「2階の押入れから子猫の亡骸が…」猫の多頭飼育崩壊が起きた”ごみ屋敷” ノミや悪臭でトラブルも…片付けに踏み切った近隣住民の思い
「2階の押入れから子猫の亡骸が出てきました。…今度生まれてくる時は、絶対幸せになるんだよ」
長年近所の住民たちがノミや悪臭の被害で悩まされた「ごみ屋敷」。70代男性が一人で暮らしています。過去には61匹の猫を飼って、多頭飼育崩壊を起こしてしまったことも。”猫と暮らす者”として、この状況を長年気に病んできたという隣保のりんくみさん。ついに4月、家主の男性の許可を得て「ごみ屋敷」の片付け・掃除に踏み切りました。
「ごみ屋敷」は築60年以上の2階建て住宅。室内に入ると、悪臭が漂い、物が床を覆い尽くすほどのひどい状態でした。りんくみさんが物をどかすと、溢れたふん尿や微生物により分解されたふんが積もっていたといいます。1日で終わる状況ではなかったため、何回かに分けて片付けをすることとなりました。
■猫の亡骸は全部で5匹…「次に生まれてくる時は、絶対幸せになるんだよ」
5月に入り、3回目の片付けの時、玄関の土間の山から猫たちの亡骸を発見。さらに4回目は2階の押入れから子猫の亡骸、家具の解体を進めていた5回目の時は、階段の踊り場にあった深い木製のごみ箱から赤ちゃん猫2匹の亡骸も出てきたといいます。
「猫の亡骸は全部で5匹。そのうち赤ちゃん猫が3匹でした。それとは別に遺骨の一部も出てきています。以前行政が入った時に、生きている猫は動物愛護センターが引き取ったものの、当時死んだ猫があちこちに転がっていたと聞きました。その時に既に埋もれていて見つからなかった子たちが、今回出てきたのだと思われます」
猫たちの亡骸を目の当たりにしたりんくみさん。こう続けます。
「迎えに来るのが遅くなってごめんね。次に生まれてくる時は、絶対幸せになるんだよと思いました。自宅の庭にある、うちの子たちのお墓に火葬し、粉にした遺骨を還してきましたが、今回出てきた子たちは乾燥し骨と皮だけになっていて…5回目の片付けで出てきた赤ちゃん猫たちや先の子たちも含めて、送り人をしている方にお見送りをしていただくようにお願いしました。その後、自宅のお墓に埋葬します」
■20年ほど前から隣人がノミや悪臭などの被害を訴え、過去に何度も行政が入った
「ごみ屋敷」には、20年ほど前から近隣住民らがノミや悪臭などの被害を訴え、過去に何度も行政が入っています。猫を連れてきても、避妊手術もせず家に放しっぱなしのネグレクト状態でした。こうした適正飼育をせず猫は最大61匹まで増え、死んだ猫をごみに出すなど問題が絶えなかったそうです。
「近隣の方々は長年男性に悩まされていました。猫のノミが体に付いてかゆくなったり、夜中に外に出された猫たちが鳴いて目が覚めたり…さらに猫が(近隣の方の)庭に死んでいたり、悪臭がひどく外に洗濯物が干せなかったりと多数の被害がありました。そこで当時の組長さんが発起人となって議員さんも動いてくださり、動物愛護センターから指導が入りました。そして、もう猫は飼わないと男性と誓約書を取り交わしています。
それは私が組に入る前の出来事であり、近隣の方々の話や組長ノートの記録からこの事実を知りました。しかし、私が組に入ってから7年後にも男性は誓約書を交わしたにもかかわらずまた猫を飼い、ノミや悪臭の被害に近隣の方々は悩まされ…行政が再度入りました。ただ私は途中からこの組に入ったこともあり、この家の問題に口を挟む勇気がありませんでした。関わらないようにと皆が口を揃え、家族からも反対され、自分の保身から気にはなっていたものの、見て見ぬふりをしてきました」
■見て見ぬふりをしていた近隣住民が「ごみ屋敷」の片付けに踏み切った理由とは
見て見ぬふりをしていたというりんくみさんでしたが、そのうち男性と話すように。きっかけは犬の散歩でした。りんくみさんが連れていた飼い犬に「おいで」と男性から声を掛けてきたのです。最初は逃げるように立ち去っていましたが、あいさつを交わすようになり、今日の天気など他愛もない話をりんくみさんからもするようになりました。
