エステ脱毛のトラブル急増 金銭問題に健康被害も…「気をつけるべきポイント」は?

「全身脱毛」がブームといわれる中で、深刻な金銭トラブルや健康被害も報告され、成人年齢の引き下げもあり、10代の被害も急増しています。エステを巡る法的状況を整理し、問題の所在を明らかにし、被害を未然に防ぐ方策について、改めて考えてみたいと思います。

もちろん、日々技術と顧客サービス向上に励まれる優れたエステ・エステティシャンの方も大勢いらっしゃり、問題のある事業者とそうでない事業者を、見極められるようにすることと、そのために注意する点を広く浸透させるといったことが、大切だと思います。

■急増するトラブル

「消費者白書(令和5年版)」によると、2022年の消費生活相談件数(PIO-NET(※)に登録された苦情相談件数)を商品別分類別にみると、総数869,938件のうち、エステティックサービスは20,715件で6位となっており、そのうち、エステ脱毛によるトラブルが約9割(19,060件)となっています。

(※)PIO-NET(パイオネット:全国消費生活情報ネットワークシステム):国民生活センターと全国の消費生活センター等をオンラインネットワークで結び、消費生活に関する相談情報を蓄積しているデータベース。

2022年の消費生活相談について、15-29歳の女性の相談件数1位は「エステ脱毛」で、11,421件にのぼっており、2020年(1712件)の約6.7倍、2021年(3010件)の約3.8倍となっています。2022年4月1日からの成年年齢引下げにより、18,19歳でもクレジットカードの作成やローンが組めるようになったことが増加の背景のひとつにあると考えられています。

被害内容は、熱傷(やけど)や腫れなどの危害、ローンが高額で支払えない、カウンセリングだけのつもりが強引に契約させられた、予約が取れず期間内に消化できない、業者が破産した、など多岐に渡っています。

■エステには、資格や開業・運営上の法的根拠がない

必ずしも正しく理解されていないように思いますが、エステには、資格や開業・運営上の法的根拠がありません。

経済産業省が、エステ業界の産業振興のための業界団体の支援等を行い、厚生労働省が、公益財団法人を通じて、エステの安全性や衛生面での研究、業界の健全化を図っていますが、厳密な意味で、エステを監督する法令や省庁はない、というのが現状です。

例えば、医師、美容師、調理師等については、それぞれ、医師法、美容師法、調理師法等があり、国家資格として、試験を経て免許が付与され、開業する際には許可や届出等が必要で、そして、実際にその業を行う上での様々な規制や、違反した場合の検査規定や罰則等が定められています。一方、エステ・エステティシャンにはそれがなく、あくまでも、民間の資格として自由に開業できる、という位置付けになっています。(民間団体による認証制度はあります)

もちろん、エステにも、一般法(刑法、消費者契約法等)の適用があり、また、他の業法(医師法等)に違反したような場合は、その法律に基づいて罰せられことになるわけですが、エステ自体を管理監督する法律や省庁が無く、開業に当たっての規制や、継続的な監督等が行われていない、ということになります。

■医療脱毛とエステ脱毛の線引き

「医療脱毛」と「エステ脱毛」の線引きというのは、実はそれほど明確ではありません。

まず、医師法にいう「医行為」とは、「医師の医学的判断及び技術をもってするのでなければ人体に危害を及ぼし、又は危害を及ぼすおそれのある行為」とされ、そして「ある行為が医行為であるか否かについては、個々の行為の態様に応じ個別具体的に判断する必要がある。」とされています。(厚生労働省通知(平成17年7月26日))

そして、「医行為」に該当する脱毛として、「用いる機器が医療用であるか否かを問わず、レーザー光線又はその他の強力なエネルギーを有する光線を毛根部分に照射し、毛乳頭、皮脂腺開口部等を破壊する行為」は、「医師が行うのでなければ保健衛生上危害の生ずるおそれのある行為であり、医師免許を有しない者が業として行えば医師法第17条に違反する」とされています。(厚生労働省通知(平成13年11月18日))

