新型コロナ「第9波」の議論が分かれる中、私たちはどう行動すべきか… 豊田真由子「この3年間の教訓を胸に、社会と日常をしっかり回していくべき」

新型コロナの新規感染者が増加しています。「第9波」とするかどうかについては、現時点においては、政府と医師会で見解が分かれています(※)が、どう呼ぶかは別として、現在の日本と世界の状況、そして、今後どうなっていくのか、私たちはどう行動すべきなのか、など考えてみたいと思います。

(※)日本医師会の理事は、7月5日の記者会見で、「現状は第9波と判断することが妥当だ」と述べ、後藤コロナ担当相は、7月7日の記者会見で、「政府として、今の段階で新しい流行の波が発生しているというふうに認識しているわけではない」と述べました。

今回増加傾向にあることを受け、医療界等からは「医療ひっ迫や亡くなる方を出さないようにしなくては」と危機感が発せられる一方で、一般の方からは「第〇波って、いつまで数え続けるの? 5類になったのに、法律の根拠なく、ああしろ、こうするな、と言われたくない。」といった声も聞かれます。

これは「目の前で繰り広げられている事態や価値観が違うこと」によるものなので、どちらが正しい・正しくない、よい・わるいといった問題ではなく、どちらのおっしゃることも、それぞれ理解できるものだと思います。

■現在の感染状況

新型コロナの全国の感染状況(6月30日厚労省発表)は、6/19 - 6/25の1週間の定点当たり報告数(報告対象の医療機関当たりの平均患者数)が6.13人となり、前週の1.09倍、12週連続で増加しました。このうち沖縄県が39.48人と全国で最も多く、ことし1月の第8波のピークを超える水準となっています。

また、6/19 - 6/25の新規入院患者数(合計値)は4567人、 ICU入院中の患者数(7日間平均)は、86人、 ECMOまたは人工呼吸器管理中の患者数(7日間平均)は51人となっています。

もちろん、定点把握は全国約5000の医療機関の限定的なデータであり、感染状況について正確な詳細を表したものではありませんが、推移を見れば傾向が分かるということになります。

■感染拡大は、日本だけではない

日本(2023年5月8日~)や米国(同年5月11日~)は、新規感染者数等の報告をやめており、報告を継続している国についても、以前のような精緻なデータ収集をしていないケースが多くなっていますので、正確な比較はできませんが、

WHOが定期的に発表している世界の感染状況によれば、

・5/29-6/25の28日間の新規感染者数上位5か国は、韓国37万1573人、オーストラリア11万1543人、ブラジル7万7022人、フランス4万5306人、シンガポール4万531人、新規死者数上位5カ国は、ブラジル1055人、ロシア517人、オーストラリア343人、イタリア342人、フランス285人となっています。

・5/1-5/28で見てみると、新規感染者数上位5カ国は、韓国47万6087人、米国17万425人、オーストラリア13万8721人、ブラジル12万9610人、フランス10万6803人、新規死者数上位5カ国は、米国3089人、ブラジル1170人、フランス685人、ロシア614人、イタリア606人となっています。

こうしてみてみると、過去のピーク時に比べると大幅に減少してはいるものの、各国においても、新型コロナの感染状況はある程度続いており、韓国やオーストラリアといった日本と近接した先進国においても同様で、決して日本だけが特異な状況にあるわけではないことが分かります。

■抗体保有率が高くても、感染は拡大する

国内で2023年5月17日~31日の間に献血をした1万8048名について、献血時の残余血液を用いて、新型コロナの自然感染による抗体の保有割合を調べたところ、以下のようになりました(厚労省調査)。

〇全国平均42.0%

〇都道府県別

(高)沖縄63.0%、京都50.5%、東京・宮崎52.9%、福岡50.0%、大阪49.5%

(低)石川34.1%、青森34.9%、鳥取・岩手35.7%、和歌山・島根36.7%、山形・新潟37.2%

〇年齢別

16-19歳60.5%、20-29歳53.0%、30-39歳51.4% 、40-49歳46.0% 、50-59歳36.2%、60-69歳28.8%

抗体保有率は、都市部と沖縄で高く、また、年齢が低いほど高くなっていることが分かります。

そうすると、抗体保有率が国内で最も高い沖縄で、現在最も感染が広がっているということになるわけですが、感染によってできた自然免疫も、ワクチン接種による免疫も、どちらも時間の経過とともに低減していきますし、また、重症化予防効果に比して、感染予防効果が持続する期間はより短い、という研究報告もあります。

■今後どうなっていくのか?

