「盗難被害よりきつかった」家系ラーメンのガラス戸破られ、券売機強奪 開業から守り続けたスープ廃棄「どんな気持ちで捨てるか」
横浜家系ラーメン店に何者が押し入り、券売機が強奪される事件が起きました。7月28日早朝、千葉県佐倉市の横浜家系ラーメン武道家 心(しん)のガラス戸が破られ、現金が入った券売機が持ち去られました。店長は迷った末、開業時から守ってきたスープを捨てる苦渋の決断を下しました。
「券売機の窃盗被害よりスープを捨てるほうがつらかった」と話す店長に聞きました。
■怒りと悲しみがあふれた
ーー被害に気づいたのはいつごろですか。
「7月28日の午前4時台に店の入り口のガラスが割られたと、警備会社から電話がありました。『ガラスを割るイタズラか』と思って店に駆けつけたら、券売機が持ち去られたことが分かりました」
券売機は店がある佐倉市の西隣、八千代市に打ち捨てられていました。
「券売機は工具か何かで切られ、こじ開けられ、現金が奪われていました。券売機が閉まらなくなったので、新しい機械を注文し、ガラス戸も割られているので、被害額は70~80万円くらいになると思います。今後、券売機の現金は毎日すべて回収します」
2022年5月のオープンから店の会計を支えた券売機の無残な姿を目の当たりにし、店長はTwitter(現X)で「怒りと悲しみが同時にあふれたよ。切られて痛かっただろうし怖かっただろうな」「券売機だって立派な店の仲間だ。ぜってー許さない!」と怒りをあらわにしました。
■どんな気持ちで捨てるか
現金被害以上にこたえたのが、独立開業以来、守ってきたスープを捨てざるを得なくなったことでした。
「何者かが無人の店内に侵入した以上、万が一のことがあってはいけない。家系ラーメンのスープは毎日つぎ足し、1年2カ月守ってきたものですが、廃棄せざるを得ませんでした」
窃盗犯がスープに異物を入れた可能性を排除できないため、苦渋の決断を下しました。
店には犯人が履いていたと思われるサンダルが片一方残されていました。ずさんな犯行に「お前はこんなこと(窃盗)で幸せになれるのか」と感じたといいます。
店長はTwitterには「スープ怖いので全て捨てます」と投稿し、「武道家本店からいただいたタネスープから作ってんだぞ。このスープが千葉に来るまで武道家本店でいろんな人が真剣に自分の仕事と向き合ってできたスープだぞ。物は金で買えても職人の情熱や気持ちは買えねーぞ」「これを俺がどんな気持ちで捨てるか考えろや」と犯人に投げかけました。
■周囲に励まされ、再開
窃盗被害に遭った28日の午後には、のれん分けしてもらった武道家本店(東京都新宿区)や兄弟店からスープを再び分けてもらい、仕込みを再開しました。翌29日まで煮込み続け、営業時間を遅らせて午後2時から営業を始めました。
「本店からスープをいただいたこともそうですが、周りの飲食店やお客さんが栄養ドリンクやジュース、そぼろ丼を差し入れてくれたり、『頑張ってください』と励ましてくれました」
◇ ◇
周囲の支えもあって、横浜家系ラーメン武道家 心のとろみの強いスープは復活しました。「濃いスープは海苔とラーメンとご飯と合わせて食べてもらえたら。家系でもマニア受けのほうかもしれません」と店長は言います。新しい券売機が届く8月初旬までは手売りで対応するといいます。
(まいどなニュース・伊藤 大介)