交差点で信号待ちをしていた。すると、警察官に呼び止められ、指示通り、道路脇に寄せて停止した。
直後、「ドンッ」という衝撃。トヨタのミニバンタイプの車に追突され、男性の車の右後方部が凹んでいた。追突してきた車は西宮署の覆面パトカーだった。「普通は保険会社を通してやり取りすると思っていたのですが…。保険会社がどこか尋ねても、どの警官も知らなかったんです」と男性。後で連絡をもらえるよう約束し、事故処理を終えて病院へ。首や肩の痛みは頸椎捻挫と診断された。
その夜、西宮署の交通課長が、男性の家に菓子折りを持って謝罪に来た。「実は、警察車両は任意保険に入っていません。自賠責保険の対応になるので、手続きに時間が掛かり、車の修理費や治療費などの入金が遅れてしまいます」。男性は驚き、加入していない理由をただすと、「保有台数が多いので、全部に掛けられないんです。申し訳ありません」と課長。何度も頭を下げられたという。
男性は対応が煩わしくなり、自身の保険に付けていた弁護士特約で対応したが、「手続きは時間がかかるし、きちんと治療費を支払ってくれるか不安だった。大きな事故だったら余計に怖いですよね」と打ち明ける男性。警察車両と一般車の事故のニュースを見るたびに思い出すといい、今年5月、自身のSNSに体験をつづった。
■県警は過去に試算「全車両入ると年間1億数千万円」
兵庫県警によると、警察車両の使用台数は長年、大きく変わっていない。今年は四輪車が2064台あり、任意保険への加入車が692台。そのうち、白と黒に塗装されている「パトカー」や「ミニパト」が636台。加入している残りの56台は流動的で、機動捜査隊へ配備する捜査車両29台などが含まれている。サイレンを鳴らして緊急走行するかどうかが、大きな基準になっているという。
一方、未加入車1372台の内訳は、交通事故処理車などが121台、捜査用車両の覆面パトカーが721台、そのほか留置人の護送や機動隊収容バスなど530台。担当者は「過去に全て加入した場合を試算しましたが、1年間で1億数千万円掛かるので、実際には難しくて…」と事情を話した。現在の加入台数で保険料は年間1377万円という。
また、二輪車は1263台所有しており、大型バイクの白バイ162台だけが加入。「高速道路も走って追いかけられる白バイは緊急走行する可能性があるので入っている」との理由だった。
警察庁に各都道府県の任意保険加入状況や基準を尋ねると、「把握していないため、各都道府県の警察にお問い合わせください」と返ってきた。
(まいどなニュース・山脇 未菜美)