「家族がアレルギーだから」と飼育放棄 心を閉ざしたシニア犬に向き合った愛護団体スタッフ ひざの上で眠り一緒に走り回りその生を全うした
行き場を失ったワンコの保護・譲渡活動を行い、ワンコの殺処分ゼロを目指す団体、ピースワンコ・ジャパン(以下、ピースワンコ)。ある日のこと、同団体に1本の連絡が入りました。
小型犬を飼う飼い主からで、「家庭の子どもからアレルギーが出たことで、どうしても犬と一緒に暮らせないから引き取ってもらえないか」というものでした。また、このワンコは元々気が強く噛み癖もあることも知らされました。
これを聞いた同団体スタッフは、「どうしてもそのワンコを飼い続けることは難しいのか」ということを細かく確認した上で、引き取ることにしました。そのワンコの名はマロン。引き取った当時、すでに10歳を超えていました。
■気性難のワンコでもいつか必ず心を開いてくれる
引き取ったマロンは、確かに気が強く、人間はもちろん他のワンコも近寄らせない雰囲気を漂わせていました。触ろうとすれば、噛み付いてくることもあり、多くのワンコを見てきたスタッフは「一般家庭で過ごすのは、難しいワンコかもしれない」と思いました。
しかし、同時に「そういう気性難のワンコであっても、人間が親身になって接すればいつか必ず心を開いてくれ、仲良く生活できるようになる」と断言するスタッフもいました。それがピースワンコのプロジェクト・マネージャー、安倍さんでした。
■「噛まれるの、大好きだよ」
安倍さんはピースワンコで引き取った後も、ずっとひとりぼっちで過ごしていたマロンを人一倍気にかけていました。安倍さんは「マロンに、なんとかして人を好きになって貰いたい。なぜならここで暮らすにあたって人が好きじゃないと犬だって辛いはずだから」と、積極的にマロンとのコミュニケーションを取るようにしました。
マロンに接しようとすると、やはり噛み付いてきます。しかし、安倍さんはその噛みつきさえも受け入れ、「噛まれるの、大好きだよ」といった大きな心で、マロンを包み込むように接し続けました。安倍さんによると「嚙み犬は人間不信から、そうしてしまうワンコが多いものです。『人間は敵じゃないんだよ』といった思いを込めて、接すればいつか心を開いてくれる」と言います。また「どんなワンコでも、いつまでも人間に馴れないワンコはいません。ワンコが心を開かないのはむしろ人間のせいで、人間が警戒すれば、それがワンコにも伝わってしまうから、それではいつまで経ってもコミュニケーションを取ることはできません。まずは人間のほうが『噛まれてもいいや』と思うことが大切なんです」とも語ってくれました。
■高齢で幸せな日々を過ごした後、虹の橋をわたった
そんな安倍さんの思いが伝わったのか、マロンはやがて噛まなくなり、安倍さんにだけは信頼を寄せるようになりました。気が強く「ひとりぼっちで良いんだ」と孤高に過ごしていたマロンでしたが、気づけば安倍さんの膝の上で気持ち良さそうに眠るようになり、そして、安倍さんと一緒に走り回るようにもなりました。
飼育放棄され、心を閉ざしていたマロンが、高齢になってやっと人間との幸せなひとときを過ごせるようになったわけですが、それから約2年後、マロンは推定15歳で虹の橋を渡りました。最期の日、マロンは穏やかな表情を浮かべ、唯一の友達だった安倍さんに「今までお世話してくれて本当にありがとう」とお礼を言っているかのようにも映りました。
ピースワンコでは、このマロンのように諸事情から飼育放棄された経験を持ち、心を閉ざし続けるワンコが多くいます。そういったワンコでもいつかもう一度人間を信用してくれ、心を開いてくれることを信じ、スタッフは今日もお世話をし続けています。
ピースワンコ・ジャパン
https://peace-wanko.jp/
(まいどなニュース特約・松田 義人)