「議員が発信すべきはこういう情報では」と反響 炎上した自民党女性局の海外研修、全労連がフランスの社会保障リポートを緊急公開

「3泊5日で実働6時間」という実態が明らかになるなど、自民党女性局のフランス研修に向けられる批判、疑問の声が一向に収まりません。そんな中、全国労働組合総連合(全労連/@zenroren)による8月4日のTwitter(現X)投稿が注目を集めています。「自民党女性局によるフランス研修が話題になっていますが、ここでフランスの社会保障のあり方についての報告を緊急オンライン公開したいと思います。ぜひ研修の成果を政策に活かしてほしいですね。」とコメントを添えた上で、月刊全労連2023年7月号から、フランスの子ども家庭福祉研究者・安發(あわ)明子さんによるリポートを全文掲載。妊娠検査と出産の費用が無料で、保育は生後2カ月半から働いていなくても利用できる…といった社会保障に対するフランスの姿勢がわかりやすくまとめられています。

■生活保護費、最低賃金、平均賃金は日本の1.5倍

安發さんが主な調査フィールドとしているのは、パリ市とその北にあるセーヌ・サン・ドニ県。特に後者は移民の割合が非常に高く、左派政権が強いため、福祉に力を入れているのが特長といいます。

安發さんのリポートからは、年金や生活保護、妊娠・出産、教育などの「保障」のあり方が、日本とフランスとではずいぶん違うことが窺えます。この記事の冒頭、フランスでは「妊娠検査と出産の費用が無料で、保育は生後2カ月半から働いていなくても利用できる」という部分を紹介しましたが、例えば年金については「フランスには老後の蓄えという概念がない。65歳以上はそれまで年金を納めていなくても、基礎年金を月14万1700円受け取る」とあります。リポートによれば、65歳以上の相対的貧困率は日本が19.6%なのに対し、フランスはOECDで最も低く3.6%。また65歳以上の男性の就労率は日本が33%でフランスは3%だそうです。安發さんは「ちなみに物価は日本の方がやや高く、フランスは生活保護費も最低賃金も平均賃金も日本の約1.5倍である」とも書いています。

では子供の教育や貧困、女性の就労支援についてはどうでしょうか。

リポートは「無料で産み、子どもは望む教育を受けることができる」として、教育費についても「3歳から16歳の義務教育は無料で、大学や大学院、専門学校も無料か収入があっても学費は3万円程度である」と紹介。入学金という制度もなく、生活費のための奨学金は返済不要なのだそうです。安發さんは「子どもの貧困は、実際には制度と大人の貧困である。社会保障によって子どもに降りかかる貧困のハンデを減らすことができる」と指摘しています。

さらに「男性の働き方も、女性の就労が可能であるものであることが前提」といい、週35時間、年間258日の労働と定め、それを超えた場合には割高の給料を支払わなければならないそうです。

「男女ともに平均帰宅時間は18時であり、アルバイトやパートや嘱託といった働き方がないので、就労が守られている。サービス残業は高額の罰金の対象となる」(安發さん)

■フランスの福祉の基本は「手ぶらで帰さない」

全労連のSNS発信を機に安發さんのリポートを読んだ人たちからは、

「自民党議員がフランス研修に行ってSNSで流すべきなのはこういう情報」

「なるほどフランスには学ぶことがたくさんある」

「フランスがここまですごいとは思わなかった」

「制度の良いところを我が国にももたらしてくれるために行ったんですよね」

といった感想が続々と投稿され、反響が広がりました。特に、安發さんがフランスの福祉事務所で調査中、見かけない親子が入ってきた際に「手ぶらで帰すんじゃないよ」と若手職員が同僚に送り出されるのを目の当たりにしたというエピソードに感動した人が多かったようです。フランスでは福祉の制度を必要としている個人に届けることが徹底されており、むしろ「届いていない人がいることは政策課題となる」と安發さんは書いています。

一方、財務省によるとフランスの消費税は20%(2023年1月現在)、国民負担率は日本の47.9%(2020年度)に対してフランスは69.9%(2020年)です。

◇  ◇

自民党女性局は7月下旬、「少子化対策や政治分野における女性活躍の視察」などを目的に、3泊5日の日程でフランス研修を実施。参議院議員の松川るい局長、今井絵理子局長代理をはじめ、国会議員や地方議員ら計38人が参加しましたが、観光旅行のような写真をSNSに投稿したことで「浮かれすぎ」「何を視察し、何を得たのか」などと炎上しました。松川氏は「費用は党費と各参加者の自腹で捻出しています」として、現地では有識者や上下院議員らと意見交換を行うなど「極めて有意義でした」と説明していますが、その後も週刊誌がショッピングやディナークルーズなどが盛り込まれた日程表をすっぱ抜き。国会内からも厳しい声が相次いでいます。

(まいどなニュース・黒川 裕生)

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