自分の財産…大切な人へ少しでも多く残したい 今からできる!相続税対策【FPが解説】
家族や身近な人が亡くなったとき、財産を受け継ぐために「相続」が行われますが、その際にお金や不動産など金銭的に価値のあるものはすべて相続税の対象です。できれば相続税を抑えて、大切な人へ少しでも自分の財産を多く残したいものですね。生前のうちに出来る相続税対策について、FPが解説します。
■相続とは?
相続とは、亡くなった方の財産を特定の人が受け継ぐことを指し、亡くなった人を「被相続人」、その財産を受け継ぐ人を「相続人」といいます。
相続人となる人は民法で定められており、その範囲は配偶者や子、親、兄弟姉妹などの血族です。
相続順位は、以下のように決められています。
・常に相続人:配偶者
・第一順位:子
・第二順位:親
・第三順位:兄弟・姉妹
上記からも分かる通り配偶者は、必ず相続人です。
子供がいない場合は、第二順位の親が相続人となり、遺産の相続する割合を示す「法定相続分」も相続順位に応じて法律で決められています。
■相続税とは?
相続税は、相続する財産が「基礎控除額」を超える場合に、その超えた部分に課税されるものです。
相続税は、被相続人の死亡を知った日から10カ月以内に申告と納税を行う必要があります。
相続税の課税対象となる財産は、現金や預貯金、株式などの有価証券のほか、不動産(戸建て、マンション、不動産上の権利など)、車、骨とう品など金銭的に価値のあるものです。
■相続税の各種控除額の算出方法とは?
相続税には、控除と呼ばれる、税金の免除制度があります。
相続税の控除には、基礎控除のほかに、所定の要件を満たす場合に対象になる未成年者控除や障がい者控除などがあります。
それぞれの詳細を、以下で確認しましょう。
▽基礎控除
相続税の基礎控除額を算出する計算式は以下のとおりです。
・基礎控除額=3,000万円+(600万円×法定相続人の数)
つまり、相続財産の総額が基礎控除額の範囲内であれば、相続税は掛かりません。
▽配偶者の税額控除
配偶者は、以下のどちらかの多い金額までは相続税が掛かりません。
・1億6,000万円
・配偶者の法定相続分
※配偶者の税額控除と小規模宅地等の特例を利用した場合、相続財産が基礎控除以下となっても相続税の申告は必要です。
▽未成年者控除
相続人が18歳未満の未成年者で、日本国内に住所があるなどの条件を満たしていれば、以下の計算式で算出した金額が控除されます。
・未成年者控除額=(18歳-相続した際の年齢)×10万円
▽障がい者控除
85歳未満の障がい者が相続する場合は、条件を満たしていれば以下の金額が控除対象額です。
・一般障がい者 10万円×満85歳までの年数
・特定障がい者 10万円×満85歳までの年数
■具体的な相続税対策の方法は?
相続税を節税するには、以下の方法があります。
▽生前贈与を行う
生前贈与は、その名のとおり生きているうちに自分の財産を贈与することで、相続財産を減らすことにより相続時の節税効果が高まります。
生前贈与には大きく分けて以下の2つがあります。
・相続時精算課税制度
・暦年課税制度
相続時精算課税制度と暦年課税制度は併用できず、どちらかしか選択できません。また、相続時精算制度を利用して土地などを贈与した場合は、小規模宅地等の特例は使えないので注意しましょう。
【相続時精算課税制度】
相続時精算課税制度は、原則60歳以上の父母や祖父母から18歳以上の子・孫へ財産を贈与する際に選択できます。
贈与財産の累計2,500万円までは非課税となり、2,500万円を超えた部分に1律20%の税率を乗じて税金を算出します。
相続時は、この制度を利用して贈与されたものと相続財産の合計金額で相続税が課税されます。相続時に加算される金額は贈与の際の時価なので、不動産や株式などの値上がりが期待できるものに利用すると節税効果が期待できます。
※2023年の税制改正により、2024年1月から相続時精算課税制度の一部が変更され、年間110万円まで非課税の基礎控除が追加されました。なお、生前贈与加算の対象外です。
【暦年課税制度】
暦年課税制度は、受け取った財産が年間110万円以内は非課税となり、申告も不要です。110万円を超えると、超えた部分に対して10~55%課税されます。
暦年課税制度に似た贈与の方法で、定期贈与があります。定期贈与は贈与税の課税対象となりますので、注意しましょう。
※定期贈与とは、贈与する人と受ける人の間で、毎年一定金額を贈与することを約束しているものです。
暦年課税制度を利用し、毎年同時期に同額を長期にわたって振込すると、定期贈与だと指摘される可能性があるので、あらかじめ「贈与契約書」を作成しておくことも有効です。
※亡くなる3年以内におこなわれた贈与は、死亡時に相続税の対象の財産として課税される、生前贈与加算もあるので、なるべく早めに贈与した方が良いでしょう。なお、この3年以内加算の対象となるのは、相続人でそれ以外の人は対象外です。
2023年度の税制改正により、生前贈与加算の期間が3年から7年に変更されました。2024年1月以降は相続開始前の7年前の贈与が、相続税の対象になります。
