戦艦大和の「カレイライス」、空母蒼龍の「ヘルシーステーキ」 旧海軍グルメは超ヘルシー&エコロジー!
旧日本海軍の艦艇で乗組員に提供された食事は、戦時中でもわりあい恵まれていたと聞く。艦艇乗組員たちは、どんな食事を食べていたのだろうか。広島県呉市にあるクレイトンベイホテルでは、当時のレシピを再現する取り組みを行い、お客さんに提供している。同ホテル総務部経営企画室に聞いた。
■海軍料理研究家と出会い、当時のメニュー50種以上を再現
クレイトンベイホテル(以下、ホテル)が建つ場所は旧日本海軍の軍需部跡で、当時は魚雷庫や機雷庫があった。現在のホテルからは、海上自衛隊の艦艇を見ることもできるそうだ。
「時間帯にもよりますが、護衛艦や潜水艦などを11階朝食会場、7階以上の海側の客室よりご覧頂けます」
ちなみに11階にある朝食会場は、水線上からの高さが41メートル。これは大和の艦橋とほぼ同じ高さだとか。
「干潮や船の積載量により数メートルの誤差が生じますので、『おおよそ』や『ほぼ』と表記しております」
海軍ゆかりの街にあるホテルとして、旧海軍グルメに関して以前からオムライス、フーカデンビーフ、ライスプリンなどは扱っていたという。海軍料理研究家の高森直史氏と出会い、当時のレシピを提供されたことで、本格的に海軍料理の再現に取り組むことになったそうだ。
海軍史の研究者でもある高森氏は元海上自衛官で、第4術科学校研究部長や舞鶴地方総監部経理部長などを歴任して、1994年に1等海佐で退官。「海軍史研究者として、呉海軍軍需部の実績と海軍主計科士官たちの信頼を後世に伝えたい」と語る。
「コワモテ料理長」を中心とした調理スタッフが高森氏から教えを受けて、これまでに50種類以上の海軍レシピを再現してきた。
高森氏によると、基本は明治時代から遠洋航海などで学んだ西洋料理(特にフランス料理)であり、和食は京都、東京、大阪、神戸などにあった有名料亭の料理人たちから習った料理法が海軍に継承されたものだという。
また、かつて海軍主計兵だった人からも「大事なところは守り、それを超える工夫や心がけも大事で、どんどんアレンジしていってもいいのだ。海軍経理学校は基本を教えるだけ」という証言を得ているそうだ。
■海軍の献立は…健康食で食品ロスを減らす工夫がいっぱい
艦艇に積み込める食材の量には限りがある。当時の献立を再現してみて、貴重な食材を最大限に有効活用していた工夫が見えてきたという。
「当時のレシピを再現してみて印象的であったのは、アラや牛骨なども無駄にせず、極力ゴミを少なくする海軍さんの知恵と工夫が見受けられたことです」
たとえば、金目鯛を使った鯛めし。一般家庭だと「アラ」は捨ててしまうが、旧海軍ではスープを取ったという。また、現代の食品ロスが多い理由を「美味しく見せようと、見た目を重視している部分が多い」と分析。もちろん、それだけが理由ではないが、無駄が発生する一因ではあるだろう。旧海軍は「栄養と美味しさ」が重視されていた。野菜は茎やヘタの部分にも多くの栄養素が含まれており、無駄なく使われていたのだ。肉や魚も骨が柔らかくなるまで調理されていて、食材を無駄にしない工夫が随所に見受けられたそうだ。
「まさしく海軍料理は、健康食(栄養食)だと感じています。食品ロス削減に活用できる気づきは多いです」
また、狭い艦内での生活で訓練に明け暮れる日々は、ストレスが多かったはず。食事関係を担当する主計科の士官は、乗組員たちの健康管理に苦心したはずだ。
そこで、食欲が落ちやすい夏の暑い時季には、麦飯のほか牛肉、鰻、素麺など夏場でも食べやすく、精力がつく食事を配慮されていたことも、当時のレシピからうかがえるそうだ。
「兵員に飽きさせずに食べさせるための苦労が偲ばれます。当時は食材や空間も限られており、その中での作業は相当大変なものだったと思います」
■現代では手に入りにくい食材も
当時のレシピの中で、現代では手に入らなくなったり使われなくなったりした食材はあるのだろうか。
「当時、お肉といえば和牛、魚は養殖ではなく天然が使われていましたが、現代では海外から輸入したり養殖の魚を使用したりして違いを感じます。また、戦艦長門で有名な鯨カツですが、当時は風味が極めて良く、生牛肉と変わらない鯨肉が豊富にありましたが、現代は貴重な食材になりました」
また、高森氏によると「呉の軍需部では、食材がなんでもそろっていた」という証言を、しっかり聞いているとのこと。
「当時のレシピには松茸が使われている記載も見受けられますが、現代では高価すぎて使えない食材となりました」
松茸は入手できても、原価が高すぎてしまうため、再現したくてもできないのだとか。
■再現された料理を味わうことができる
旧海軍料理の一部は、ホテルで味わうことができるそうだ。
「グランドメニュー、宿泊プランメニュー及び季節の商品としてお楽しみいただけます」
一例をあげると、グランドメニューとして「航空母艦瑞鶴御膳(2970円)」「戦艦陸奥のすき焼き御膳(2420円)」、宿泊プランメニューとして「戦艦陸奥の司令長官用まぼろしのすき焼き」「空母赤城の酢豚御膳」、季節のメニューとして「鬼怒&大鯨御膳(4180円)」「軽巡洋艦由良の串刺しおでん」など。
「ほかに、海上自衛隊関連及び呉海軍グルメ研究会の会合の際に長門のカツレツ、赤城の酢豚、出雲の午餐会メニューなどをご提供する場合がございます」
SNSでの反応も上々で、「歴史を感じる食事という稀有な経験ができた」と投稿されたこともあるそうだ。
ちなみに、戦艦長門の「おはぎ」は、2個300円でテイクアウトできる。このおはぎにも、当時の工夫が偲ばれるという。
「当時は、砂糖が貴重でした。甘みを引き立てるために、塩を入れていました」
今後は、戦艦長門の「鯛麺」と、同じく「カレイライス」を再現する予定があるとのこと。
「海軍料理は、長期にわたる洋上生活の中で野菜や果物不足のために体調を崩さないよう考案され、食材不足を工夫で補う海軍の知恵が表れています。また、添加物等を使わない健康食です」
海軍料理に興味のある人は是非、海軍の街・呉市を訪れてほしいとのことだった。
(まいどなニュース特約・平藤 清刀)