WHOは2023年5月5日に、新型コロナに関する「国際的な公衆衛生上の緊急事態」を終了し、日本では5月8日から感染症法上の分類が5類になりましたが、当然ながら、だからといって、新型コロナがもう流行しなくなる、ということではありません。

短期的に言えば、今回の増加傾向が、今後どのくらいのものになっていくかは、現時点ではまだなんとも言えませんが、長期的に見れば、一般的に新興感染症は、パンデミック(世界的大流行)から、エンデミックと呼ばれる「各地域で普段から継続的に発生する状態」になっていきます。

それがまさに、ウイルスとの「共存」なわけですが、ウイルスがゼロになったわけでも、無害なものになったわけでもなく、したがって、(残念ながら)ある程度の感染の広がりと死、そしてウイルスによっては、後遺症といった形で、いずれにしても、人類に対して被害を生じるものであり続けます。

日本にいると想像しづらいかもしれませんが、途上国を中心に、マラリア(62万人(2021年))や結核(150万人(2020年))、HIV/AIDS(65万人(2021年))、通常のインフルエンザ(30-65万人)など、年間数十万~数百万人の死者を出す感染症というのは、たくさんあります。そうしたものに、「新型コロナ」が加わっていく(その場合、長期的には、もはや『新型』ではなくなっていく、ということになります)といったことになろうかと思います。       

■どう行動すればよい?

感染症に対するリスクや、生活・人生において何にどう優先順位を付けるか、といったことは、人によって考え方がそれぞれ異なります。だからこそ、新興感染症の感染が著しく拡大し、甚大な被害が生じているような状況においては、国として「感染拡大を抑えるために、今は、こういう考え方の下で、こういう制限をかけますので、それに従っていただきます」という形で、法律に基づいて、国民の自由や権利を制限する、ということになっています。

なので、冒頭に述べました通り、新型コロナが5類に変更され、緊急事態宣言下でもなく、個人の判断に基づいて行動するとされている現在、今回の増加傾向について発信される危機感に対して、一般社会では、反発やモヤモヤするといった声も上がることになります。

とすれば、ここは今一度、原点に戻り、社会の中でたくさんの人が生活していく中での、一般的な思いやりや配慮といった観点で、考えていただくのがよいのではないかと思います。

高齢者等、リスクの高い方と接するときにはマスクをする、感染が増えてきたのであれば、換気に気を付ける、具合が良くないなと思ったら(自分のためにも周りのためにも)無理をせず休む、など、日常の中での気遣いが、個人や社会の安全と快適につながります。

そして、リスクが高いとされている方は、個人の判断の上、ワクチン接種をなさったりしつつも、感染がこわいから出歩かない、家族にも会えないといった過度な行動の制限を、できるだけしないで済むように、と思います。

通常のインフルエンザでも、感染状況によって学級閉鎖等が行われることもあり、残念なことですが、亡くなるケースもあります。それでも私たちは、日常を継続しますし、流行は繰り返し来る、という前提で受け入れています。

新型コロナについて、通常のインフルエンザと全く同じというわけではありませんが、(今後また、変異によってウイルスの性質が大きく変わり、甚大な被害が出るようになるといったことでなければ)、ある程度気を付けながら、良い意味での諦めと覚悟、そして、この3年間の様々な教訓を胸に、私たちは、力強く、前向きに、社会と日常をしっかりと回していくべきではないかと思います。

◆豊田 真由子 1974年生まれ、千葉県船橋市出身。東京大学法学部を卒業後、厚生労働省に入省。ハーバード大学大学院へ国費留学、理学修士号(公衆衛生学)を取得。 医療、介護、福祉、保育、戦没者援護等、幅広い政策立案を担当し、金融庁にも出向。2009年、在ジュネーブ国際機関日本政府代表部一等書記官として、新型インフルエンザパンデミックにWHOとともに対処した。衆議院議員2期、文部科学大臣政務官、オリンピック・パラリンピック大臣政務官などを務めた。

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