お外の暮らしは苦しくて…「助けて」と再び捕獲器に TNRで怖い思いをしたはずの猫が戻ってきた
不思議な模様の猫が三重県で暮らしています。あさりくん(推定2歳)です。足の付け根には貝殻のような模様もあるんですよ。だから名前は「あさり」とつけられました。
彼は約60年前に造成された住宅地で生まれ、のんびりお外暮らし。高齢化が進む住宅地ですから、ちょっと可愛い仕草をするだけで誰かがご飯をくれる環境です。仲間の野良猫も多く、このままここで暮らしていくと誰もが考えていました。
■動物病院で怖い目に
ここに介護のため、Uターン移住をしてきた家族が現れます。M家です。M家のお母さんも地域の方と同じく猫が好きで、ご飯をあげたいと思っていました。でも、これ以上増えたら、とんでもないことになると不安にもなったんです。
そこで捕獲器を保護猫団体から借り、TNRをすることにしました。何匹も避妊・去勢手術を行い、元の場所に戻します。これなら地域の高齢者も今までと同じように、猫と触れ合えるでしょう。あさりくんは2022年12月10日に、去勢手術を受けました。推定1歳半の時のことです。
あさりくんは動物病院がとても怖かったようで、その後、お母さんどころか餌場に近づかなくなってしまいました。でも、お母さんは何度か夜に白っぽい猫がこちらを見ているのを目にしています。近寄らないだけで、元気にしていると思っていました。
■「助けて…」と捕獲器に
暖かい季節になっても、お母さんはTNRを続けます。5月13日も仕掛けていた捕獲器を見に行くと、なんとあさりくんがかかっているではありませんか。しかも、やせ細った姿で毛もボサボサです。まさか、こんな姿で再会をするだなんて…。
あさりくんは鳴くことも暴れることもなく、お母さんをジーッと見つめています。「この人、どこかで会ったことある」と言っているかのよう。
お母さんは胸が締め付けられる思いでした。捕獲器や動物病院で怖い思いをしたのに、またこうやって捕獲器に入らねばならないほど困窮しているあさりくん。お母さんはあさりくんが助けを求めていると感じました。
また怖い思いをさせると分かっていても、次の日に動物病院へ。この時、体重を量ってもらうと何と4キロ未満…。成猫の雄とは思えない軽さです。どれだけ苦労をしたのかと、お母さんはまた胸が痛くなりました。
■まずはたくさん食べて!
血液検査で問題がないと分かったため、お母さんはあさりくんを自宅に連れ帰ります。とはいっても、先住猫と一緒にはできません。先住猫たちは猫エイズのキャリアで、TNRも里親探しもできない猫たち。あさりくんは若く、体力が回復すれば新しい家族が見つかる可能性があります。
「お母さんが幸せにしてくれる家族を見つけるからね」
あさりくんはそう言われても、目の前に差し出されたお皿のご飯に夢中です。そんな先のことより、まずはたくさん食べたい。そう言っているかのようでした。お母さんも標準的な体重にさせるために、たっぷりのご飯を与えます。
そうこうしているうちに、あさりくんはふっくらした姿に。毛艶も良くなり、野良猫だった面影は消えていきました。
■「助けて…」ではない?
元気になると家の中を探検したくなるのが猫。あさりくんもまた家の中を探検し始めました。ところが、先住猫たちはあさりくんを見かけると「シャー!」と威嚇します。あさりくんはビックリして、普段過ごしている和室へ避難。先住猫が軽くフェイントのように一歩踏み出すだけでも逃げてしまいます。
怖い思いをしたなら近づかなければ良いのに、次の日になるとあさりくんはまた同じことをします。やっぱり怒られて、和室に逃げての繰り返し。この様子を見ていたお母さん、あることが頭に浮かびました。それは、あさりくんは普通の猫より忘れっぽいということ。
「助けてほしくて捕獲器に入ったんじゃないのかも…」
あさりくんは色んなことを忘れるから、それを怒られて、逃げて…。気付けばテリトリー外に出て、ご飯が食べられなくなっていたのではないかとお母さんは予想しました。捕獲器に入ったのも、捕獲器が怖いと忘れていたからでしょう。
■みんなのお兄ちゃんに
当のあさりくんは、それを気にしている風もなくとても楽しそう。
「こっちがダメなら、こんどはこっちに」
そうやって新しい道を見つけるタイプ。陽気に過ごしているものですから、他の保護猫たちは一緒にいて安心できるよう。人間には「フー!シャー!」といっている子猫も、あさりくんにベッタリ。あさりくんが楽しそうなことをしていたら、真似もするんです。
例えば、あさりくんがお母さんのお膝に乗って嬉しそうにしていると、今まで「フー!シャー!」といっていた保護猫も、「なでられるぐらいなら…」と触らせてくれるように。
このあさりくんの姿にお母さんは、いつ新しい家族のもとへ行っても大丈夫だと感じました。人間とも猫とも仲良くできる。
■忘れることの幸せをあさりくんと一緒に
最近、お母さんは、あさりくんを見ていて思うことがあるんです。それは「忘れるからこそ幸せ」ということ。嫌な思いをずっと引きずるのではなく、それはそれとキッパリ忘れることが楽しく過ごす秘訣なのではないかと。
それなのに、あさりくんは2度目の捕獲器に入った時、お母さんは覚えているようでした。それは、それまでがとてもつらい出来事の連続だったからでしょう。
そんなことも全て忘れさせてくれるあさりくんの新しい家族を、お母さんは待っています。つらいことが忘れられず前に進めない方にこそ、あさりくんと一緒に忘れる幸せを感じてもらいやすいでしょう。
あさりくんは今後、津市と名張市で開催されている譲渡会に参加予定です。見かけたら、声をかけてみてくださいね。あさりくんもお母さんも待っています。
(まいどなニュース特約・ふじかわ 陽子)