明るい髪色を見て「あなたに猫は譲れない」!?…保護団体から“無理難題”を突きつけられた時の対応策は【弁護士が解説】
独身の女性が保護猫を家に迎えたいと、譲渡会に参加したところ、保護団体から無理難題な条件をつけられ、ショックを受けたというニュースが、話題になったことがありました。
「まいどなニュース」に掲載された記事によると、保護団体は女性の明るい髪色を見て、「そんな髪色でまともな仕事に就けるわけがない」と中傷。家を空けるのは4時間までで人並みの収入を確保するように-といった現実的に不可能な条件を提示してきたといいます。別の譲渡会では「(1匹だと可哀想だから2匹ならOKとされながら)あの保護主の猫と一緒では譲れない」「45畳以上のリビングがある家以外は譲れない」と言われたこともあるそう。
女性は自分がちゃんと働いていることや具体的な年収、ペット可のマンションに住んでいることなどを伝えたそうですが、結局、理不尽な理由で譲渡拒否されたといいます。
猫の譲渡をめぐっては、譲渡後も保護団体から過干渉とも思えるようなヒアリングが繰り返されるケースもあるといいます。譲渡を受ける際や、受けたあとに、非常識な飼育条件を突きつけられた場合、断ることなどは可能なのでしょうか。ペットに関する法律問題を取り扱っているあさひ法律事務所・代表弁護士の石井一旭氏が解説します。
■譲渡の際に交わす契約書は…内容をよく確認して
記事で紹介された譲渡会は、引き取り希望者の見た目だけを捉えて問題視したり、保護団体同士の反目で譲渡を断ったりと、理不尽な扱いがされています。ほとんどの譲渡会は、行き場のない子犬や子猫の引き取り手を懸命になって探しているのですが、残念ながら、一部の譲渡会では時折このような恣意的な話がみられるようです。
また、譲渡先の飼育環境を心配するあまり、保護団体や保護主が過干渉になってしまい、譲渡先との間でトラブルに発展するケースも見受けられます。
譲渡の可否を見た目だけで判断する取り扱いに、なにか物申せないのでしょうか。
譲渡会で引き取りを受けるためには、所有権者(この場合保護主)の同意を受けて譲渡(無償であれば贈与、譲渡に対価が伴えば売買)の契約を成立させなければなりません。そして譲渡にあたってどのような条件をつけるか、その条件を承諾の上で引き取るかは、当事者が基本的に自由に判断・決定できます。
ですので、「髪の色が明るい人には譲らない」「あの保護主の猫と一緒では譲れない」と理不尽な条件を突きつけられても、そのことを裁判に訴えて修正・撤回させることはできません。残念ながら引き取りを諦めるか(こんな条件を突きつけてくる保護主から引き取れば、いずれまた別のトラブルに発展するのではないでしょうか)、それでもどうしても貰い受けたいのであれば、理不尽な条件を提示する保護主を説得して条件を変更・撤回してもらうしかないでしょう。
ではその理不尽な要求が、引き取り後に提示された場合はどうでしょうか。
例えば、譲渡に際して、譲渡後も保護猫の状況を時々報告してほしい、という条件が結ばれることはしばしば見られます。保護主が譲渡後の猫の様子を心配する気持ちはわかりますが、この条件が「毎日写真を送ってほしい」「3時間毎に写真を送ってほしい」「1時間毎に…」と、どんどん理不尽な要求にエスカレートしてしまった場合はどうでしょう。
ペットは法律上、飼主の所有物となります。そして、所有権を有する者は、法令の制限内において、自由にその所有物の使用、収益及び処分をする権利を有します(民法206条)。ペットの「使用、収益、処分」というと違和感があるでしょうが、ペットの場合は飼育・飼養や譲渡のことを指していると捉えてください。
したがって、ペットの譲渡が完了した場合、元保護主であろうと、譲渡をコーディネートした人物・団体であろうと、飼主のペットの飼い方に干渉することは原則としてできません。ですから、譲渡の際に約束付きで譲渡を受けた場合はともかく、譲渡後になって非常識な要求や飼育条件を突きつけられたとしても、飼主はそれに応じる必要はありません。
なお、譲渡の際に条件提示があり、その条件を承諾して(条件付きで)譲渡を受けた場合は、所有権を盾にして条件の履行を拒むことはできません。
これは契約に基づく義務なので、ペットの所有権とは無関係に生じる義務だからです。約束したことは守らなければならない、ということになります。
譲渡の際、契約書を交わすことが多く見られるようになってきました。細かく難解な契約書を読み込むのは大変かもしれませんが、一生に何度もあるかどうかわからない重要な話です。特に「これに違反した場合は猫を返してもらいます」という解除条件が設定されている場合は、しっかりと目を通して、わからない部分は質問し、また不可能・不都合な条件は相談するなどして、保護主と認識を共有しておきましょう。
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【今回解説した記事】
▽明るい髪色に「まともな職に就いてる?」「45畳以上のリビングが必要」…猫の譲渡会で困惑した“中傷”と“不可解ルール”
◆石井 一旭(いしい・かずあき)京都市内に事務所を構えるあさひ法律事務所代表弁護士。近畿一円においてペットに関する法律相談を受け付けている。京都大学法学部卒業・京都大学法科大学院修了。「動物の法と政策研究会」「ペット法学会」会員。