生後2カ月で保護された野犬 兄弟と死別しひとりぼっち 幸せを手にするために最初の一歩を踏み出した

2023年、愛知県動物愛護センターに収容された生後2カ月ほどのまだ小さい野犬のワンコがいました。後にいえやすくんと名付けられますが、保護当時、いえやすくんがいた場所には兄弟とおぼしきワンコ2頭がおり、すでに死んでいました。どうして死んだのか定かではありませんが、人為的に起きたことでないことを祈るばかりです。

息をしなくなった兄弟の近くで、ひとりぼっちで過ごしていたいえやすくんが、どれだけの不安を抱え、心に傷を負っていたかを計り知ることはできません。ですが、助かった小さな命を大切に守るべく、愛知県を拠点に活動をする保護団体、一般社団法人SORA小さな命を救う会(以下、SORA)はいえやすくんを引き取ることにしました。

■人間に対しての警戒心はない様子のいえやすくん

元野犬は犬同士のコミュニケーションに長けている一方、人間には苦手な傾向があります。

しかし、いえやすくんはまだ子犬のためか、保護当初から人間に対してことさら怯える様子を見せず、スタッフに対しても穏やかな表情で見つめてきました。

スタッフは保護した後、すぐに動物病院の獣医さんに健康状態をチェックしてもらいました。幸い異常は見つからず、いたって健康といいます。胸をなで下ろすスタッフでしたが、さらにここから、いえやすくんが幸せな第2の犬生を迎えられるよう、お世話をし続ける決意を胸にしました。

人馴れトレーニング、トイレトレーニング、散歩など、やるべきことはたくさんありますが、これまで多くのワンコを保護し、幸せへと導いてきたスタッフです。元野犬のいえやすくんもまた、いつか人間を信頼してくれ、心を通わせてくれることを信じ、これからたっぷりの愛情を注いでいきたいと語ってくれました。

■殺処分は野犬問題の根本的な解決にはならない

ところで、SORAのスタッフによれば、「野犬と野良犬は違う」と言います。本来野犬とは、人里離れた自然豊かな地域におり、群れをなして生活しながら自然繁殖を繰り返すというもの。対する野良犬というのは、飼い犬を出自としながらも、避妊や去勢をされずに生まれ、管理されないまま街中を彷徨うようなワンコを指すと言います。

昭和50年代頃までの日本は野良犬をあちこちで見る機会がありました。今日ではいわゆる野良犬はほとんど見なくなりましたが、一方の野犬は人里離れたエリアではよくいるもので、こういったワンコに関する議論は今後広くされていくべきだと警鐘を鳴らします。言うに及ばず、殺処分は抜本的な解決策ではないし、SORAのような団体が保護をし続けても限界があります。

野犬の問題は、これまで語られる機会があまりに少なかったものですが、SORAのスタッフは、今回のいえやすくんの保護に際し、改めて「野犬を取り巻く環境」について考える機会にもなったと語ってくれました。

■新たな犬生は始まったばかり

まだ生まれて間もない頃に、兄弟が近くで死ぬという経験をしたいえやすくん。彼もまた、他の多くのワンコ同様に、幸せな犬生をつかみ、その命を全うする権利があります。SORAスタッフの、そのサポートにかける思いが、いつか実を結びいえやすくんを幸せへと導いてくれることでしょう。

いえやすくんの幸せへの第一歩はまだスタートしたばかりです。

(まいどなニュース特約・松田 義人)

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