ペットロスを乗り越え、出会った黒猫が“人生”を変えた 猫の魅力をもっと知ってほしい…里親募集サイト運営者が始める「保護猫カフェ」
子どものころ一緒に過ごした犬や猫は、永遠に心に残っていくもの。大阪府でweb広告作成の会社を経営する梅本健一さん(36歳)にも、そんな思い出の犬がいます。
この犬は、梅本さんが小学校に入学するかしないかのころ、梅本家に迎えられました。近所の犬が生んだ子です。梅本さんと共に大きくなり、一番の友達に。しかし、梅本さんが18歳の時、虹の橋のたもとへ…。
梅本さんはこの愛犬との別れに、大きなショックを受けました。こんな別れをもう二度と経験したくないと、犬だけでなく動物との接点を持たないように。愛情深さが酷いペットロスを引き起こしたのです。
■雨の神社の境内、さまよう子猫
愛犬との永訣から7年後、梅本さんは実家を出て社会人として働き始めていました。馴染みの店も出来て、いつものように顔を出すと見慣れない貼り紙が目に飛び込んできます。そこには「黒猫の里親を募集しています」と。
詳しい話を店主に尋ねると、大雨の日、フラフラと神社の境内をさまよっていたようです。生後1カ月ほどで可愛らしい猫なのですが、なかなか里親が見つからないよう。それを聞き、梅本さんは思わず言ってしまいました。
「そしたら、うちで飼うよ」
どうやら時間が愛犬との別れを癒してくれたよう。この時の梅本さんは、いずれ訪れる別れの恐怖よりも、どこにも迎え入れてもらえない子猫に心を寄せました。
急いでホームセンターで必要な物を購入し、子猫を迎え入れます。名前はこれから一緒という思いを込めて「ウィズ」としました。
■独身男性は猫の里親になれない
ウィズくんとの楽しい生活が始まります。でも、梅本さんが仕事中はひとりぼっちのウィズくん。寂しいのではないかと思い、友達を迎えることにします。早速、里親募集サイトを閲覧。しかし、譲渡条件を見ると独身男性がNGにしている保護団体が多いこと。何とか独身男性でも譲渡してもらえる個人を、里親募集サイトで見つけました
その方は保護猫活動をしているわけではなく、たまたま拾った猫が妊娠していたとのこと。乳離れした生後3カ月ごろの子猫を、梅本さんに託します。それが、レオくんとレイちゃんです。
3匹はすぐ仲良くなり、一緒に遊んだり寝転んだり。この姿を見ることが、梅本さんの一番の幸せになりました。別れを恐れて、動物を避けていたのが嘘のよう。
■里親募集サイトを作ろう!猫カフェも作ろう!
ペットロスという長いトンネルを抜けた先にあったのは、猫たちとの幸せな日々。心躍る毎日に、梅本さんは思います。もっと使いやすい里親募集サイトがあれば、自分のように幸せを感じる人が増えるのではないかと。幸い競合他社は少なく、斬新なサイト運営なら採算が取れると踏みました。
2018年12月、今まで経営してきた会社とは、別に一般社団法人を立ち上げます。それが「和(わ)」です。2019年6月には、梅本さんの思いがこもった里親募集マッチングサイト「ぽちとたま」が開設されます。「ぽちとたま」を通じて新しい家族が見つかった犬や猫は、2023年7月時点で、なんと2106匹!
しかし、どうしても里親が見つからない動物も出てきます。ウエブ上や譲渡会では十分に魅力を発揮できないのでしょう。お手伝いを続けている保護猫団体でも、そのような猫は何匹もいます。その子たちのために何か出来ないかと考えた梅本さん。
「そうだ、保護猫カフェを作ろう!」
■おそらく日本初!バリアフリーの猫カフェ
実は当初、経営する会社の事務所で保護猫活動をしようと考えていたんです。計画を練っていく中、たくさんの人に足を運んでもらえる猫カフェに変更。元はドッグカフェだった良い物件も大阪市天王寺区に見つかり、オープンに向け邁進します。
今まで猫と触れ合ってこれなかった人にも楽しんでもらうため、店内はバリアフリーに。店内用の車いすも用意します。どうしても車いすから降りられない方は、車輪の消毒を念入りに。
おそらく日本で初めてのバリアフリー猫カフェ。胸を弾ませる梅本さんでしたが、工務店からの見積書に目玉が飛び出します。想像以上にお金がかかるんです。手すりの設置や車いすも入れるトイレ、引き戸は外せない条件なのに…。
諦めきれない梅本さんは、クラウドファンディングで支援を呼びかけました。体が不自由でも、高齢者でも、小さいお子さんでも、楽しんでもらえる猫カフェのためにご協力くださいと。
梅本さんの思いに賛同してくださった方が支援をし、現時点で100万円以上の寄付が集まっています。それだけ期待値が高いのでしょう。
■目標はショッピングモールに出店
梅本さんの今後の目標は、まずオープンする猫カフェで利益を上げること。この利益でTNRのサポートもしていきたいのだそう。第2の目標は、店舗の拡大。各地に保護猫カフェができれば、もっと多くの人が猫と親しめます。
最終的な目標は、ショッピングモールから誘致してもらうこと。すでに非譲渡型の猫カフェはあるので、いずれ保護猫カフェも誘致してもらえるのではないかと考えています。多くの人が行き交うショッピングモールなら、保護猫が新しい家族と出会えるきっかけも増えるでしょう。
もう1つ、梅本さんには夢があります。それは、収益のある保護猫活動の仕組みを作ること。収益があれば、保護猫活動により一層打ち込めます。そうすれば、収入の不安で尻込みしていた男性も保護猫活動に参加しやすくなるのではないでしょうか。
■お金をいただくからこそ責任をもって
野良猫問題など社会課題を解決することでお金をもらうことに抵抗を持つ人は、日本では少なくありません。「お金をもらうのは忍びない」と考えてしまいます。しかし、梅本さんはこう考えるのだそう。
「お金をいただくからこそ、私は責任を持ちたいと思います」
プロとして社会課題を解決することが当たり前になるよう、梅本さんは行政や福祉団体とも提携し邁進を続けます。
そんな梅本さん念願の猫カフェ「ねことカフェ」は、今年10月ごろオープン予定です。お近くの方はぜひ足を運んでみてくださいね。
(まいどなニュース特約・ふじかわ 陽子)