「人の焦りは犬に伝わります」ケージのそばで何もせず40分 噛みつく野犬が心を開くまで 「遊ぼう」アピールする甘えん坊に
2021年秋、1頭のワンコが保護犬団体、ピースワンコ・ジャパン(以下、ピースワンコ)に保護されました。薄茶色の毛並みで口元だけが真っ黒のクリタケという元野犬のオスで、この時点では推定生後8カ月ほど。体こそ成犬サイズですが、まだ幼いワンコでした。
■人間の焦りはワンコにも伝わる。冷静に接することが大事
元野犬の保護犬は人間と接したことがほとんどありません。仲間のワンコとのコミュニケーションには長けているものの、人間には不馴れなことが多いものです。ワンコによっては人間に恐怖を覚えるあまり、人が近づくだけで威嚇したり、ときに吠えながら歯を剥き出しにすることがあります。
かくいうクリタケも、人間を過度に怖がるワンコでした。近づくと過剰に反応し、ワンワンと大きな声をあげながら威嚇をしてきます。ただし、これまでに多くの元野犬とコミュニケーションをとり、そして幸せへと導いてきたピースワンコは冷静です。人間の焦りは、ワンコにも伝わるもので、お互いにビビりあっていては心を許し合う関係にはなりません。スタッフはまずは焦らずクリタケとの信頼関係をゆっくりと築いていくことにしました。
■30分でダメならさらに40分。慎重に距離を縮めるスタッフ
吠えるクリタケにスタッフが触れようとすると、さらに歯をむき出しにしてきます。そのためまずはケージのそばで、約30分ほどクリタケと同じ空間にいることにしました。
クリタケが馴れてきている様子でしたので、緊張感が解けてきたのだとスタッフは判断し、触ろうとするとガブついてきました。やはりまだクリタケはスタッフに心を開いてくれているわけではありませんでした。
さらに約40分、同じ場所に居続けたところ、クリタケは徐々に落ち着きを見せてくれました。慎重にクリタケに近づき体に触れると、不安そうな表情を浮かべながらもガブついてくることはありませんでした。そしてなんとクリタケはハーネスを装着させてくれました。スタッフは「クリタケ、ありがとうね。よくがんばってくれたね」と言い、この日はトレーニングを終了しました。
■スタッフの手からおやつを食べてくれるように
トレーニングを始めて2週間後、スタッフがおやつを手に持ちクリタケの前に差し出すと、そのおやつを自分でパクッと食べてくれました。
2カ月後には、リードを付けることにも成功し、スタッフとのボール遊びにも応じてくれるようになりました。
保護から3カ月ほど経過すると、クリタケはかつてのような人間に対する威嚇をしなくなり、むしろ人間を見かけると、とびきりの笑顔で近寄ってきては「遊ぼうよ」とアピールしてくれるようになりました。
人間が「咬む犬は危険」「噛む犬が人に馴れることなんて絶対にない」と決めつけてめていたら、クリタケの笑顔を引き出すことはできなかったでしょう。
どんなワンコでも、たっぷりの愛情を注ぎ続ければ、いつか必ず心を開いてくれるものです。ピースワンコのスタッフはこれまでの多くの経験から、それをよく知っていますが、このクリタケもまたこういった好例のひとつとなりました。
嬉しそうに笑顔で遊びまわるクリタケの様子を見て、スタッフは「これからもクリタケのようなワンコを、1頭でも多く助け、幸せな第2の犬生へと繋いでいきたい」と、その思いを新たにしました。
(まいどなニュース特約・松田 義人)