そして男性と話をするようになって5年ほど経ち、あることをきっかけにりんくみさんが男性の家の片付けなどを踏み切ることを決意したのです。
「今年の4月のことです。自分が組長になった時に、組員の方々に何かあれば声を掛けて欲しいと伝えていたのですが…組長の任期が終わり、次期組長さんに引き継ぎをしていた際に今年またノミの被害に遭ったと相談されました。男性の隣に住む方で、長年ノミや悪臭の被害などで苦しまれてきて、これまでも行政に何度も相談に行かれ、大変な思いで動いてくださったんです。その方の切実な思いに心が固まりました」
その足で男性の家に話をしに行ったといいます。
りんくみさん「今猫いるの?」
男性「いるよ」
りんくみさん「何匹?」
男性「1匹」
りんくみさん「片付けしよう? 入ってもいい?」
男性「いいよ」
こんなやり取りを経て、「ごみ屋敷」と呼ばれる男性の家を片付けることになったりんくみさん。実は過去にごみ屋敷の片付けや解体などの仕事の経験があり、男性の遠縁にあたる人の家にも足を運び、男性の家を片付けることを説明したといいます。
とはいえ、いざ片付け始めると、長年問題に向き合ってきた近隣の人たちからは「なぜあなたがやる?やってもまた同じ、やってもらって当たり前になる」「何かあったら責任取れないから止めてほしい」などと不安視する声も上がったそうです。誓約書を交わしながらもまた猫を飼ってしまう男性に対して不信感が募っていたからでした。
「近隣の方がいうように誰かがやってくれて当たり前になるのならば、それが自分でいいと思いました。何でも屋でロードキルの回収業務を兼任していたこともあり、動物だった肉塊、うじが集まる亡骸、胎盤の付いたままの赤ちゃん猫、まだ温かい息絶えた首輪をした犬、たくさんの子たちをこの手で抱えました。体に染みつく死臭はすさまじいものです。過去の経験がなければ、今回のごみ屋敷に入って平常心ではいられなかったと思います」
■「ごみ屋敷」には今も1匹の猫が…「家主の健全な生活を取り戻すため、生活環境を整えていく」
「ごみ屋敷」に入って2カ月目。黙々と片付けに取り組むりんくみさんに対して、男性は嫌がることなく受け入れ静かに見守っているとのこと。また男性の申告通り、1匹の猫も姿を現しました。
「男性のことを、誰の言うことも聞かない、感謝もないと皆が言いますが、私に『ありがとう』と言いました。自らほうきを持ち、ペットボトルのお茶とお菓子の差し入れも渡されました。猫をすべて取り上げ、片付けをしても、またどこかからか連れてきて、ごみの山になっていくことがこれからも予想されます。男性は心の病やどこかしら情緒に欠ける部分があるのかもしれません。動物だけでなく、人の立場からもケアもしていかなければ、この問題は解決しないと思います。
亡骸となってしまった猫たちは確かに生きていました。この子たちを通じ、たくさんの方に身近な問題として受け止めてほしい。これ以上声なき命が犠牲になってほしくない。とにかく今は、男性の健全な生活を取り戻すことが今いる猫の幸せにつながるはずだという思いから、生活環境を整えることを目指しています」
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高齢化が進む日本において、65歳以上の一人暮らしの世帯が年々増えているといいます。『令和2年国勢調査』によると、65歳以上人口のうち単独世帯の人口は 671万7千人を数えます。また65歳以上人口に占める割合は 19.0%、65歳以上人口の約5人に1人が一人暮らしとなっています。
人は年を取れば、体も心も衰えていきます。今回のようなペットを飼う一人暮らしの高齢者に関わるトラブルは、高齢化に伴い他の地域でも抱える課題の一つです。地域の人たちが一人暮らしの高齢者に目を掛け、声を掛けることで救われる動物の”命”もあります。記事を通じて、少しでも地域の抱える課題の一助になれば幸いです。
『令和2年国勢調査 人口等基本集計結果の概要』
(まいどなニュース特約・渡辺 晴子)