「そもそも、行く人に『素地』や『経験』が必要」…自民党フランス研修に豊田真由子が明かす実態 議員のアテンドに苦労する在外公館

自民党女性局のパリ研修が問題になっています。流れに便乗する感じになってしまうのもどうかと思い、沈黙しておりましたが、実際に衆院議員として幾度も外国訪問をした経験を踏まえ、国会議員の外国訪問の実態、今回何が問題で、本来どうあるべきなのか、などについて、考えてみたいと思います。

■「どう日本に役立てられるか」と「相手のために何ができるか」

まず私は、国会議員が他国を訪問する以上、日本国民が納得感を得られることはもちろん、国益にかなうものであること、相手側やその国の人たちに「来てくれてよかった」と思ってもらえるものでなければならないと思います。

国会議員は、「主権者である日本国民の信託を受け、全国民を代表して国政の審議に当たる職責を担う存在」です。したがって、(総理や閣僚などの)外交上の公式訪問ではないにしても、日本国の国会議員として他国を訪れる以上、そこには一定の責任と意義が要求されるはずです。

したがって、「見学に来ました。教えてくださーい。」だけではなく、相応の見識・経験・考え等をきちんと持った上で、さらなる吸収や論議をしに行くべきだと思います。国内でインターネットや書籍で調べれば分かるようなことはもちろんのこと、国会議員は、各省庁や院の調査局などに依頼すれば、最新の精緻で詳細な情報を、すぐ持ってきてもらえますので、そうしたことは、すべて事前に身に付けていることが前提だと思います。

その上で、わざわざ現地に赴く意味があるのは、日本の直面する様々な課題の解決に、それらを具体的にどう役立てることができるのか、同じことを日本でできていないとすればそれはなぜか、また、両国の外交関係の進展に資するよう、お互いに建設的な意見交換を行い、相手国のニーズを直接聞き、我が国が何をできるか、といったことを考え、実現するためであるべきです。

なお、研修がちゃんとしたものかどうかは、「事後に提出する報告書」で判断できるものでもないと思います。ちょっと厳しい言い方になりますが、『立派な報告書を作ること』に時間と手間をかけるよりも(報告書はいくらでも代筆もできますし、いずれにしても、そこじゃないというか。)、そもそも、行く人に吸収する素地や経験があり、実際に現地で有意義な活動をし、日本の政策に生かすことができる、という具体的な結果を出すことが求められていると思います。そういう意味では、旅程スケジュールと参加する方々を見れば、どういう視察なのか、ということは、大体分かるとも言えると思います。

■外国訪問の意義や実態は様々

読者の方のご理解に資するために、具体例を挙げてみたいと思います。私が議員の時に行った外国訪問は、例えば、

①米国で、上院下院の議員や世界銀行総裁、大学やシンクタンクなどで、日米関係や経済、安全保障、感染症対策などについて積極的な意見交換を行う。

②日韓国会議員団交流の一環で韓国を訪問し、議員と意見交換やサッカー親善試合を行い、当時冷え込んでいた日韓関係の改善を促進する。

③インドネシアと東ティモールで、保健大臣等と意見交換をし、現地の学校や病院で、実際に子どもたちや妊婦さん、患者さんたちと膝を突き合わせて話をうかがい、日本国として引き続き、どう支援すべきかを考える。

…といったものでした。

(なお、④パキスタンに、医療や貧困等の状況について、閣僚との面談や現地視察に行く、という企画にお声かけをいただき準備していましたが、出発の数日前に文科政務官就任が決まり、キャンセルせざるを得ませんでした。)

現地でお会いした多くの方々とは、その後もやり取りが続き、日本での政策立案や外交関係を維持向上させる様々な場面で、非常に役立ちました。

そして、これも大事な点のように思いますが、私が参加した外国訪問は、基本的に、与党野党、両方の議員で共に行きました。国益にかなう形で、良好な外交関係の進展を望む気持ちに、与野党の別はないですし、実際に国会で政策を実現するためには、与党だけの判断ではなく、野党の方々の理解や協力を得ることは非常に重要です。

与党と野党は、国会では激しく対立することも多いわけですが、日本の国益という、共通のミッションのもとで行う外国訪問では、不思議と、個々の議員の方々と、共に知恵を出し合い、友好的に一体となって活動できるものだ、ということが分かりました。

韓国は国会議員団が組織されての訪問でしたが、米国やインドネシア、東ティモールは、留学などのグローバルなバックグラウンドを持ち、外交や経済、社会保障や途上国支援等の専門性を持つ少数の議員が選ばれての訪問で、英語であれば、通訳無し(※)で議論をしていました。どの国でも、朝から晩までスケジュールはびっしりで、基本的に空港と会場とホテルの往復だけでした。

