お外にいたころからずっと親友…だから息ぴったり! 娘のピアノ伴奏にあわせて歌う猫・チョコちゃんの物語

キジ白猫のチョコちゃん(2歳)は、お歌が好きな女の子。一緒に暮らすS家の長女・Sちゃん(10歳)がピアノを弾くと、気持ちよさそうに歌います。ビックリするほど、コンビネーション抜群!

それもそのはず。チョコちゃんは生後2~3週間ごろから、Sちゃんと親友なんです。「チョコ」という名前も、Sちゃんがつけてくれたもの。

ふたりはすぐ親友になったものの、チョコちゃんが正式にS家の一員になったのは出会ってから半年ほど先のことでした。それはS家のお母さん、Hさんの葛藤があったから。

■祖母の生きる活力

チョコちゃんが生まれたのは、Hさんの祖母の家の縁の下。つまりSちゃんの曾祖母の家です。自然豊かな場所で、裏山にはたくさんの動植物が命を輝かせます。チョコちゃんを産んだ母猫も、この裏山で暮らしているんです。出産の時に、人家まで下りてきたよう。

Sちゃんのひいおばあちゃんは、猫たちをたいそう可愛がっていました。しかし、軽い認知症が始まっていたため、どうお世話をして良いか分からない状態。それを孫のHさんが見つけ、おばあちゃんの代わりに猫たちのお世話を始めたのです。2020年9月23日のことでした。祖母の生きる活力になればと。

Hさんの自宅から祖母の家まで約10キロ。自家用車で毎日通います。すると1カ月も経たず、チョコちゃんたち子猫はHさんとSちゃんの声が聞こえると集まってくるように。ある時は山の中から駆け寄ってきたり、ある時は倉庫の中からのっそり出てきたり。各々、好きな場所で遊んでいるみたい。

中でもチョコちゃんは、HさんにもSちゃんにもよく慣れていました。特にSちゃんとは、長年の親友のよう。自然豊かなおばあちゃんのお庭で、ふたりで遊んでお喋りして。少しずつですが、抱っこもさせてくれたんです。

チョコちゃんの兄弟猫たちも、HさんやSちゃんを頼りにしているのは感じていました。

■Hさんの決断

頼りにしてくれるのは嬉しいけれど、避けて通れないのが成長です。のんびりしていると子猫たちは性成熟を迎え、発情が始まってしまいます。これ以上増えたら、自分たちの手には負えない。

中でもチョコちゃんは兄弟猫の中でも体が小さく、母猫からも兄弟猫たちからもいじめられる存在。Sちゃんは親友のチョコちゃんを守りたくても、小さな自分では何もできない歯がゆさがありました。何度もHさんに「助けてあげて」とお願いをします。

このSちゃんの姿に、Hさんはついに決意を固めました。「子猫たちを保護する」と。地域猫にはせず、お家の猫として暮らしてもらおう。

チョコちゃんの兄弟猫は、Hさんが保護する前に近くに住む家族が迎えてくれたため、残るはチョコちゃん1匹。保護するしかない状況にも関わらず、Hさんはまだ迷うことがありました。

それは、今まで信頼関係を築いてきたのに、チョコちゃんが嫌がることをしたくはないということ。無理やり家に連れてきても、チョコちゃんは幸せになるだろうか…。

■一世一代の大作戦

それでも、チョコちゃんをここに置いておくわけにはいきません。祖母の活力になっていることも分かっていますが、愛娘の頼み、チョコちゃんの幸せのため。心を鬼にします。

まずHさんは、キャリーバッグにチョコちゃんが親しんでくれるよう工夫をしました。中にご飯を入れるのです。最初はおっかなびっくりだったチョコちゃんも、中でご飯を食べると、誰にも邪魔されない上に寒くないと気づきました。10日もすると、喜んで中に入るように。

Hさんはチョコちゃんのためにケージも購入し、迎えた運命の2021年3月15日。Hさんは朝から緊張していました。いよいよ捕獲大作戦の大詰めです。「どう頑張っても恨まれる…」、そう考えたHさんは、Sちゃんが学校に行っている間に作戦を実行することにしました。恨まれるのは自分ひとりで良い。

ついに決戦の時、Hさんは緊張を顔に出さないよう、普段通りを心がけます。いつものように祖母と言葉を交わし、チョコちゃんを呼びました。

「ごはんよ」

チョコちゃんは嬉しそうに駆けてきて、ひょいとキャリーバッグの中へ。その瞬間をHさんは逃しませんでした。ふたをパタンと閉めて、急いで車の中に。その素早いこと。

■告げ口する猫

キャリーバッグの中でチョコちゃんは、何が起きたか分からず大パニック!大きな声でHさんに訴えます。

「なんでこんなことをするの?」

まるでそんなことを言っているかのよう。Hさんは胸が締め付けられましたが、キャリーバッグにシートベルトを締め、自宅へ車を走らせます。

車が止まり、チョコちゃんがキャリーバッグから出た先で見たものは、今まで見たこともない世界。お空は見えませんし、足元はなんだかツルツルしています。怖くて怖くてたまりません。

つい、自分を怖い目に合わせたはずのHさんにくっつきます。ここでチョコちゃんが知っているのは、Hさんだけだったから。でも、Sちゃんが学校から帰ってくると、Sちゃんに駆け寄ってHさんの所業を告げ口します。

「きいてー!ひどいことされたの!」

うにゃうにゃお喋りするんです。Sちゃんはうんうんとうなずく。それからふたりはおやつを食べて、一緒に遊びました。家に慣れるためのケージはいらなかったみたい。どうやら、Sちゃんがチョコちゃんの安心できる場所のようですね。

■Sちゃんの花嫁姿を一緒に

その後のチョコちゃんは、3カ月ほど何かを探すような夜鳴きをしたものの、着々とお家猫として成長を果たします。お手とおかわり、お座りも覚える賢い子で、Sちゃんとは相変わらず仲良し。いつもくっついて、ふたりでニコニコ笑いあっているんです。

この光景にHさんは幸せで胸がいっぱい。チョコちゃんを幸せにしたいと思っていたのに、自分がこんなにも幸せになるなんて。Hさんはこう言っているんですよ。

「チョコと一緒に娘の花嫁姿を見るのが夢です」

結婚式でチョコちゃんは、Sちゃんの伴奏でウエディングソングを歌うのかしら?それとも寂しくて泣いちゃうかしら?

いずれ訪れるその時まで、家族の想い出をたくさん重ねていきましょうね。チョコちゃん、Sちゃんとずっと仲良しでいてね。

(まいどなニュース特約・ふじかわ 陽子)

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