「絵本の持つ力で遺言書を残す文化を普及させたい」 自分の人生を一冊の絵本にし、大切な家族に思いを伝える「えほん遺言」 

自分が死んだとき、大切な家族に思いを伝える絵本を作り、同時に遺言書も作成するーというユニークなサービスを提供している司法書士事務所が、大阪・森ノ宮にある。「えほん遺言司法書士事務所」だ。2021年10月にサービスを開始して以来、新聞やテレビなど数多くのメディアで紹介されたが、発案者で代表司法書士の水上和巳さん(33)によると「受注は僅か」という。そこで今夏から「より多くの人にサービスを利用してもらえるように」と、制作コストを見直して価格を下げ、絵本制作をリニュアルする予定だ。

水上さんによると「日本では約9割の人が遺言書を書かずに亡くなり、書いて残す人は少数派。遺言書がないことで相続手続きの際、トラブルになることが少なくない」という。そうしたトラブルを未然に防ぎ、遺言書をもっと身近に感じてもらうために始めた独自のサービスが「えほん遺言 えころ」だ。

「えほん遺言」はどんなものなのか。

まず依頼者から、これまでどんな人生を送ってきたか、特に思い出に残るエピソードなどを聞き取る。その後、残される家族に向けたメッセージを添えて、ハートウォーミングな一冊の絵本に仕上げていく。本文は自分で書いても、プロのライターに依頼しても可。文章に添えるイラストは、同社所属の絵本作家の中から気に入った作風の作家を選べる。完成した絵本は「世界に一冊しかないオリジナル絵本」となる。

同時に、法的に有効な遺言書を作成してもらう。絵本の後ろには専用ポケットが付いており、そこに遺言書を保管できるようになっている。これまでの価格は、ページ数により異なるが、遺言書作成費込みで30万円~70万円程度。

ただ、依頼数は伸び悩んでいるそう。「『アイデアが素晴らしい』と、メディア取材もたくさん受けたのですが、正直、なかなか遺言書の作成に結びついていないんです…。新しいことを広げていくのは難しいですね」と水上さん。

主な課題は価格だという。「遺言書の作成費用も含んでいるので、自分史の自費出版などと比べると相応かと思うのですが、今後は制作コストを徹底的に見直して、価格を下げたいと思っています。依頼者とのやりとりの仕方や表現の方法も工夫し、今のクオリティを保ちつつ、依頼者の要望に応えていけるものにしたい」。価格などを再検討し、リニューアルすることで新規顧客を増やしていくつもりだ。

水上さんは「遺言書があれば相続手続きはすぐに済むのに、ないばかりに兄弟姉妹間でもめにもめ、解決までに何年もかかるといったケースを、これまでたくさん見てきた」と話す。

「『うちは財産ないから』といわれる方は本当に多いのですが、相続事件のうち、75%は財産が5000万円以下、1000万円以下は30%を占めるとのデータもあります。自分が死んだ後、家族が困ることのないよう生命保険に入って備えるという方は多いと思うのですが、その点では遺言書も同じで、残された家族が問題を抱えないためなんです」

遺言書を書き残すことは「自分の人生を振り返り、大切な人のことを思う貴重な時間でもある」と水上さん。「絵本の持つ力で、遺言書を作るって楽しいね、という文化をこれからも全国に広げていけたらと思っています」と話している。

同事務所では「自分の人生を絵本にする 自分史絵本ワークショップ」(150分)というイベントも定期的に開催している。こちらはこれまでの人生の大きなエピソードをいくつか抽出し、あらかじめ用意されたイラストをあてはめて、手頃な料金で簡易な絵本づくり体験ができるというもの。えほん遺言に興味がある人は、まずこちらに参加してみるのもおすすめだ。

「えほん遺言司法書士事務所」

大阪市中央区森ノ宮中央1丁目9番2号

電話 06-6944-3501

(まいどなニュース特約・西松 宏)

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