深夜の繁華街に響き渡る鳴き声「立体駐車場に子猫が閉じ込められている!」5日間も… 保護団体が連携した救出劇
「立体駐車場に子猫が閉じ込められている!」
今年6月下旬、そんな投稿がSNSで拡散されました。場所は名古屋市内の繁華街。子猫は鳴き叫び、6月23日から28日にわたり5日間も飲まず食わずのまま…投稿は、繁華街の過酷な環境の猫を救う保護団体や個人ボランティアが集まるチーム「繁華街の猫を救う会」のメンバーたちの目に止まり、レスキューに乗り出すことになったのです。
メンバーの一人が立体駐車場に向かい一度状況を確認。そして、現場担当の片木和博さん(オリ猫シェルター代表)たちが現場を見たメンバーの情報を元に子猫のレスキューに関わった関係者に状況を教えてもらったといいます。
「後から聞いた話ですが、既に子猫をレスキューしようと、メンテナンス業者が2回、警察が2回、消防も2回と現場にレスキューに来てくれたそうですが、助けられない状況だったようです。現場を見たメンバーから聞いた後、詳細を知ろうと関係者の方に連絡。立体駐車場は、高さ2.5メートルほどの内壁と外壁の間に30センチほどの隙間があるとのこと。誤って車と一緒に乗り込んだ子猫は上方に上がった時、その隙間部分に開いていた12センチ×20センチほどの穴から、おそらく下に落ちたようだと。のぞいても途中に柱があり真下が見えないと聞きました。
穴が小さいので捕獲器は入らないし、小型のゴンドラも使えない。そこで、三角コーナーネットにパウチ食品を入れて縛ったものを、ツタ状にしたレースのカーテンに取り付け、匂いにつられて来た子猫をゆっくり吊り上げる方法を考えました。またできる限り安全に吊り上げられるようカーテンを丸く結んで足場をいくつか作りました」(片木さん)
■警察も消防も助けられなかった小さな命…保護団体「繁華街の猫を救う会」メンバーが現場へ急行
片木さんたちは、メンバーとともに助ける方法を話し合い、道具をそろえるなど現場へ向かうために各メンバーがそれぞれの役割を分担して準備。立体駐車場の会社から現場に入る許可を得た後、子猫が鳴き続けているという立体駐車場へ急行しました。
到着したのは、日をまたいで29日午前2時過ぎ。この立体駐車場は24時間営業のため、お客さんが来たら作業を中断することも想定して、子猫のレスキューに取り掛かったという片木さんたち。子猫が下に落ちたと思われる穴探しを始めましたが、当初関係者に聞いていた穴は見つからず。子猫すら落ちないようなかなり小さい隙間だけしか見つかりません。
すると、子猫の大きな鳴き声が聞こえてきました。その時、内壁と外壁の隙間に落ちているはずの子猫の声にしては聞こえすぎると疑問に思ったという片木さん。一緒に作業をしていた相方と「もしかすると子猫がいるのは、壁と壁の隙間ではないんじゃないか?」とお互いに顔を見合わせたといいます。そこで、両耳がギリギリに引っ掛かるような天井の隙間に頭を入れたり、天井に準備したカーテンの道具を設置してみたりとありとあらゆる場所を探しました。
■子猫の鳴き声の反響ルートを探りながら、回転式の床下へ そこで見たものは黒い塊…?
