閉館相次ぐ冬の時代になぜ? 大阪で新たなミニシアター誕生へ 関係者に聞いた
2023年10月3日に大阪・扇町にミニシアター「扇町キネマ」が誕生する。大阪では2022年9月末にテアトル梅田が閉館するなど、コロナ禍を経て深刻さを増している映画館“冬の時代”に、どんなビジョンと勝算があるのだろうか。現在、インターネットで事業の資金を調達するクラウドファンディング(CF)に挑戦中の「扇町キネマ」スタッフに話を聞いた。
話を伺ったのは「扇町ミュージアムキューブ」(以下:OMC、運営:株式会社シアターワークショップ)のキャメロン瀬藤謙友さんと宮下忠也さん。扇町キネマは、3つの劇場と、7つの多目的スペースを有するこの複合文化施設の中の事業の1つとして運営されるという。
-なぜOMCでミニシアターをオープンさせようとしているのですか。
キャメロンさん「初めはOMCでミニシアターを運営する考えはありませんでした。もとより様々なジャンルのアートやイベントがいつでも楽しめる場所を目指していたのですが、舞台芸術が中心のラインナップになりつつありました。舞台芸術はどうしても週末の興行がメインとなりますので、平日でも楽しめる催事として生まれたアイデアの1つが映画の上映だったのです」
「しかし、私たちに映画上映のノウハウはありませんでしたので、在阪の映画監督・西尾孔志さんに『上映会』の相談をしに行ったところ、『だったら映画館をつくりましょうよ』と盛り上がりまして、新しいミニシアターの構想が動き出しました」
だが、そんな「扇町キネマ」プロジェクトの前には大きな壁が立ちはだかったという。
■立ちはだかるプロジェクター、DCP問題
宮下さん「上映作品の編成に幅を持たせるためにデジタル・シネマ・パッケージ(DCP)に対応する機材が必要だったんです。DCPがあると、新作映画や、例えばハリウッド映画のような規模の大きな作品も上映が可能になります」
「とはいえ、もともと扇町キネマのオープンはOMC全体の事業構想になかったので、当初の予算にDCP対応の機材費は含まれていませんでした。でも私たちはミニシアター計画を実現させたい。そこで思いついたのがCFです」
CF実施の理由をキャメロンさんが詳しく語る。
「確かに機材の購入のために費用が必要です。ただ、数ある資金調達の方法からCFを選んだのは、今回をきっかけに『扇町にミニシアターができる』ということを多くの人たちに知って欲しかったからということもあります。コロナ禍を経て、映画館に行く理由は『体験すること』にあるのではないかという思いが強くなりました。OMCは映画以外にも演劇公演などが行われる、多くの人たちが体験を共有できる場所です。ミニシアターもその1つだと考えています」
これまで劇場公開映画の美術監督などの経験もあるという宮下さんは、初めて挑戦するミニシアター運営への抱負について、次のように語ってくれた。
「ミニシアターは運営側の個性が出やすく、映画を観に来てくれたお客さんからの反応がダイレクトに届く場所です。ですので、お客さんと僕たち運営側が一緒になって、扇町キネマという“場”を育てていくことができるのではないかと考えています。それは映画の制作現場とは異なる映画との繋がり方。今からとてもワクワクしています」
■10月のオープニング作品は特集上映に
最後に「映画館」としての展望をお聞きした。
「多様な表現に出合えるのがOMCの魅力です。他の映画館にはない点だと思いますし、ミニシアターとして生き残っていくキーになると捉えています」(キャメロンさん)
その上で、「将来的には独自の新鮮で面白い表現を楽しんでもらえるように盛り上げていきたい」と締めくくった。
オープニングは「ミニシアター・リターンズ:Masterpiece」と題した特別企画を予定。ミニシアターを彩ってきた、まさにマスターピースといえる珠玉の名作たちをピックアップした。
第1弾発表ラインナップは、『ブエノスアイレス』(ウォン・カーウァイ監督/1997年)、『ひなぎく』(ヴェラ・ヒティロヴァー監督/1966年)、『Smoke デジタルリマスター版』(ウェイン・ワン監督/1995年)、『鉄男』(塚本晋也監督/1989年)、『鏡』(アンドレイ・タルコフスキー監督/1975年)。今後も作品は続々と追加予定とのことなので、ぜひ注目していただきたい。
(まいどなニュース特約・宮本 裕也)