「おばあちゃんの願いかなえたい」家族愛に動かされた副社長、トヨタ車デザイナーに依頼した唯一無二の「食器」

 香川県善通寺市にある、うどん店の駐車場でのこと。店内からお盆に載せたうどんを車まで運ぶ家族がいました。後部座席で待つおばあちゃんは、この店の味がお気に入り。本当なら店の中で出来立てを食べたいのですが、足が不自由になり、店内で食べることができなくなったのです。「おばあちゃんに好物を食べさせてあげたい」。家族はお店の協力を得て、おばあちゃんの願いをかなえてあげました。

■偶然見かけてひらめいた…自社の技術でおばあちゃんを助けたい

 この様子を偶然見かけ、家族に声をかけた人がいます。

 紙袋用取っ手メーカー松浦産業(本社、香川県善通寺市)の副社長、松浦英樹さん。

 松浦副社長はおばあちゃん思いの家族の姿に感動。同時に、おばあちゃんが膝の上にお盆と丼を載せるのは、不安定な上に、やけどの危険性もあるのではと心配になります。

 軽くて、持ちやすく、食べやすく、運びやすいうどん容器が作れないか。松浦副社長は、プラスチック製品の成形事業も行う自社の技術を生かし、おばあちゃんでも安心して使えるうどん鉢を作ろうと思い立ちます。

 約2年かけて企画、開発。このほど完成したのが、取っ手付きうどん容器「とって屋さんが作った『とって』おきのうどん鉢」です。

 デザインを担当したのは、これまで数多くのトヨタ車のデザインを手掛けてきたプロダクトデザイナー松熊伸幸さん。

 「人間工学に基づいた機能性を追求しつつ、唯一無二の美しいフォルムに仕上がりました。うどん鉢には手にフィットする取っ手を付けています。親指を立てた『いいね』の手の形のまましっかり持つことができ、取っ手の近くに重心を持ってくることで、さらに安定させました」(同社)

 だし専用の飲み口は「だしがコーヒーみたいに飲める」と好評。器の端にある注ぎ口は、子ども用のおわんなどに取り分ける際、だしが注ぎやすい構造です。「箸やレンゲが置けるスポットも作成。右利きの方、左利きの方、どちらも使いやすいユニバーサルデザインにしています。デザインは特許庁に出願手続し、審査を経て、意匠登録しました」(同社)

 素材には、飛行機などの部品にも使われるエンジニアプラスチックを採用。「軽量であること、ずっと使い続けられることを意識しました。耐熱温度が高いPBT樹脂で、食洗機やレンジでの使用も可能です」(同社)

■おばあちゃんに今、伝えたいことは

 松浦副社長は「香川県の人間はうどんを愛し、いくつになっても、人生最後まで、うどんをおいしく食べたいと願っているのではないでしょうか」とし、アイデアのきっかけとなったおばあちゃんに対し、「納得できるうどん鉢ができたと自負しています。おそらくおばあちゃんご家族は弊社の近くにお住まいなのかなと思います。完成したうどん鉢をぜひ、おばあちゃんに差し上げたいです」と思いを明かしました。

 全8色(ベーシック:チャコールグレー、アイボリー、オフホワイト、ベビーブルー。カラフル:ネギグリーン、釜たまイエロー、おいりピンク、本鷹レッド)。縦175mm×横160mm×高さ71mm(容器部分のみ)、縦220mm×横160mm×高さ80.5mm(取っ手含)。容量約1000ml。材質プラスチック(PBT樹脂)、重さ123g。クラウドファンディングサイト「Makuake」で先行販売中。うどん鉢4個セット7000円(税込)など。

(まいどなニュース・金井 かおる)

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