「薬の量が増えたのに、安くなってる!?」明細を見てみると…立地やお薬手帳の有無で変わる、薬局「お会計」のフシギ【FPが解説】
先日、駅の階段を踏み外して左足首を思い切りひねってしまい、やや重めの捻挫をしてしまいました。筆者はこれまで病気やケガにはあまり縁が無く、医者にかかることがほぼ無かったのですが、今回のケガで2カ所の整形外科を受診し、別々の薬局で薬を処方してもらったことがきっかけで、これまであまり関心を持っていなかった医療費の明細の仕組みについて、初めて知ることがたくさんありました。
■医療費の違いに疑問
捻挫をしたのは土曜出勤の日の朝でした。足を引きずりながら職場までたどり着き、その日の業務を終えたのが17時でしたが、足が腫れて思うように歩けなかったため、その時間からでも診てもらえる職場近くの整形外科を探して受診しました。
診察後に処方箋を受け取り、整形外科の近くにある薬局で『湿布14枚、痛み止め薬5日分』を受け取り、960円を支払いました。
4日後、足の腫れや痛みがまだあり、痛み止めの薬も欲しかったので、今度は家の近所の整形外科で改めて診てもらいました。
この時も処方箋を渡され、内容を見ると『湿布28枚、痛み止め薬と胃薬それぞれ7日分』でした。
前回より薬の量が増えた分、少し費用が高くなるだろうと思っていたところ、会計時に「670円です」と言われ、少し戸惑いながら支払いを済ませることに。
この時に、前回より薬の量が多いのに「なぜ支払いが安いのだろう?」と不思議に思ったことがきっかけで、手渡された調剤明細書の項目と点数に関心を持ったのです。
■調剤明細書の点数の仕組み
薬局でのお会計は『調剤報酬点数』で決まるようになっています。薬そのものの値段だけでなく他にも色々な項目の費用がかかっていますが、これらは点数で算出されるようになっており、1点あたり10円で計算します。
薬を受け取る際に一緒に渡される調剤明細書には項目ごとに点数が記載されていますが、これが『調剤報酬点数』です。この点数の総合計に10円を乗じると、調剤にかかる費用が出るようになっており、その金額に対してそれぞれの年齢層に応じた自己負担割合(例えば6歳以上70歳未満の場合は3割負担)が、実際の支払金額になります。
調剤報酬点数は以下の4項目で構成されています。
・調剤技術料:調剤基本料、薬剤調整料、各種加算料の3項目に分かれており、各薬局が備えている機能やサービスの違いにより点数が異なる
・薬学管理料:薬剤師が患者の使用している薬の情報を記録・管理したり、情報提供する時の点数
・薬剤料:薬そのものの点数
・特定保険医療材料料:糖尿病治療で使用するインスリンのような特定の医療材料の点数
■薬の量が多かった日の方が支払金額が安かったのはなぜ?
上記の点数の仕組みを確認した上で、今回利用した2カ所の薬局の調剤明細書を比較してみました。
◇ ◇
【A薬局(土曜19時に利用)】
・調剤技術料 180点
・薬学管理料 107点
・薬剤料 32点
・特定保険医療材料料 0点
=点数合計 319点(3,190円)/ 自己負担額(3割負担) 960円
【B薬局(水曜15時に利用)】
・調剤技術料 87点
・薬学管理料 67点
・薬剤料 68点
・特定保険医療材料料 0点
=点数合計 222点(2,220円) / 自己負担額(3割負担) 670円
◇ ◇
まず、調剤技術料の点数から見ていきましょう。2倍以上の差がありますが、A薬局には各種加算料として『地域支援体制加算』『夜間・休日等加算』という記載がありました。
▽『地域支援体制加算』とは?
地域医療に貢献している薬局を評価するもので、在宅薬剤管理の実績の有無や夜間休日対応の実績の有無などが評価項目としてあり、評価に応じて点数が加算されます。地域包括ケアシステムの構築を推し進めるための国のねらいもあります
▽『夜間・休日等加算』とは?
平日19時(土曜は13時)~8時までの間、日曜祝日、年末年始の12/29~1/3のいずれかで、薬局が調剤を行った場合に40点加算されます
A薬局は、地域医療に貢献しているという一定の評価を受けている薬局であるということです。また、土曜の19時に利用したため、夜間加算対象になっていたこともわかりました。
◇ ◇
次に、薬学管理料の点数の違いですが、A薬局には『重複投薬・相互作用等防止加算』という記載がありました。
▽『重複投薬・相互作用等防止加算』とは?
