戦時中、目の前で兵隊に殺された愛犬チロの思い出 「嘘をついて逃してやればよかった…」ずっと後悔していた女性が孫に語ったこと

今年2023年は戦後78年にあたる。戦争には数千匹の軍用犬が駆り出されたが、それぞれの家庭で飼われていた犬や猫、馬、羊などの動物は軍に「供出」させられ、毛皮や皮は兵隊の防寒用に、肉は食用に利用されたという。

NOKI(@NLCrvusfhFY7aIq)さんは、祖母が供出した犬、チロちゃんの話をX(旧Twitter)に投稿した。

「祖母から聞いた事がある。チロという犬を殺した兵隊の顔を忘れていないと。愛護なんて言葉すらなく犬も猫も簡単に殺されていた時代は、そんなに遠い昔じゃない。馬だって散々利用されていた…残酷なんてもんじゃないくらい。戦争は本当に人間を狂わせるあの時代の戦争は語り継ぐべきものだと思う」

NOKIさんに語り継がれた戦時中の話を聞いた。

■愛犬チロ

NOKIさんの祖父母は神奈川県座間市で大きな料亭を営んでいた。

「祖父は地元でも人望が厚く、祭りなども仕切っていたようです。戦時中は料亭を閉め、疎開してきた子どもたちの世話をしていたと聞いています。ただ、そんなお人好しが仇となり、だまされて何もかも失い、夜逃げをしなければならなくなりました」

祖父母は、まだ幼かった子どもたちが拾って可愛がっていたチロという名の犬を連れて行くか、置き去りにするかかなり迷っていた。しかし、6人の子どもたちが「どうしてもチロを連れて行く!」と泣いてせがんだので、チロちゃんも連れて夜中に出発した。戦争も終わりに近づいていて、かなり日本に焦りの色が濃くなっていた頃のことだという。

■チロを殺した兵隊の顔

一家は、川崎市登戸の知り合いを頼って居を構えた。

「ある日突然、軍服姿の男が家の前に立っていて、『その犬を連れて直ぐに来い!』と言ったそうです。この頃、祖父は結核を患っていて寝たきりでした。祖母が何のことか分からないままチロを連れて行くと、兵隊はいきなり祖母の目の前で、チロの首元をかき切って殺したそうです」

お祖母さんはその後、チロの話をする度に言っていた。

「どうやって家に戻ったのか、子どもたちになんと説明したのか、記憶がどうしても戻らない」

お祖母さんは「チロは兵隊さんたちの力になったんだ。毛もフカフカだから暖かいし、兵隊さんたちのためになったんだよ」とも話していたという。

しかし一方で、「『犬を連れて行こうとしたら逃げていなくなった』とでも言って逃してやれば良かった」とひどく後悔していたそうだ。当時、実際に犬を逃した人もいたが、隣組(近所)の監視の目も厳しく、実際に逃すのは難しいことだったという。

お祖母さんはNOKIさんに言っていた。

「チロを殺した兵隊の顔を忘れていない。でも、あの兵隊も辛かったろう。人間て奴は目と口元に性分が出るんだよ。あれは泣いてたよ。口を食いしばって歯が折れたかもしれないよ」

■なんで買わなかったの

NOKIさんはお母さんからもチロの話を聞いたことがあった。

「チロの肉は食べられた。皮は剥がして着ていたと思うよ。戦後に闇市で薄茶色の毛皮のチョッキを見るとチロかなぁと思って怖くて目を逸らしてたの。買えば良かったけど食べ物を買わないといけなかったし、かわいそうというのと怖いという気持ちがあって買えなかったのよ」

まだ幼かったNOKIさんは、お母さんに「なんで買わなかったの!!チロだったかもしれないのに!!」と怒鳴った。お母さんは黙って下を向いていたという。

NOKIさんは「蝉の鳴き声は、戦争で命を落とした人の泣き声だ」と聞いたことがある。人間だけではない。人の都合で殺された犬や猫、馬などの動物の慟哭も聞こえてくる。

(まいどなニュース特約・渡辺 陽)

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