「すぐに声がつぶれる」ばいきんまんの声優35年の中尾隆聖 「だんだん地声が」向き合って生じた喉の変化 アンパンマンの声優仲間「家族みたい」

 1988年にテレビアニメがスタートした「それいけ!アンパンマン」は今年で35周年、原作者のやなせたかし氏が手掛けた最初の絵本「あんぱんまん」から50年という節目も迎えた。そんな記念すべき年に公開される劇場版最新作『それいけ!アンパンマン ロボリィとぽかぽかプレゼント』で、ばいきんまんの声を務めるのが声優の中尾隆聖だ。

 アンパンマンの声を務める戸田恵子をはじめ、数々のレジェンド声優たちが作品を彩ってきたが、そんな仲間たちは中尾にとって「家族みたいな存在」だ。芸歴70年というキャリアを積んできた中尾にとって、その半分となる年月を付き合ってきたばいきんまんというキャラクター、さらには「アンパンマン」という作品にはどんな思いがあるのだろうか--話を聞いた。

■地声がばいきんまんに似てきた

 中尾がばいきんまんと出会ったのは1988年、37歳のとき。「当時『おかあさんといっしょ』という番組のなかの人形劇『にこにこぷん』でぽろりというネズミのキャラクターの声をやっていました。その声と変化をつけなければいけないということで、ばいきんまんのあの声を出したんです」。

 かなり作り込んだ声だったため、当初は相当苦戦した。「本当に収録するたびにすぐ声が潰れてしまって出なくなる。それで次の日には違うキャラクターの声をやらなければいけないので、とてもしんどかったですね」と振り返る。「でもだんだんとばいきんまんの声が地声に近くなってくるんですよね。40代、50代、60代と体力的には衰えていくのですが、声を出すのはどんどん楽になっていきました」。

■“天才”山寺宏一、「いまだったら彼がばいきんまんを…」

 35年間という歳月を過ごした「アンパンマン」の現場。中尾にとって毎週同じ曜日、同じ時間に集まるスタッフや声優たちは「家族みたいなもの」と語る。「一声出せば、『あ、今日はなんか調子が悪そうだな』とか『疲れているんだな』というのが分かるんです」。

 だからこそ、ちょっとした部分でお互いをフォローして作品を作り上げる。相手に気を使わせず“阿吽の呼吸”で助け合える存在、まさに「家族」のような関係性だ。

  中尾は共演する声優たちの“多彩さ”を強調する。中尾自身、若いころから俳優と声優をこなしているが「(アンパンマン役の)戸田恵子さんはもちろん、(めいけんチーズ役の)山寺宏一くんもそうですが、皆さん本当に才能がある」と称賛する。

  特に山寺に対しては「本当に天才で、戸田さんとも『あの天下の山寺宏一を犬で使っているなんてアンパンマンぐらいだよね』なんて話をしているのですが、彼はめいけんチーズ以外にも、本当にいろいろなキャラクターを演じているんです。リハーサルのときなんて、一人で何役も演じていて。実は彼は『ばいきんまんのオーディションを受けていたんですよ……』なんて話をしていたのですが、いまだったら彼に決まっていたんじゃないか……なんて思いましたね(笑)」。

■「新陳代謝」は必要も「声が続く限り頑張っていきたい」

 「『アンパンマン』は子供たちの映画館デビューも応援しているんですよね」と中尾。「今回の作品も、とても心温まる素敵なストーリーになっています。コロナも落ち着いて、子供たちも一緒に声を出して応援できるような環境も戻ってきました」。

  今後も「アンパンマン」は作者やなせたかし氏の思いを汲んで、子供たちに夢を与え続ける。「ここまで長く一つのキャラクターをやらせてもらえるなんてそんなに多くないですし、僕の声優という位置づけをしっかりとしたものにしていただいた大切な作品でありキャラクターです」。自身のキャリアの中でそれ抜きには語れないほどばいきんまんの存在は大きい。「声が続く限り、続けられるのではあれば、頑張っていきたいと思っています」。

  声優としての自負をのぞかせつつ、「時代と共に演者も変わっていくもの。新陳代謝は必要なことだと思います」と変化することには寛容だ。それでも「作品だけは未来永劫残っていってほしいですね」と語る。

  「初めてアニメーションの主役をやらせていただいたのは1965年、中学校1年生でした。そのときご一緒したのが野沢雅子さん。弟分みたいな感じだったのですが、いまでも雅子さんは変わらずご活躍されている。また『鉄腕アトム』の清水マリさんと先日対談させていただきました。マリさんもとてもお元気で、シャキッとされている。僕なんてまだまだ。できる限り、いろいろなことに挑戦していきたいです」

(まいどなニュース特約・磯部 正和)

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