「看護師の肩代わり状態」浮き彫りに 子どもに付き添い入院の保護者…酸素や点滴が付く中でのシャワー介助、経鼻経管栄養や気管切開のケアまで
子どもの入院において、付き添い入院を希望する・しないにかかわらず「付き添いが必須だった」人が7割--。そんな調査結果が、NPO法人キープ・ママ・スマイリング(東京都中央区)の「入院中の子どもに付き添う家族の生活実態調査2022」で分かりました。また、付き添い中に行った世話やケアの内容については、「食事介助・排泄ケア・入浴介助・服薬」など、厚生労働省のルールで本来禁止されている看護師の肩代わりとなるような「労力提供型の付き添い」であることが分かったそうです。
調査は、2018年1月~2022年12月の期間中に、0~17歳の子どもの入院に付き添っていた人(病室の泊まり込みだけでなく、面会・通いによる付き添いも含む)を対象として、2022年11月~12月の期間に実施され、有効回答数は3643件でした。
調査によると、付き添い入院を希望する・しないにかかわらず、「付き添いが必須だった」人は70.8%、「病院から付き添い入院の要請があった」人は79.1%、「付き添い願い書に署名し提出した」人は70.6%という結果になり、付き添いに対する選択権が与えられず、希望していないにもかかわらず、体裁としては親の希望で付き添っている実態が明らかとなりました。
また、「泊まり込んで付き添う理由を説明されましたか」という質問には、48.3%の人が「説明を受けていなかった」と回答。
一方、付き添いの理由について説明を受けた1694人に対して、「付き添いについて説明された内容」を5つの選択肢のなかから複数回答可で答えてもらったところ、「子どもが自分で身の回りのことができないから」(60.3%)、「親が一緒にいたほうが子どもが安心するから」(59.9%)が上位を占めたほか、「マンパワー不足で看護師がすべての世話をできないから」(15.6%)という説明を受けた人も1割強いることが判明しました。
次に、全回答者に対して、「1日あたり世話やケアに費やした時間」を調査したところ、「21~24時間」(25.5%)が最も多かったほか、1日6時間以上を費やした割合は全体の80.9%に上っています。
さらに、「付き添い中に行った世話やケアの内容」について複数回答可で答えてもらったところ、「見守り(診察・治療・検査等への同行を含む)」(94.4%)、「排泄ケア(オムツ交換を含む)」(90.1%)、「食事介助(授乳、ミルクの準備・哺乳、経管栄養の準備・注入を含む)」(88.2%)、「精神的支援(子どもを抱きしめる、子どもの気持ちを聴く、子どもとよく話し合うなど)」(87.8%)、「寝かしつけ」(84.4%)、「清潔ケア(入浴介助、清拭、汚物や嘔吐物の処理など)」(81.0%)、「服薬」(78.7%)などが挙げられ、厚生労働省のルールで本来禁止されている看護師の肩代わりとなるような「労力提供型の付き添い」の実態が明らかになりました。
なお、「その他」(9.0%)の回答では、「気管切開ケア、人工呼吸器の管理、排痰ケア、口腔ケア、インスリン注射、腹膜透析、尿量の測定、脳波検査の発作マーキング、補助人工心臓装着に伴う消毒作業の補助」などが挙げられており、医療的ケアを担っている人が少なくないことがうかがえます。
また、「付き添い中に行った世話やケアのうち、看護師にまかせたいこと」について複数回答可で答えてもらったところ、「清潔ケア(入浴介助、清拭、汚物や嘔吐物の処理など)」(41.3%)、「見守り(診察・治療・検査等への同行を含む)」(29.7%)、「服薬」(27.9%)、「食事介助(授乳、ミルクの準備・哺乳、経管栄養の準備・注入を含む)」(22.1%)などが挙げられたその一方で、「看護師にまかせたいことはない」と回答する人が31.3%に上り、子どもの世話やケアは親が行うことが当然だと受け止めている人、あるいは何でも行いたいという要望を持つ人が少なくないこともうかがえます。
なお、「看護師にまかせたいケアの理由」として以下のようなコメントがあり、「労力提供型」の付き添いが常態化することにより、治療効果が低下し子どもの安全・安心が脅かされることが懸念されました。
◇ ◇
【服薬】
・寝不足の状態や消灯後の暗い中で服薬をセットせねばならず、間違えて薬を飲ませてしまった。
