「うちの木じゃないのに、なぜこんな苦労を…」手入れできない隣人に代わって、“越境”してきた木の枝を剪定 費用の負担はどうなるの?【弁護士に聞いた】

盛夏を前にめきめきと成長する植物たち。草むしりや剪定に忙しい人も多いかもしれません。隣の家から木の枝が敷地内に伸びてきてしまい、対応に困る場合も。私の友人Mさんも、隣の敷地に植えられた松の枝に悩んでいました。

■隣の家に生える松の木 最近放置気味で…

Mさん(40代、神奈川県在住、自営業)は中古戸建て住宅を購入して5年目になります。近所付き合いは顔を合わせると挨拶する程度です。深い交流はありませんが、トラブルもなく平和に暮らしてきました。

ただ、Mさんには最近気になることがあります。引っ越しした当時は気にならなかった隣の家の松の木が、ここ数年でグングンと成長しているのです。そして、今年はついにMさんの家のベランダまで、松の木の枝が伸びてきてしまいました。

■ベランダまで伸びてきた松の木の枝を切りたい!

Mさんはベランダに洗濯物を干しています。日常的にベランダを使用しているため、正直松の枝がとても邪魔で切りたくて仕方ありません。日当たりが悪くなるのも気になります。

隣の家は70代男性の一人暮らしです。近所の人の話では、Mさん家族が引っ越してくる少し前に、奥さんが他界したとのこと。男性は元気な様子ですが、高齢なので庭の手入れまで行き届かないようです。

■隣の家の人にお伺いを立てて…我が家の敷地から切ることに

Mさんは夫とともに、松の枝の件を相談するべく隣の家を訪問することにしました。

インターフォンを押すと、男性はすぐに玄関まで来てくれました。Mさん夫婦がそろっているので、少し驚いたようです。Mさん夫婦は事情を説明し、男性に松の木を切ってほしい旨を伝えました。すると、男性から「私も気になっているんだが、関節が痛くて自分で切れそうにはないんだ。申し訳ない」と言われてしまったのです。

本当はお金がかかってでも庭師を呼んで切ってほしかったのですが、そこまで言って良いのかわかりませんでした。結局、男性に許可を得て、敷地内に伸びた枝はMさん宅が切ることに。そのために、Mさんは高枝切りバサミを購入しました。切った枝を処分するのもMさん宅です。後日、男性から「こちらも助かったよ。ありがとう」とお礼を言われました。

■「ありがとう」とお礼を言われたものの

邪魔になっていた枝がなくなりすっきりとしましたが、一方でMさんの心は晴れずにいました。お礼こそ言われたものの、自分の家のものではない木の手入れはやはり面倒な仕事でした。高枝切りバサミの購入代金や切った枝の処分の手間などもMさんの負担になったことまで気になってしまいます。

「なんでうちの木じゃないのに、こんなに苦労しなきゃいけないの…」と、Mさんは筆者に愚痴をこぼしました。木は成長しますから、来年もまた同じように剪定しなければならないかもしれません。「隣人関係がこじれるのは嫌だし、仕方ないよね…」とMさんは言っていましたが、どうするのが正解なのでしょうか?

■弁護士の見解は

とりで法律事務所の寺田塁弁護士に聞いてみました。

ーー土地に侵入してきた隣の敷地の木の枝について、法律上ではどのように定められているのでしょうか?

これまでは、民法233条1項で「土地の所有者は、隣地の竹木の枝が境界線を越えるときは、その竹木の所有者に、その枝を切除させることができる。」と定められていたので、Mさんは隣地の男性に対して枝を切除するよう「請求できる」にとどまっていました。

もっとも、隣地の竹木の所有者が請求に応じないケースもあり、この条文をもとに枝の切除を求める訴訟や強制執行まで土地の所有者に求めることは酷だとの指摘もあったため、新しい条文が出来ました。(令和5年4月1日施行)

ーー新しく施行された条文によって、どのように変わったのでしょう?

改正された民法233条3項は、上記の同条1項を原則として残しつつ、「竹木の所有者に枝を切除するよう催告したにもかかわらず、竹木の所有者が相当の期間内に切除しないとき」(同条3項1号)には「土地の所有者は、その枝を切り取ることができる」と定めています。

これらの条文によって、本件でMさんは今後、隣地の男性に対して越境してきた枝を切除するように催告した上で男性が相当の期間内に切除しない場合、Mさん自ら枝を切除することができます。(ただし、枝の切除が権利濫用になる場合は除く)

ーーこうしたケースで枝の切除を行う場合の費用は、どちらの負担になりますか?

この場合、Mさんが気にしている枝の切除にかかった費用ですが、隣地の枝が越境していることでMさんの土地所有権が侵害されていると考えられることや、本来なら隣地の男性が枝の切除をすべき義務を負い、Mさんの作業によりこれを免れていると考えられることから、法律上は、Mさんが枝の切除のために支出した費用のうち相当の範囲について隣地の男性に請求することができる可能性があります。

もっとも、負担費用を請求できるとしても、具体的に請求できる費用の範囲や金額について争いになるケースが考えられます。

例えば、Mさんが枝の切除のために購入した高枝切りばさみは購入者であるMさんの財産になる以上、隣地の男性が購入費用を負担すべきか法律上争いになる余地がありそうです。また、今後、仮に庭師に剪定を頼む場合にかかる費用の額や枝の処分にかかった費用なども争いになり得ます。

ーー争いにならないためには、どうしたらよいでしょう?

上記のような枝の切除に関する費用負担について、隣地の男性に一定の費用負担をお願いするなど、当事者同士が話し合って解決することが望ましいケースも多いです。

話合いがうまくいかない場合には、枝の切除費用の負担を求めて民事調停や民事訴訟を起こすなどすべきかはよく検討する必要があります。

当事者同士の話合いが難しいなど、個別具体的な事案によっては弁護士などの専門家に相談をした方が良いケースもあるでしょう。

   ◇   ◇

このように、隣地から伸びてきた枝について、相手に切除を請求しても応じてもらえない場合には多くの場合「切っても構わない」という法律になっています。

その費用について、隣地側に請求できるものもありますが、場合によっては争いの種になる場合も。

Mさんのように話し合いができる間柄であるのなら、費用や負担について伝えて双方が納得できるように交渉しておくことも必要になるでしょう。

(まいどなニュース特約・わたなべ こうめ)

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