希少金属・ガリウム…中国「輸出規制」の衝撃 米中対立に巻き込まれる日本

米中の対立がエスカレートする中、習政権は7月に入り、中国の安全と利益を守るためとして、希少金属であるガリウムとゲルマニウムの海外輸出を規制すると発表した。中国は世界の市場に流れるガリウムの9割を握っており、日本はガリウムの輸入を中国に依存している。日本の半導体関連企業にも影響が出ると思われるが、どの程度のダメージになるかは現時点ではっきりしない。ガリウムとゲルマニウムは半導体の材料として使われ、スマートフォンの顔認証に使っている面発光レーザーや液晶テレビのバックライトなどの白色発光ダイオードにも欠かせないものだ。

今回の規制発表について、中国政府は特定国を念頭に置いたものではないとしているが、米国が主導する先端半導体の対中輸出規制への対抗措置であることは間違いない。バイデン政権は昨年秋、先端半導体の製造装置や技術が中国によって軍事転用される恐れから、対中半導体輸出規制を導入した。これは、先端半導体がほしい中国にそれが渡らないようにする禁止措置だが、人民解放軍の近代化を押し進める習政権にとって先端半導体は獲得必須アイテムであり、この規制に不満を募らせている。

そして、バイデン政権は今年1月、先端半導体の製造装置で世界をリードする日本とオランダに対して、先端半導体の製造装置が中国に渡らないよう対中輸出規制を要請した。オランダがはじめに協力することを発表し、日本も3月、繊細な回路パターンを基板に記録する露光装置、洗浄・検査に用いる装備など23品目で対中輸出規制を実行することを明らかにし、それが7月下旬から実行に移される。

しかし、ここに来て1つのリスクが表面化している。トランプ政権以降、米中間で貿易摩擦が拡大する中、最近日本が当事者としてそれに巻き込まれつつある。中国の魏建国・元商務次官は5日、中国政府が発表したガリウムなど半導体素材の輸出規制について、今後も中国のハイテク部門を狙った貿易規制が続くなら中国の対抗措置はエスカレートし、制裁の種類や手段は他にも多くあると強くけん制した。また、共産党系機関誌の環球時報は4日、「米国とその同盟国は中国の主要材料輸出の制限に込められた警告に耳を傾けよ」と題した社説を公開した。

習政権は日本への貿易規制をエスカレートさせると発表したわけではないが、環球時報が「米国とその同盟国」と言及したように、日本が先端半導体規制で米国に同調する道を選んだことも相まって、今後は米中貿易摩擦において日本も当事者化する可能性が高い。実際、中国は米国と足並みを揃える第三国への不満を募らせており、今後の半導体覇権競争において日本はいっそう影響を受けそうな予感だ。

日本は新車製造に必要な部品、スマートフォンやノートパソコン、タブレット端末など多くの品々で中国依存が深い。半導体覇権競争で中国の日本への不満がさらに強まれば、半導体とは別の分野にも貿易摩擦が拡大し、日中貿易摩擦と呼ばれる時代がやってくることも既に夢物語ではないだろう。 

◆治安太郎(ちあん・たろう) 国際情勢専門家。各国の政治や経済、社会事情に詳しい。各国の防衛、治安当局者と強いパイプを持ち、日々情報交換や情報共有を行い、対外発信として執筆活動を行う。

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