敵はイノシシやサル 野生動物から畑を守るよ 3年間のトレーニングを積んだ保護犬が里守り犬として活躍

かつて、管理が行き届いていた農業地域では、野生のイノシシやサルは人里に近寄らないことが多く、田畑を荒らされることは少なかったと言われています。しかし、今日ではこういった野生動物が人里に降りてきて田畑を荒らすことが多くなり、農業被害に悩まされる農家が増えています。

農家を対象にしたある調査では、荒らす野生動物の筆頭がイノシシ、次いでサルだといいます。もちろん農家も指をくわえて被害を見ているわけではなく、野生動物除けの対策として、電気柵やネットが張り巡らすこともあります。しかし、それだけでは効果に限界があるともされ、様々な対策が議論されるようにもなりました。

そんな中で注目されることになったのが「里守り犬(さともりいぬ)」という存在です。

■「里守り犬」育成プロジェクトの中身とは?

「里守り犬」とは名前の通り、「里を守るためのワンコ」で、里におりてきてしまった野生動物を追い返すもの。広島県の神石高原町は2017年、全国に先駆けて、「里守り犬」の育成に乗り出しました。育成にかける予算は初年度の1年間で420万円。育成に際しては、地元を拠点とする動物愛護団体、ピースワンコ・ジャパン(以下、ピースワンコ)に委託しました。

ピースワンコが保護したワンコの中から「里守り犬」に相応しいワンコにトレーニングを行うことに加え、後の飼い主となる農家にも勉強会などに参加してもたい、ワンコを適切に扱うための知識や技能を身につけてもらうというもの。これらを段階的に行い、3年ほどの時間をかけて、「里守り犬」となったワンコと飼い主の自立を目指します。

■複数回の訓練を受け「里守り犬」の自覚を持つように

この取り組みに参加することになった保護犬がソバちゃんというワンコ。ピースワンコが以前動物愛護センターから引き出した、なんの訓練もバックボーンも持たないワンコです。大きなかわいい耳が特徴で、一見では「野生動物を追い払う」ような威厳を感じることができません。

しかし、複数回の訓練を経たソバちゃんは次第に、「里守り犬」としての自覚を持ち始め、表情も変わっていきました。トレーニングの際のクマの毛皮に対しても、ワンワンワンと力強く威嚇し、追い返す動作を取るようになりました。

■通常の保護活動に加え、社会貢献できるワンコの育成も

後にソバちゃんを受け入れることになった農家の赤木さんは、訓練段階でこのソバちゃんと行動を共にしました。聞けば、やはり野生の猿による農業被害に悩まされていたようでこんな風に語ってくれました。

「うちの地域では猿が畑に来て悪さをする。柴犬を飼ってはいるが、追い払ってくれるわけではないので、『里守り犬』の育成と譲渡をピースワンコにお願いすることにしました」

こういった農家の期待を受け、訓練を重ねた後、見事「里守り犬」として赤木さんに迎え入れられることになったソバちゃん。今日も野生動物から畑を守り、そして元気に暮らしていると言います。

かつては殺処分目前だった保護犬でも、このように立派な社会貢献ができる好例の一つになりました。ピースワンコでは、ワンコ1頭ごとに与えられた命を全うできるようサポートとケアをし続けることと合わせて、さらに飛躍させた社会貢献できるワンコの育成も行っています。こういった活動から保護犬のあり方を広く知ってもらい、最終的には「ワンコの殺処分ゼロ」を目指すべく活動を続けています。

ピースワンコ・ジャパン

https://peace-wanko.jp/

(まいどなニュース特約・松田 義人)

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