「さ~らりとした梅酒」「サカイ~安い~仕事きっちり!」…だれがつくったの? 次々ヒットを生み出した鬼才の”想定外”の道

 「♪さ~らりとした梅酒」「♪サカイぃ~安いぃ~仕事きっちり!」。一度聞いたら耳から離れない。誰もが知る数々のCMソングをを世に送り出してきた鬼才、杜若(かきつばた)清司さん(55)は「CMは大衆文化の結晶だ」と話す。手がけた曲は数百曲以上。ヒット作はどうやって生み出されるのか。創作秘話を聞いた。

 「You wanna 酔わないウメッシュ~♪」

 「家電のこっとな~ら、エッッディオン♪」

 声に出さなくとも、心の中で自然と歌詞に節が付く。本田望結・紗来姉妹の姿まで思い起こせたら、映像まで頭にこびりついている証拠だろう。 

  「日本全国、津々浦々まで歌ってもらえる曲作りが目標」と話す杜若さん。その言葉通り、今やその楽曲は老若男女に浸透しているといっても過言ではない。

  初めてCMソングを作ったのは27歳の時だった。ディレクター志望で入社したCM制作会社だったが、制作中のCM音楽に次から次に口を挟むので「だったらお前、作ってみろ」と命じられた。

 そうしてできた30~40曲の候補曲の中から、1曲を絞り込む。選ばれた曲は「♪ゴン、ゴン、ゴン太のササミジャ~キー」。

 「人は荒削りで、プリミティブなものにひっかかりを覚えてるんです。完全じゃないことが重要なんです。ほら、おかんの味噌汁みたいに。おかんの味噌汁は、毎日、不確定の味の揺らぎがあるでしょう。あれがいいんです」

 おかんの味噌汁が不安定かどうかはともかく、ゴン太のササミジャーキーは評判を呼び、「サトウのごはん」など次々に仕事が舞い込んだ。

 曲づくりは桑田佳祐と同じ、「降りてくる」タイプだ。楽器は「手癖に沿った曲にしかならないから」と使わない。

 まずは企業が求めるイメージ、商品のコンセプトを徹底的に聞き、株価や社風に至るまで、頭に叩き込む。そして、一端寝かせる。

 しばらくすると「スポンっと出てくるんです。何の予兆もなく」。名曲の数々はこうして生まれる。

 杜若さんは「CM音楽は時代を映し出す無形文化財だ」と言う。

「聞いては忘れられていくCMソングだけど、大の大人たちがめちゃめちゃ一生懸命作っている」。時代ごとに最も旬のタレントが出演し、自社の商品の素晴らしさを宣伝する。その中には時代の社会不安や景気状況、伝統文化までも折り込まれている気がするのだと。

 時流でいえば、20年前なら「倖田來未みたいな曲を作ってほしい」と依頼が殺到したらしい。次に西野カナ。最近まではあいみょんが人気だったが、今は「YOASOBIみたいな曲」が主流だそう。

 いいCMソングとは何か。杜若さんに聞くと、

「インパクトを重視し過ぎると、1回見たら飽きられて、その後、クレームに変わるパターンもある。ボディーブローのように聞いてくるのがいいCMソング」という。

 まさに「♪さ~らりとした梅酒」がそんな曲だろう。

 杜若さんは現在、自身の総決算というイベントを計画中だ。

 全曲CM音楽だけという史上初のコンサート。演奏は日本を代表する演奏家たちによるフルオーケストラで予定している。

 15秒で終わる曲もあれば、この日のために続きを作曲した曲。ボツになった幻の曲や作曲の裏話なども披露する予定で、「懐かしいなと思って聞いてほしい。いつもは脇役に徹している音楽だけど、ホントはこんなにすごいねんでということを感じてもらえれば」と話している。

 会場では、各企業のCMも流される。また、ほねっこゴン太の声やM-1グランプリのナレーターなどを務める畑中ふうさんや、チョーヤや味の素ほんだしなどのCMボーカルを務める本井美帆さん、矢沢永吉さんやSMAPのバックを務めたこともあるトランペット奏者・寺内茂さんらも出演予定。

 7月2日、京都府立府民ホールアルティで。前売り3500円。当日4000円。

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