薬の服用歴に基づいて、薬剤師が処方した医師に照会を行い、処方に変更が行われた場合に点数が加算されます
実は、A薬局でお薬を受け取る際に、1週間前から胃の調子が悪く服用していた胃薬とまったく同じものを処方されていたため、まだ一定数の残りがあることを伝え、薬剤師から医師に連絡を取って確認の上で胃薬は受け取りませんでした。
このやり取りが処方の変更にあたり、加算対象になったようです。
◇ ◇
そして3つ目の項目である薬剤料は、薬そのものの点数です。B薬局の方が湿布も服用薬も多く処方されていたため、B薬局の方が点数が高いことには納得がいきます。
■お薬手帳の有無や薬局の立地でも医療費に差が!
また、上述の薬学管理料の中には『服薬管理指導料』という項目もあり、一定の点数が発生します。これは薬剤師が患者の使用している薬の情報を記録・管理したり、情報提供や説明をすることに対する報酬にあたります。
実はこの『服薬管理指導料』の点数は、お薬手帳を持参することで差し引かれることを、ご存知でしょうか?お薬手帳があると、過去の薬の使用履歴や現在服用中の薬についての情報が一目でわかるため、医師や薬剤師が薬を処方する際の大切な情報源になるからです。
ただし点数が差し引かれるのは、原則3カ月以内に同じ薬局に再度処方箋を持参しお薬手帳を提示した場合、もしくは特別養護老人ホームの入所者の場合が該当となり、14点(140円)引かれます。
そして、薬局の立地や規模によって『調剤基本料』の点数(費用)も異なります。これは調剤技術料の中の項目にあたりますが、以下のような違いがあります。
◇ ◇
・街中などにある小さな個人経営の薬局 42点
・病院の前にある薬局(門前薬局) 26点
・チェーンの薬局 32点/21点/16点
・病院内にある薬局(敷地内薬局) 7点
◇ ◇
なぜ薬局によって点数に差が出るのでしょうか?
例えば病院内にある薬局は多くの患者が利用すると予想されるため、効率的な経営ができるという前提のもとで、他と比べると点数が低くなっています。
かたや、街中の個人経営の薬局は、地域に根差したサポートが求められます。例えば地域の住民が病気になっても自宅で住み続けられるように、個人のお薬の情報を継続的に把握して在宅医療の提供などに大きく関わったり、24時間対応を求められる場合もあるため、労力がかかるという考え方から、高い点数がつけられています。
この薬局の種類分けの考え方は、国から求められる役割や機能に応じて、2016年4月の調剤報酬改定から始まりました。
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日ごろ、医療費がどのような仕組みで計算されているかについてあまり気にせず、請求された金額を支払っている方が案外多いのではないかと感じています。
今後、薬局でお薬を処方してもらう機会があれば、調剤明細書のどのような項目にどれくらいの点数(費用)が加算されているのか、ぜひ確認してみてください。
薬局や薬剤師が提供するサービスへの対価である調剤報酬は2年に1度見直されており、各項目ごとにも細かく定められています。
また、お薬手帳については薬局でもらう冊子だけでなく、スマートフォンで管理できる無料アプリのサービスもあります。筆者はこれまでお薬手帳は作っておらず、薬局で聞かれるたびに「お薬手帳は持っていません」と伝えてきましたが、今回を機に自身のスマートフォンにお薬手帳アプリをインストールして活用することにしました。
お薬手帳は医療費の節約になることもあるというメリットのみならず、薬を処方してもらう場面で患者側の安心材料にもなるという意味でも、まだ持っていないという方は手帳の作成を検討されてみてはいかがでしょうか。
実際のところ、病気やケガの時に節約を考えるのは余裕も無く、現実的ではないかもしれませんが、医療費に限らず、普段あまり気にせず支払っているものや、仕組みを理解できていない費用があれば、改めて調べてみることで生活費の節約に繋がる発見があるかもしれませんね。
◆福永涼子(ふくなが・りょうこ)FPオフィス「あしたば」のファイナンシャルプランナー(CFP)。2001年にFP資格取得しFP仲間と共に子どもの金融教育を推進。その後、銀行での運用相談業務を経て現職に至る。自身の経験もふまえた「働く女性や母親の視点」でのお金に関するアドバイス&サポートには定評がある。年間約250件の個別相談を実施。