保護され寝たきりになったセントバーナード「うちで看取ろう」→気付けば“犬専用の家”まで建てちゃった
セントバーナードのミントちゃんは、お散歩が大好き。毎朝、お父さんと一緒に近所をぐるりと回ります。でも、ミントちゃんは犬が嫌い。思わず飛び掛かってしまいます。だからお父さんはミントちゃんと他の犬のために、犬の姿が見えたらルートを変えていました。
そうやって気を遣ってくれるお父さんのことが、ミントちゃんは大好き!1日中、お父さんと一緒に過ごします。一緒に過ごすのは、お父さんがミントちゃんのために建てたお家。通称「ミントハウス」です。
■お父さんの夢
お父さんがここまでするのには理由があります。それはセントバーナードとまた一緒に暮らしたいと、長年願っていたから。少年時代、共に成長したピンキーちゃんのようなセントバーナードと。
その夢を叶えてくれたミントちゃんを、お父さんはまるで我が子のように可愛がります。夏の暑い日はプールを出して水を掛け合いっこしたり、冬の寒い日はくっついたり。ミントちゃんの調子が悪かったら、何があろうと病院まで車を飛ばします。
お父さんはミントハウスにベッドを置いて、夜は一緒に寝ていたんですよ。もうメロメロ。ミントちゃんも嬉しいから、お父さんにべったり。
そんなお父さんとミントちゃんの姿を微笑ましく見るお母さんは、あの日のことを思い出していました。それは2013年1月12日のこと。ミントちゃんを迎えた日です。
「寒い日だったな」
■褥瘡のできたセントバーナード
実はミントちゃん、保護犬です。2013年1月1日に公園でヨタヨタと歩いているところを、警察に保護されました。保護された途端、あれよあれよと寝たきりに…。褥瘡(床ずれ)もでき、もう長くないと思われました。
1月10日、動物センターへ移送。動物管理センターは公示を出し、それを見た人がTwitterを流します。それを目にしたお母さんが、何気なくお父さんにセントバーナードが保護されていると知らせたのです。お父さんの胸はかき乱されました。思い出の犬、セントバーナードが辛い目にあっている…。
お父さんはお母さんに頼みます。「その子は長い命ではないかもしれないけれど、せめてうちで看取ってあげたい。今住んでいるマンションで超大型犬の飼育は難しいのは分かっている。だから、仕事場のガレージを片付ける。そこで面倒を見てやりたい」と。お母さんは熱いお父さんの思いに応え、同じ町内にある仕事場の片づけを一緒にしました。その後、二人で動物管理センターへ。
2013年1月12日、お父さんとお母さんは指定された場所に足を進めます。センターの駐車場、冷たいアスファルトの上に設置されたサークルの中央に、ミントちゃんはいました。所在なさげに、ポツンと座っていたのです。
■29キロのセントバーナード
寝たきりだと聞いていたのに、座っていることにお母さんは驚きます。あとで聞くと、動物センターの職員が鶏肉など買って食べさせてくれていたとのこと。それで少し元気になったよう。
「さあ、行こう」
お母さんはミントちゃんに声をかけました。ミントちゃんはうなずく元気もなく、抱えられ車に。お母さんはこの時、ミントちゃんが骨と皮だけの体だと気付きました。そこで家に直接帰らず、動物病院で検査を受けます。歯の状態から年齢は7~10歳。腰も曲がっていました。体重は大型犬なのに、わずか29キロしかありません。
29キロとはいえ、歩けない大型犬を移動させるのは一苦労。一人がミントちゃんの腰にバスタオルを巻き吊り上げ、もう一人がリードをひく。そうやって、ミントちゃんをこれから過ごすガレージに案内しました。車2台分のガレージは屋根もありベッドも置いたので、動物管理センターに比べると過ごしやすいはず。
旅立ち間近かもしれないけれど、食べれるなら何でも食べてほしい。お父さんもお母さんもたくさん、ミントちゃんにご飯を出しました。ミントちゃんは出されたご飯を全部たいらげます。
1週間もすると、立ち上がってこんなことを言っているかのよう。
「ごはん、まだ?」
■ミントハウスを造るぞ!!
満腹になるまでご飯を食べると、今度は活力がわいてきます。お散歩に行きたくなってきました。お父さんは大喜び!行こう行こうと、夢にまで見たセントバーナードとのお散歩をミントちゃんとします。
こうなると、いつまでもガレージに置いておくわけにはいきません。ミントちゃん専用の家を建てる計画を立て始めます。工務店を営んでいるお父さんが図面を引き、元々お祖母ちゃんが家庭菜園をしていた土地を自ら整地。職人さんの手配もしました。
2013年初夏、本格的に工事が開始。その間、ミントちゃんは保護施設に預かってもらいます。もちろん、正規の預かり料金をお支払いして。週末にお父さんとお母さんは連れ立って、ミントちゃんに工事の進捗状況を報告します。それを聞くミントちゃんの表情は生き生きとしていました。
約1カ月後の2013年夏、ミントちゃん専用の家「ミントハウス」が完成。小さなキッチンやシャワールームもある、10畳ほどの小さな家です。広いドッグランもあり、ミントちゃんは大喜び!元気に駆け回ります。
あれ?走れてる?寝たきりだったよね?
■お日様に包まれて
ミントハウスが出来てからはというものの、ミントちゃんは驚異的な回復を見せます。29キロだった体重は、いつの間にか64キロに。毛艶も良くなり、たくさんの人がミントちゃんを「かわいい」と褒めてくれます。まさか、骨と皮だけだったとは思いもよらないでしょう。
お散歩のあとは、ドッグランでお昼寝。それがミントちゃんの日課になりました。お昼寝するミントちゃんを、仕事場のある母屋の2階から眺めるのがお父さんの日課です。
2018年3月4日はお散歩へ行ってから朝ごはんを食べ、ミントちゃんはドッグランでお昼寝。ぽかぽかとお日様に包まれて、ミントちゃんは静かに目を閉じました。そのミントちゃんの姿をお父さんは2階から眺めてから、目の前の仕事に集中。
太陽がてっぺんに到着する寸前、お父さんはドッグランへ目をやると、ミントちゃんの体勢が朝から変わっていないことに気付きました。急いでドッグランまで行き、ミントちゃんの肩をゆすります。ミントちゃんはぴくりとも動きません。お父さんはお母さんに電話をかけました。
「ミントが息をしていない!」
お母さんがドッグランに到着した時には、お父さんはミントちゃんのそばで呆然としていました。涙も出ません。あまりにも突然すぎる永訣。
主を失ったミントハウスは、ガランと広くなってしまいました。
■虹の橋のたもとへ手紙を届けたい
ミントちゃんが旅立ち、5年が経ちます。今のミントハウスの住人は、2度飼育放棄され保護施設にいたセントバーナードのジンジャーくん。お父さんはジンジャーくんに、ミントちゃんの話をします。ジンジャーくんは、うんうんと耳を傾けてくれるんですよ。
お母さんはそんなお父さんとジンジャーくんを眺め、目を細めます。そして思うんです。あの時、ミントちゃんを迎えて良かったと。看取りのつもりだったのに、これだけ大きく幸せな思い出を私たちにくれたと。
ミントちゃんはどう思っているのかな?虹の橋のたもとから手紙が送れたら良いのにね。お父さんとお母さんは、手紙を届けたいと思っているよ。
また会いたいね、ミントちゃん。
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保護主:悠里さん
(まいどなニュース特約・ふじかわ 陽子)