(※)外交上の公式な会談では、たとえ相手国の言語を流暢に話せる場合でも、不利にならないよう、それぞれの母国語を使い、通訳を介して話をします。しかし、公式会談でない場合は、ざっくばらんに直接話した方が、親密に実質的・効率的な対話ができる場合が多いと思います。

そして、外国訪問における食事というのは、相手国要人や現地で活躍する邦人の方々等と、腹を割って話し、時間をかけて親交を深める重要な機会で、決して、一緒に行った身内だけで景色や料理を楽しむ時間ではありません。

「限られた時間の中で、日本のために、世界のために、頑張らなくちゃ」と必死で、観光地に行くような余裕は、時間的にも気持ちの上でも、全くありませんでした。

こうした、ひたすら仕事に集中する外国訪問というのもありますので、人によって、場合によって、様々だといえるのではないかと思います。

したがって、「議員の外国訪問なんて、どうせ遊びだ、けしからん」というように、一律に判断され、現場が委縮してしまうといったことは、我が国の国益を害してしまう可能性もあるのではないかと思います。

■在外公館はやっぱり苦労している

私は、役人時代、ジュネーブで国際機関を担当する外交官として仕事をしていました。ジュネーブには、国際会議出席のために来られる閣僚等ばかりでしたし、メジャーな観光地があるわけでもないので、「国会議員の外遊問題」に悩まされることはほとんどありませんでしたが、それでも「飛行機の乗換えをするパリで少し観光をしたいので、アレンジしてほしい」というご要望をいただき、「国民に示しがつきませんので、おやめになった方がいいと思います」とお断りしたことがあります。(たぶん「頭の固い書記官だなあ」と、いやがられたと思います。)

一方、パリやロンドン、NYなどの日本大使館・領事館に赴任していた友人知人に聞くと、(国会閉会中の)夏に大挙して押し寄せる国会議員のアテンド問題には、やはり皆苦労していたようです。外交関係に尽力する本来業務に加え、議員のアテンドも、大使館員の重要な職務のひとつ、といった認識が、昔からあるようです。

■在るべき外国訪問の姿とは

私は上記のような厳格な考えに基づいて、在外公館でも、議員としても活動をしていましたが、一方で、今回の件を巡るいろいろな意見の中に「(今回の件はまずいけれど)きちんと職務を果たした上であれば、現地の観光地についでにちょっと寄る、といったことはあってもよい」との意見も、なるほどそういう考え方もあるな、と思いました。

(政治の世界では、真面目にがむしゃらに頑張り過ぎると、やらねばならないことに際限がなく、苛烈な権力闘争の罠もあり、ただでさえ資金や人員に余裕がなく、地元でもイビられがちな庶民の議員は、心身や人生が壊れたりしますので、一定の「余裕」というものは必要なんだと思います。)

また例えば、海外の議員を日本に迎えた際に、日本の美しい景色や歴史的建造物、伝統芸能などに触れ、日本への理解を深めていただきたい、といった思いはありますので、その逆もあり、ということも言えるのだと思います。

ただやはり、いずれにしても、国民感情を考えれば、海外視察の本来の目的がきちんとしており、それを達成する手段として適切で、しっかりとその責務を果たした上で、ということが前提だろうと思います。「観光」が主目的や、仕事と同程度のボリュームがあると受けとめられるようなものはダメで、今のご時世、観光旅行は、完全にプライベートで、家族や友人と行っていただくべきものと思います。

なお、議員の果たす役割というのは、立場や期数等によっても違うと思います。例えば、(現職の方は言うまでもなく)元閣僚や党の重鎮の方などが外国に行けば、たとえ短時間であっても、相手国にとっては、それだけで大きな意味がありますし、その発言は重く受けとめられます。

いずれの場合にも、国民が納得する成果を出せる能力や高い志、あるいは経験や権限といったものを持った上で、日本と相手国の役に立つことを行っていただくことが、国民の納得感と国益のためには、必要であろうと思います。

特に、日本では長きに渡る経済の低迷で、賃金は上がらない一方で物価は上がり、厳しい生活を強いられている国民の苦しみや不安を、本当の意味で、きちんと理解していただくことが、改めて求められていると思います。

◆豊田 真由子 1974年生まれ、千葉県船橋市出身。東京大学法学部を卒業後、厚生労働省に入省。ハーバード大学大学院へ国費留学、理学修士号(公衆衛生学)を取得。 医療、介護、福祉、保育、戦没者援護等、幅広い政策立案を担当し、金融庁にも出向。2009年、在ジュネーブ国際機関日本政府代表部一等書記官として、新型インフルエンザパンデミックにWHOとともに対処した。衆議院議員2期、文部科学大臣政務官、オリンピック・パラリンピック大臣政務官などを務めた。

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