愛護センターで他の犬にくっついて震えていた野犬 人懐こい表情で保護団体スタッフを魅了 「必ず里親さんとマッチングできるからね」
ある日、虎のような毛並みの野犬みあふれるワンコが広島の動物愛護センターに収容されました。名前はアルル。推定2014年4月生まれのオスで、体重は約17キロ。あやうく殺処分対象になる手前で動物保護団体、ピースワンコ・ジャパン(以下、ピースワンコ)に保護されることになりました。
アルルは、その勇しそうなルックスとは裏腹に最初は人間が怖くて、寂しがりやで、人と目が合うだけでケージの中に引きこもってしまうワンコでした。ピースワンコのスタッフが引き出す際にも、他の犬とぴったりとくっつき、おびえるようにスタッフの顔を見ていました。
■「人に馴れるのは時間がかかりそう」
さらに、ピースワンコの施設に連れてきてからも、人間はもちろん、他のワンコが出した音が聞こえただけでもびっくりしてしまい、その場で固まってしまうこともありました。急激な環境の変化、そして、それまでにあまり見たことがない人間や他のワンコに対し、「これからどうなるんだろう?」と不安だったのでしょう。
アルルが新しい里親さんと出会い、第2の幸せな犬生に繋ぐためには、しっかりと人馴れトレーニングを受けてもらうしかありません。スタッフは「アルルが人に馴れるのは時間がかかりそうだ」と心配しながらも、積極的に人馴れトレーニングに取り組むことにしました。
■少しずつ心を開いていった
人馴れトレーニングの際、スタッフはまずアルルが怖がらないよう、ゆっくりと体に触るなどし落ち着かせました。穏やかな表情になったところで、少しずつ人間との散歩やリードに馴れてもらうようにしましたが、人馴れトレーニングを開始しても、最初の2週間はずっとキョドりっぱなし。なかなかのビビリでしたが、しかし、次第に地面の臭いを嗅ぐ仕草を見せるようになったり、誰に体を触れられても嫌がらなくなるなど、少しずつ人間に馴れていきました。
また、この人馴れトレーニングでアルルの本来の性格も見えてきました。保護犬の中には、人間を怖がるがあまり思わず噛みつこうとするなど威嚇行為をしてしまうワンコもいます。しかし、アルルはどうもマイペースで優しい性格のようで、威嚇するようなことはありませんでした。
スタッフはここで確信しました。「アルルが人間馴れさえしてくれれば、絶対に里親さんとマッチングできるはずだ」と。
■散歩中、笑顔を見せてくれた
人馴れトレーニングを重ねて数週間が経つと、アルルはスタッフのことを気にせず、自分の意思で部屋の中を自由に歩けるようになりました。また、カメラマン役のスタッフに自分から近づき、そっと匂いを嗅ぐ様子まで見せてくれるようにもなりました。
その様子を見たスタッフは、それまでのリードではなく、アルルにハーネスをつけて散歩をしてみることにしました。初めて装着するハーネスにもアルルは暴れることはなく、そしてワンコにとって敏感な場所とされているお腹に触れられても、嫌がることもありませんでした。また、人馴れトレーニング開始から2カ月ほどが経つと、アルルのほうから積極的に近寄るようになり、スタッフの手から直接ご飯をもらうこともできるようになりました。
何よりスタッフがうれしかったのは、散歩中にアルルが笑顔を見せてくれるようになったこと。その表情がとても豊かで、「大好きだよ」「信用してるからね」とアルルが語り掛けているように映りました。
■ご飯を目の前にしても待てるように
無事に人馴れトレーニングを終えたアルルは、ピースワンコの犬舎から、譲渡センターへ引っ越しを済ませ、本格的に里親さんを募集することになりました。また、不定期で開催される譲渡会にも参加するようになり、初めて会う人間の前でもおびえることもなくなりました。
体重は約17キロと、比較的大きめですが、とても穏やかでお利口さんです。おやつやご飯を見つけると、とにかく欲しがりますが、それでも人間がくれるまではジッと待つという従順な一面もあります。
かつては、過酷な野犬として生き殺処分対象になりかねなかったアルルですが、ピースワンコのスタッフのおかげで、こんなに立派に成長してくれました。優しく穏やかな家庭を持つ里親希望者さんとめぐり合い、たくさんの愛情を受けて、幸せな犬生を過ごしてくれることを願うばかりです。
ピースワンコ・ジャパン
https://peace-wanko.jp/
(まいどなニュース特約・松田 義人)