著作権的にアウト?YouTuberによる「スパイダーマン」コスプレ…弁護士の見解は 登録者1000万人超の「ヴァンビ」運営チャンネル
人気YouTuberのヴァンビが運営するチャンネル「spider-maaaaaaan/スパイダーメーン」。登録者数が日本人最速で1000万人を突破し、8月16日には「HikakinTV」をも上回ったことで話題になっている。スパイダーマンのコスプレ姿で、長らく正体を隠して登録者を伸ばしたヴァンビを称える声が上がる一方「キャラクターの著作権侵害ではないか」と指摘する意見もある。著作権に詳しい弁護士に見解を聞いた。
チャンネルspider-maaaaaaan/スパイダーメーンには、スパイダーマンの格好をしたヴァンビらが登場。「画鋲を尻で踏んで痛がる」「ランニングマシンで転んでパンツが丸出しになる」といったこっけいな動画で人気を博している。視聴者の使用言語に関係なく理解できる内容にしたことで世界中から注目を集め、チャンネル開設から1年あまりで登録者1000万人を達成した。今年8月5日にヴァンビは、スパイダーメーンの正体が自分であることを公表。「自分が通る道は、自分で切り開く。日本一のYouTuberになります」と宣言し、ファンらから「戦略が天才的」「かっこよすぎる」といった声が寄せられた。
■著作権侵害の可能性は
一方、チャンネル名がスパイダーマンをもじっていることや、コスプレをして動画出演していることで「スパイダーマンの知名度に便乗しているのでは」「本家に許諾を得ていないならマズい」と指摘する声もSNSで上がっていた。
大阪などにオフィスを構えるAuthense(オーセンス)法律事務所の川崎賢介弁護士は、動画について「著作権侵害にあたる可能性がある」とする。川崎弁護士によると、まず侵害している可能性があるのは「公衆送信権」。文字通り、著作物を公衆向けに送信することに関する権利だ。
さらに「翻案権」侵害のおそれもある。著作物の特徴を活かしつつ二次的な著作物を創作できる権利のことだ。ヴァンビは特注というスパイダーマンの衣装を着用しているが、口元だけ穴を開けるなど若干の改変を加えている。本来、版権元が持っているはずの「スパイダーマンのデザインを変更する権利」を侵害している可能性があるというわけだ。
■コスプレは版権元とファンの「Win-Winの関係」で成り立つ
日本国内で、コスプレした人に対して版権元が著作権侵害で提訴した判例は過去にないという。川崎弁護士は、コスプレ文化が発展している背景も交えてこう話す。「コスプレしてもらうことで作品が盛り上がるという、言わばファンと企業のWin-Winの関係が前提にある」。spider-maaaaaaan/スパイダーメーンの動画は、おちゃらけた内容や過激なパフォーマンスが中心で「元のキャラクターイメージを損ねていると版権元に判断されてしまうこともあり得る」と指摘する。
■「マリカー」訴訟では任天堂が勝訴
著作物侵害を訴えた事例として記憶に新しいのが、2017~20年にかけて行われた「マリカー訴訟」だ。「マリカー」と名乗る企業が、任天堂キャラクターのコスチューム姿で公道をカートで走るサービスを無断で提供。これを受けて任天堂が不正競争防止法違反、著作権侵害などで提訴した。結果的に著作権侵害について判断されなかったが、川崎弁護士は「コスチュームやカートが元の作品と似ていなかったことで成立が難しかったのでは」と理由を推察する。任天堂が請求していた賠償金額5000万円満額の支払いと被告会社の不正競争行為の差し止めが命じられ、事実上、任天堂の勝訴となった。
マリカー訴訟では、公道をカートが走る動画などがSNSで話題になったことで、任天堂が把握するに至った背景がある。川崎弁護士はspider-maaaaaaan/スパイダーメーンについても「ここまで有名になってしまうと版権元が『放っておけない』という判断をする可能性も否めない」と話す。
(まいどなニュース・小森 有喜)