・薬の管理から服薬まで親が担い、看護師がチェックする。過去数回、薬の種類に漏れがあったが、責任の所在があいまいで、親が自責の念にかられた。
・常に寝不足で、注意力散漫で薬の管理を間違えそうになった。
・服薬時、私が寝ていても「薬の時間です」と起こされた。
・服薬のたびに子どもが泣いたり吐いたりしてうまく飲ませられなかった。
【清潔ケア】
・CV(中心静脈カテーテル)や点滴がある状態でのシャワーなどの介助はハードルが高い。
・酸素も点滴も付いている中でのシャワーを浴びさせて自分のシャワーもする(しかも大体20分以内)のはすごく大変なので、お風呂だけは入れてほしい。
・ドレーンやペースメーカーなどが付いた状態での入浴や清拭は、医療的な素人だと恐ろしかった。
【食事介助】
・食事介助では誤嚥や窒息の危険もあるため、見守りをしてほしいと思った。
・病院にいるのに経鼻経管栄養の対応を親がさせられる。もしミスが生じたら誰の責任になるのか。
【排泄ケア】
・点滴やモニター、たくさんの管につながれていてオムツ交換が大変だった。
・(排泄物に混じった)抗がん剤に曝露するおそれもあるため、看護師に行ってほしかった。
・排泄物の色や性状、量はそのつどスタッフに報告しなければならず気が抜けなかった。治療に必要な情報なら直接スタッフがやってくれると助かる
◇ ◇
一方、61.0%の人が「付き添い中に看護師に子どものケアをまかせられない(親が付き添わないと安心できない)と思った経験がある」と回答しています。その理由を4つの選択肢のなかから複数回答可で選んでもらったところ、「看護師が忙しくて十分に面倒を見てもらえないと感じたから」(83.8%)、「親がそばにいないと、子どもが精神的に不安定になったから」(55.6%)が特に多い結果となりました。
なお、「その他」(18.8%)の回答では、「ナースコールを押しても来ない。親がケアしたほうが早い」「機器のアラームが鳴っていても見に来ないなど、危険を感じた」「看護師が通常業務で忙しく、声をかけるのが申し訳なかった」といった回答が寄せられ、看護師不足により親に付き添ってもらわなければならない現状も推測されました。
◇ ◇
次に、付き添いでの生活について調査を実施したところ、「食事を調達していた場所」については、「主に院内コンビニや売店」(65.1%)、「主に院外コンビニや売店、スーパー」(8.5%)など、病院の外に容易に出かけられない状況がうかがえました。一方、「主に病院から付き添い者に提供される食事」は無料・有料を合わせてもわずか5.6%に留まっています。
さらに、「1日に1食または2食しか食べられなかった」と答えた973人に対して、「3食を食べなかった理由」を聞いたところ、64.0%の人が「食べる時間がなかった」と回答し、ケアに追われている状況が推測されました。
また、「付き添い時の睡眠の状況」については、「子どもと同じベッドに寝ていた」(51.8%)、「簡易ベッド(病院からレンタル)」(32.9%)、「ソファー、椅子」(6.4%)などが挙げられており、85.4%の人が「熟睡感がない」と回答しています。
付き添い時の食事、睡眠ともに満足のいく環境ではないなか、「付き添い入院中に体調を崩した経験がある」人は51.3%、「体調が思わしくないまま付き添いを続けた」人は54.0%に上っています。その一方で、「体調を崩した際、病院で何らかのケアやサポートを受けられた」と答えた人は、わずか20.1%でした。
回答者からは、「付き添いは必要と言われ、交代者がいなかったので、自分の治療のために他の病院を受診後、小児病棟に戻って付き添いを続けた」といった声が寄せられた一方で、「市販薬の頭痛薬の殻を見た看護師さんから『何かあれば一時的にナースステーションでお子さんを看ます』と言ってもらえて気が楽になった」といった声も寄せられています。
さらに、71.5%の人が「経済的な不安を感じている」と回答。「付き添い生活の中で節約していたこと」を複数回答可で答えてもらったところ、特に多かったことは「飲食費を削る」で69.6%でした。なお、「その他」(5.4%)では、「洗濯はすべて手で洗う」「病院の近くに引っ越した」「保険料の支払いを止めた」などが挙げられていたそうです。
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