実際のケースとして、「エステサロンで医師免許のない従業員がレーザー脱毛を実施し、また、そのレーザー脱毛器を販売したこと」について、医師法違反、薬事法違反の有罪判決が出され(平成25年9月5日)、確定しています。このケースでは「脱毛器を使用して、皮膚に光線を照射し、その熱エネルギーにより毛包幹細胞を変性させる方法により脱毛するなどの行為」が医行為に該当し、医師以外が行っているので医師法17条違反とし、また、当該レーザー脱毛器は、製造販売にあたり薬事法上の承認が必要となる医療機器であり、この脱毛器の無承認販売について薬事法14条1項等違反とされました。

■医療脱毛とエステ脱毛ともに、危害報告がある

エステ脱毛だけではなく、医療脱毛にも、熱傷などの危害報告があります。

少し前のデータですが、PIO-NETでは、2012年度以降の約5年間で、エステ脱毛に関する相談が12,693件、医療脱毛に関する相談が1,968件寄せられ、そのうち危害事例は、エステ脱毛が680件、医療脱毛が284件あったとされています。

危害の内容で見ると、エステ、医療機関ともに、「皮膚障害」、「熱傷」が多くみられ、「皮膚障害」の具体的な内容としては、痛み、腫れ、炎症、発疹等が多くみられました。危害の程度別に集計すると、エステでは57.3%(280件)、医療機関では67.0%(122件)が、発生した危害について医療機関で治療を受けており、治療に長期間を要した事例もみられたとのことです。

■気を付けるべきポイントは?

脱毛に限らず、なにかの契約をする際には、慎重になることが必要で、その際は、(こう申し上げなければならないことは残念ですが)、被害が続出する現状では、「性善説」ではなく、「性悪説」に立つことが求められるのだと思います。

エステ事業者には、民間団体による認証制度もあり、そういったことも参考になると思います。

脱毛は、皮膚内部の細胞を破壊するなど、身体に影響を及ぼす施術であり、また、一定の効果を得るためには、長期間施術を継続する必要があります。費用も数十万円と高額になることが通常です。金銭的負担や、痛みや熱傷等のトラブルが起きる可能性があることを理解し、事前に十分な情報収集し、エステや医療機関に十分な説明を求め、納得の上で、自分に合った施術を選んでいただきたいと思います。

具体的には、

▽事業者のホームページや広告の情報をうのみにせず、自ら十分な情報収集を行う。

▽施術前に、内容やリスク等に関する十分な説明と書面による提示を求める。(施術の効果、想定される身体の反応、材料・機器などの安全性・有効性、他の施術方法(選択肢)の有無、施術の費用・回数、解約条件など)

▽長期間の契約が心配なときは、都度払いができるコースやエステ店を選択する

▽「無料カウンセリング」をうたって勧誘をする事業者も多く、カウンセリング後「今すぐ契約すれば安くなる。お得なのは今日だけ」等と言われ、契約を勧められることがあります。契約する前に「概要書面」を受け取り、施術内容、期間、金額、支払方法などの契約条件をよく確認し、納得したら「契約書面」を受け取り、1回当たりの施術代金、回数、有効期限を確認する。

▽契約したものの、考え直してやめたい場合は、契約書面を受け取ってから8日間は、クーリング・オフが可能。

▽施術を受け始めてからでも、やめたい場合は、違約金がかかるが、中途解約ができる。

▽不安に思った時、トラブルにあった時、また、脱毛により危害を受けたときは、速やかに医療機関を受診するとともに、消費生活センター等に相談する。

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特に最近は、SNSの普及やネット広告等もあり、若い方の被害相談も増えていますので、「自己責任」で済ませてしまうのではなく、様々な場面で行政等が積極的な情報提供などを行い、悪質な事業者の被害に遭うことなく、希望を叶えていただけるように、多様なアプローチが必要だと思います。

今の時代、なににせよ、「きちんと正しく知る」ということが、我が身と大切な人を守る最大の武器なのではないかと思います。

◆豊田 真由子 1974年生まれ、千葉県船橋市出身。東京大学法学部を卒業後、厚生労働省に入省。ハーバード大学大学院へ国費留学、理学修士号(公衆衛生学)を取得。 医療、介護、福祉、保育、戦没者援護等、幅広い政策立案を担当し、金融庁にも出向。2009年、在ジュネーブ国際機関日本政府代表部一等書記官として、新型インフルエンザパンデミックにWHOとともに対処した。衆議院議員2期、文部科学大臣政務官、オリンピック・パラリンピック大臣政務官などを務めた。

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