また同時に子猫の鳴き声の反響ルートも探りながら、回転式の床下に入ることに。ただ床下は既に関係者が入り調べて、子猫がいなかったと聞いていました。片木さんは「僕は基本的に聞いた話も自分で判断しない限りレスキューに関しては信じていません」とのこと。そして、床下に入り反響する鳴き声を追っていくと壁に到達しました。
床も細かく観察しつつ、そこで仰向けになりながら上部から出ている柱の隙間を捜索。途中、ふと床に目を向けると、黒い塊を発見。ふんでした。もしや!と思い、その先の壁側の上部にある柱と柱が交差する部分をのぞくと、白いモフモフしたお腹が見えました。子猫です。床下から上方に上がっていたよう。子猫が上がった理由について、片木さんは「回転盤の音が大きく怖かったんだと思います」と推測。子猫の居場所を確認した後、そっと外に一度出て現場にいた関係者やメンバーらに子猫がいたことを伝えました。
その後、レスキューを開始。お腹は確実に空いているはずと見込んで回転盤の下に捕獲機を設置。10分程度様子を見ましたが、出てきません。そこで今度は、子猫のいる柱と柱の交差した部分にちゅ~るを直接ゆっくりと下から子猫の顔に近付けてみることに。子猫はなめることはしませんでしたが、奥には行けないよう。となれば、ここからは一気に直接子猫をつかんでネットに入れる作戦に切り替えたところ…無事に保護! 片木さんたちは、床下から外へ出て子猫を見せながら「捕まえました」と報告すると、深夜の繁華街に大歓声が響き渡りました。
「相方も最後捕獲時に手を負傷しましたが、最後まで頑張ってくれました。会のみなも各役割をキッチリやってくれました。もちろん駐車場管理係の方々もいろいろ手伝ってくれました。今回は人と人との協力がなければレスキューできなかったと思います。誰もがレスキューできないと思えた案件…命を救ったのは人と人の想いでした。助けたいと思う人たちが集まればできないことなどありません。レスキューは諦めたらそこで終わり。諦めないことが唯一の光です」(片木さん)
■保護された子猫は生後2カ月ほど、奇跡(ミラクル)の”救出劇”から「ミラク」ちゃん
繁華街の立体駐車場からレスキューされた子猫は、生後2カ月半ほど。奇跡(ミラクル)の”救出劇”だったことから、「ミラク」ちゃんと名付けられました。保護が完了したのが深夜3時半。その後、診療開始を待って、会のメンバーが病院にミラクちゃんを連れて行きました。診察を受け、両後ろ足にけがが見つかり、後ろ足がともに一部皮膚の壊死と肉球欠損など予想以上の大けがだったそうです。壊死している組織と肉球部分の手術が必要のため、ミラクちゃんは手術と長期の入院、治療を受けることになりました。
「ミラクは車の下に潜り込んでしまい、やけど、運悪く足の一部を挟んでしまったんだと思います。その状態で5日間ほどご飯もなく、水もない、誰も来ない場所でひとりで頑張っていました。今考えれば、保護当時壁と柱の隙間に隠れるように身を潜め、僕と目が合わないようにしていました。外で暮らす子たち、そしていつも大けがをした子たちは人から距離をとります。捕獲がとても難しいのはこれが理由です。ミラクは長期的な治療になりますが、しっかりみなでこの子のつなぎ止められた命と人生を大切にしてあげたいと思います」(片木さん)
■繁華街で暮らす猫たちの過酷な生活を知ってもらいたい!
【繁華街の猫を救う会結成の経緯】
結成のきっかけになったのは、名古屋市内の繁華街にある下水管に落ちた子猫のレスキューでした。その現場に3つの保護団体が集まり何時間もかけて消防やレスキューが「この子を救う方法がない」と言われた子猫を救いました。
そのレスキューを機に、繁華街で暮らす猫たちを救おうと有志団体が集まり結成。繁華街にいる猫たちは、住宅街で暮らす猫とは全く異なった生活をしています。その子たちをとても過酷な生活から救い出したい。そしてその生活をたくさんの人に知ってもらいたい。また名古屋市では年間30匹ほどの殺処分がまだ行われているため、殺処分ゼロを本気で目指したい…そんな想いが集結しました。「オリ猫シェルター」「しましましっぽ」「昭和にゃんこ」「保護猫カフェ笑猫」をはじめ、個人活動家の方、協力他団体の方々が参加。現在、「繁華街の猫を救う会」として殺処分ゼロを目指すとともに、繁華街の猫たちと向き合い、譲渡会を開催する活動をしています。
これまでの主なレスキューは、「下水管に落ちた子猫のレスキュー」をはじめ、「虐待により首の周りの皮膚が壊死していた成猫のレスキュー」「ビルとビルの隙間だけで3年以上生きていた成猫のレスキュー」「ビルの隙間で5匹の生後2ヶ月の子猫を必死に育てたママと子猫5匹のレスキュー」など多数。
最後に…
「繁華街では、TNR(Trap/捕獲し、Neuter/不妊去勢手術を行い、Return/元の場所に戻すこと)の見守りで、住宅街で暮らす猫たちのように平穏に暮らせる子たちはほとんどいません。ごみをあさり、溜まった雨水やエアコン室外機からの配水を飲み、ビルの隙間で寝ている子たちがほとんど。それでも街で見かけても、その生活を知る人もほとんどいません。
そして繁華街で暮らす猫たちは平均寿命が5年ほどです。どんなに活動家やボランティアがお世話していても、交通量が違いすぎるため、ほとんどの子が5年ほどでロードキル
で亡くなります。その子たちを知ってもらうことも繁華街の活動の目的にもなっています。ひとりひとりができる限りのできることを。この想いが集まれば猫を救う何かを変えるきっかけになると信じています」(片木さん)
(まいどなニュース特約・渡辺 晴子)