「もの言う株主」香港ファンドと対立激化…エレベーター大手フジテック創業家が“反撃”へ 注目の株主総会前に取締役候補者2人を取材

エレベーター大手フジテックの創業家と、アクティビストファンド(もの言う株主)である香港投資ファンド「オアシス・マネジメント」との対立が深まっている。創業家出身で会長だった内山高一氏が今年3月に解任されるなど混乱が続いていたが、創業家側も“反撃”に。今月下旬の定時株主総会に向け、社外取締役の選任を求めるといった株主提案をしている。会社の行く末を大きく左右する総会を前に、社外取締役の候補者2人に一連の騒動に対する受け止めを聞いた。

■これまでの経緯

フジテックを巡っては、株式の約17%を保有するオアシスが、フジテックから内山氏ら創業家に対する便宜供与があったと主張。今年3月の取締役会で内山氏は会長を解任された。さらに5月、内山氏の後任だった岡田隆夫社長ら生え抜きの社内取締役3人を総入れ替えする人事を発表し、ファンド所有の海外企業の社長らを推薦した。

防戦一方だった創業家側も反撃に出た。会社がオアシスに支配され、特定株主の利益を優先しているとして、内山氏が経営する会社ウチヤマ・インターナショナル(フジテック株式の約10%を保有、以下ウチヤマ-と表記)を通じて株主提案を行った。高額配当(1株あたり100円を3年間継続)の実現やコーポレートガバナンスの徹底のための定款変更などのほか、独自の社外取締役8人の人事案を提示している。6月21日の株主総会で話し合われる。

■「今の取締役会はオアシスの言いなり」

この社外取締役候補者のうち、元日興コーディアル証券株式会社(現SMBC 日興証券株式会社) 取締役会長の木村一義氏(79)、元ボストンコンサルティンググループパートナーの沖本普紀氏(60)に話を聞いた。

「今の取締役会は実質的に特定の株主の言いなりになっている。独立性に関して大きな懸念がある」。2人はそう口を揃える。実際、2月下旬の株主総会終了後には、オアシスが取締役会に「8つの要求リスト」として書簡を送付した。こうした行為自体がコーポレートガバナンスの規範に反していると指摘する。

そもそも、オアシスが主張する便宜供与疑惑について創業家側は一貫して「虚偽の情報である」と否定している。例えば、フジテック社員である内山氏の子息に過大給与を支払ったり、大学の学費を同社に出させたりしたという疑惑をオアシスは持ち出したが、事実無根だとしている。内山氏が私邸の庭の手入れにフジテック社員を使っているという疑惑についても、作業員がフジテックの作業着を着ていたことからオアシス側が捏造したものだという。

木村氏は「正直、(内山氏が解任された)臨時総会の時点では、オアシス側との圧倒的な情報格差があったと思う。一方的に出してきた疑惑に対してしっかりと反論する情報を提示できていなかった」と振り返る。沖本氏は「オアシスが創業家のプライベートを侵害し、捏造した情報を喧伝していることは看過できない。株主には冷静にご判断いただきたい」と話す。

■取引先から漏れる不安の声

騒動が始まって以来、オアシスは経営の指針や事業計画を一度も明示しておらず、短期的なガバナンスの議論に終始している。木村氏は「エレベーター事業は20年、30年と長い時間軸で取り組むもので、その中で結びついた信頼関係が安全の土台になっている」「取引先や従業員が一番不安に思っているはず。オアシスから、そういった部分へのディスクローズ(情報開示)がなされていないのは大きな問題」とする。

フジテックは国内約7万台のエレベーターの管理を担い、その中には防衛施設や空港も含まれる。アクティビストの台頭を受け、多くの取引先から危惧する声が書面などで届いているという。例えば不動産会社ケン・コーポレーション(東京)は5月下旬、代表取締役社長の名義で「利用者に安心してエレベーターをご利用いただくためには安定した事業戦略が必要、そして何よりも信頼できる経営者が望ましい」「正常化に向けて動き出したことを大変心強く思っている」といった書面をウチヤマ-に送付し、株主提案に賛同する意思を表明した。

■「ライブドア」でアクティビストと対峙した経験も

アクティビストファンドが上場企業の株主となり、経営改革をすること自体は「功罪両方あると思う」と沖本氏は語る。オアシスがフジテックの株主になって以降株価は上昇しており、株主のリターンが上昇していることは事実だ。しかしながら「オアシスが取締役会に対して命令をしていることを含め、ネガティブな影響があまりにも大きい」と指摘する。何よりも、「現在の取締役会がオアシスの言うことを唯唯諾諾と受け入れている」ことに疑問を感じているといい「取締役会自体の透明性を高めないといけない」と訴える。

沖本氏はかつて、上場廃止後のライブドア(当時LDH)のCFOとして、大株主であるアクティビストファンド数社と対峙した経験を持つ。結果的に傘下の事業会社を切り売りする形で株主還元を行ったが「その過程でアクティビストファンドの論理も理解したつもり。今回のフジテックの事案においても、会社側と株主の対話チャネル・通訳としてより良い方向に機能できればと思っている」と話す。

取締役に就任できた場合の抱負として、「オアシスが言う事だから、あるいはウチヤマ・インターナショナルが言うことだから、ということはなく、独立した取締役として是々非々で責務を全うしたい」と沖本氏。木村氏は「日々懸命に業務に取り組んでいる従業員や長期にわたる信頼関係が不可欠なエレベーター事業のお客様の不安をとても危惧している。株主の皆さんには、改めて冷静にファクトを見て、ご判断いただきたい」と呼び掛けた。

(まいどなニュース・小森 有喜)

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