▽生命保険を活用する
生命保険は、相続人が受け取ると一定の金額が非課税となります。非課税額の計算式は下記のとおりです。
・500万円×法定相続人の数
被相続人の預金などは、相続手続きが終わらないと引き出しなどが出来ませんが、生命保険金は、亡くなった時に現金ですぐに受け取ることが出来るので、納税資金を確保することも出来ます。
上記の金額の枠内の保険金が受け取れる保険に加入しておくことで、非課税枠を活用できます。
▽不動産を活用する
不動産を活用した相続税対策には、以下の2つがあります。
【小規模宅地等の特例の活用】
小規模宅地等の特例は、土地や家を相続する場合、評価額に応じて相続税が掛かりますが、被相続人が使用していた自宅や事業用の土地は、条件を満たせば最大80%減額できます。
自宅は330平方メートルまで、事業用は200~400平方メートルまで適用されます。(事業用は利用区分による)
【アパート・マンションを経営】
現金で相続するより、不動産を相続した方が節税できるといわれています。
それは、不動産の評価額が市場価格より低くなるからです。アパートやマンションの賃貸の場合は、不動産評価額が更に下がるので、より節税効果が高くなります。ある程度まとまった金額の預貯金がある場合は、不動産の活用も検討してみましょう。
※国税庁はマンション節税やタワマン節税の防止に乗り出すことになり、相続税評価額を「実勢価格」の6割以上に引き上げるなどとした新しい算定ルールを2024年1月から適用する方針です。
過度な節税に歯止めをかける新ルールとなる見込みであり、不動産を活用した相続税対策を検討されている方は来年からの新しいルールについてもチェックしておくことが大切です。
▽お墓や仏具を購入する
お墓や仏具(墓地、仏壇なども含む)などの祭祀財産は、相続税の非課税財産です。まだ購入していない場合は、生前に購入しておくと相続税が掛かりません。
■そのほか非課税になる贈与の方法も
相続は、被相続人が亡くなったときに発生しますが、生前に贈与しておくことも有効な相続対策です。
子や孫に対する贈与で、以下のものは非課税です。相続対策としても有効ですし、それ以外でも覚えておくと税金の負担を抑えられる可能性があります。
・住宅取得資金の贈与
・結婚・子育て資金の贈与
・教育資金の贈与
※なお、住宅取得資金の贈与は2023年12月31日まで、結婚や子育て資金の贈与は2025年3月31日まで、教育資金の贈与は2026年3月31日までです。(税制改正により、期間は延長される可能性もあります)
※結婚・子育て資金と教育資金の贈与は、金融機関での手続きが必要です。また、受贈者(もらう人)の前年の合計所得が1,000万円以下という所得制限があります。贈与した人が亡くなった際に、贈与した資金が残っている場合は、相続税の対象になるので注意しましょう。
▽住宅資金の贈与
子や孫がマイホームを購入・増改築のための資金を贈与する場合には一定の条件を満たすと非課税になります。
国税庁のホームページによると、条件は以下の通りです。
・贈与者(あげる人)は、父母や祖父母などの直系尊属(子・孫)で年齢制限はなし
・受贈者(もらう人)は、贈与を受けた年の1月1日時点で18歳以上、贈与を受けた年の所得が2,000万円以下
・贈与を受けた年の翌年の3月15日までに居住すること
※参考:よくある税の質問/No.4508 直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税
※この非課税制度の対象となる新築・増改築の建物にも平米数や築年数などの条件があります。
▽結婚・子育て資金の贈与
父母や祖父母から18歳以上50歳未満の子・孫へ結婚・子育て資金を1,000万円まで非課税で贈与できます。(結婚資金は300万円程度)
国税庁のホームページによると、結婚・子育て資金とは、以下の費用が該当します。
・挙式、結婚披露宴を開催するための費用
・結婚を機に発生した、引っ越し代、家賃・敷金・礼金などの諸費用(入籍日の1年前後以内)
・妊娠・出産に関わる費用(人工授精などの不妊治療の費用、妊婦検診などの費用のほか、産後ケア費用など)
・未就学児の治療、予防接種、医薬品などの費用、保育園や幼稚園の入園料や保育料・入園料など
※参考:よくある税の質問/No.4511 直系尊属から結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の非課税
▽教育資金の贈与
父母や祖父母から30歳未満の直系尊属(子・孫)へ教育資金を贈与する際に1,500万円までは非課税です。(学校等以外は500万円)
教育資金には以下の費用が該当します。
・入学金、授業料のほか、入学試験の検定料など
・学用品費、修学旅行品、学校給食費など
※学習塾や習い事に関する費用、通学の定期代などは学校等以外のものとなり、500万円まで活用できます。
(まいどなニュース/FPオフィス「あしたば」)