静岡県西部・遠江国の「遠」+藤原氏の「藤」=「遠藤」 「らんまん」最終章で万太郎の長女演じる、遠藤さくら…名字の由来は
植物学者・牧野富太郎を主人公のモデルとしたNHK朝ドラ「らんまん」が、「カムカムエヴリバディ」以来3作ぶりに視聴率が18%を超えるなど人気となっている。この「らんまん」最終章で、主人公の万太郎の長女を演じるのが乃木坂46の遠藤さくらである。
「遠藤」という名字は、「佐藤」や「伊藤」などと同じく下に「藤」がついていることからわかるように、藤原氏の末裔が名乗った名字である。
平安時代に朝廷を席巻した藤原氏は、その本拠地や役職名と藤原氏の「藤」を組み合わせることで一族内で区別した。その方法には大きく2つある。1つは地名と藤原を組み合わせたもの。伊勢国を本拠とした藤原氏は、伊勢の「伊」と藤原氏の「藤」を合わせて「伊藤」と名乗った。同じように加賀国の藤原氏は「加藤」である。「佐藤」の「佐」の由来は、栃木県の「佐野」という説と「佐渡」という説がある。
もう1つが役職名と藤原氏を合わせたもの。伊勢神宮の斎宮頭(さいくうのかみ)をつとめた藤原氏は、斎宮頭の「斎」と藤原氏の「藤」で「斎藤」と名乗り、木工助となった藤原氏は「工藤」、内舎人(うどねり)となった藤原氏は「内藤」を称した。
「遠藤」は前者の地名に由来するもの。遠江国(静岡県西部)に住んだ藤原氏が遠江の「遠」と藤原氏の「藤」を合わせて「遠藤」を名字としたものである。因みに、「近藤」は近江の藤原氏に由来している。
さて、遠藤氏は藤原氏の中でも藤原式家というマイナーな一族とされる。『遠藤系図』によると、平将門の追討使となった忠文は征東大将軍となって関東に下向中、遠江国で一子公時をもうけたことから、公時は「遠江の藤原」で「遠藤」を称したという。これは自らの先祖を有名人の末裔にしようとした創作だろうが、藤原氏の一族が遠江に住んで「遠藤」と名乗ったのは間違いなさそう。
公時の子為方は、後に摂津国渡辺(大阪市)に転じて在地武士となった。同地には古くから渡辺党という有力武士団がおり、子孫は渡辺氏と縁戚関係を持って、渡辺党に組み込まれたとみられる。以後代々朝廷の北面の武士や滝口の武士などをつとめ、渡辺党の中では渡辺氏と並ぶ有力一族であった。
以後、遠藤氏は東日本各地に広がった。昨年の大河ドラマ「鎌倉殿の13人」に登場した、源頼朝に決起を促した怪しい僧・文覚(遠藤盛遠)も一族である。
現在でも東海から東北にかけて多く、とくに東北南部や静岡県に集中している。
◆森岡 浩 姓氏研究家。1961年高知県生まれ。早稲田大学政経学部卒。学生時代から独学で名字を研究、文献だけにとらわれず、地名学、民俗学などを幅広く取り入れながら、実証的な研究を続ける。NHK「日本人のおなまえっ!」にコメンテーターとして出演中。著書は「47都道府県名字百科」「全国名字大事典」「日本名門名家大事典」など多数。