「譲渡不適正」の烙印を押された迷い犬 保護団体スタッフとの暮らしが始まって1週間 優しいワンコに大変身できた理由
岡山県動物愛護センターで、1年もの長い時間を過ごしてきたワンコがいます。おそらく元飼い犬で、迷い犬として収容された沙和(さわ)というワンコです。知らない人間を前にした際の恐怖心から、噛みついてしまう癖があり、センターでは「譲渡不適正」と判断され、新しい里親さん募集に出されていませんでした。センターのキャパシティの問題もあり、こういったワンコはやむを得ず「殺処分」されてしまうことがあります。
しかし、たとえ今は噛み付いたり、人間に噛みつくワンコでもたっぷりの愛情をかけてケアし続ければ、心を開いてくれるもの。そして、「殺処分」だけは絶対に避けてほしい。そんな思いを強く抱く地元・岡山で保護活動を行うNPO法人しあわせの種たち(以下、しあわせの種たち)のスタッフは、この沙和を引き出すことにしました。
■リードが大嫌いで、触ろうとすれば噛み付いてくる
センターにいた頃の沙和は、人間を前にして、尻尾を振ってくれることもありました。また、沙和のペースに寄り添い、慎重に接すれば人間の手から与えたおやつを食べてくれることもありましたし、他のワンコとのコミュニケーションもバッチリ取れている様子でした。
しかし、散歩用リードの装着や、人に触られることがかなり苦手で、こういった場で吠えたり噛み付いたりすることがありました。これが「譲渡不適正」とされた主な理由です。
このギャップが難しいところですが、しあわせの種たちの預かりスタッフさんは、沙和を引き出した後、まずは体の表面に浮いた抜け毛か気になり、ブラシをかけてあげようとしました。しかし、ここでもやっぱり沙和は歯を剥いて威嚇します。
なかなか手強い沙和でしたが、ここで動じる預かりスタッフさんではありません。時間をかけて慎重に沙和に接し、まずはスタッフが「敵ではない」「悪い人間ではない」ことを理解してもらうように心がけました。
■たった一週間で優しいワンコに大変身
するとどうでしょう。預かりスタッフさんとの生活が一週間ほど過ぎた頃から、沙和の態度が急変しました。体を触っても怒らなくなり、頭を撫でると尻尾を振ってくれるように。あれだけ嫌がっていた散歩用のリードもスンナリ付けさせてくれるようになり、一緒に散歩に行っても楽しそうにテクテク歩いてくれます。もちろん、散歩中に出会う他のワンコとのコミュニケーションも良好です。
あれだけ凶暴と思われた沙和がたった一週間ほどで、こんなに優しいワンコになったことを預かりスタッフさんは嬉しく思いました。
■沙和は心に深い傷を負っているように見えた
沙和がどんな経緯で放浪していたのかはわかりません。元飼い主の家から脱走したのか、散歩中に元飼い主と離ればなれになったのか、それとも意図的に棄てられてしまったのか……。
いずれにしても沙和が強い不安を抱え、心に深い傷を負っていたことは、その態度からよくわかります。しかし、預かりスタッフさんのことを「この人は敵ではない」「信用できる人だ」と思ってくれたのか、本来の素の姿を見せてくれるようになりました。預かりスタッフさんはそんな沙和を改めて愛おしく思い、そして新しい里親さんとつなぐ決心を新たにしました。
今日も沙和は、預かりスタッフさんの家で、家庭犬としてトレーニングを積む日々をおくっています。今後どれだけの時間がかかるかはわからにですが、近い将来、きっと沙和に新しい里親さんが見つかり、第2の犬生の一歩を踏み出すことでしょう。
(まいどなニュース特約・松田 義人)