野犬駆除用檻にかかったミックス犬 触られると体が硬直した 「なでられると気持ちいい」と学び甘えん坊に
北海道の南東部にある厚岸町の床潭地区。この地に仕掛けられた檻に入ったワンコがいました。その名はポン吉。推定1歳のオスのミックス犬で保護当初の人間に対する強い警戒心から推測するに、この地で野犬として育ったワンコのようでした。
後に釧路保健所に収容されたポン吉ですが、攻撃性はない一方で、相変わらず警戒心と怯えが強く、釧路保健所の職員は「一般への譲渡は難しいだろう」と判断。そこで北海道を拠点に多くの犬猫の保護活動を行う認定特定非営利活動法人HOKKAIDOしっぽの会(以下、しっぽの会)がポン吉を引き取りお世話をすることにしました。
■「野犬は害獣」…厚岸町に根付く悲しい歴史
ポン吉が檻に入ったのは、ちょうどSNSで厚岸町の「野犬銃殺問題」が話題になっていた頃でした。厚岸町は漁業と酪農が盛んな豊かな町で、家畜を襲うこともある野犬は害獣とみなされ、駆除の対象として扱われてきた悲しい歴史がありました。ここでの駆除では、銃殺や薬殺も行われていたという恐ろしい事実もあり、一時期はネットでも話題になったほどです。
ポン吉が捕まったのもまさに「野犬は害獣」とされる地元の慣習に基づくもので、「野犬が、昆布の干場で糞尿をして困る」という苦情から設置された檻によるものでした。漁業や酪農を営む人たちの「商売を荒らされる」という切実な事情はよくわかります。しかし、その一方、ポン吉たち野犬も厳しい自然環境の中、充分な餌も安らげるねぐらもなく、生きていくのに必死だったはずです。
ポン吉がかかった檻は、前述のような命を奪う駆除ではなかったものの、ポン吉の恐怖を思うと胸が苦しくなります。
■体に触れると飛び上がるほど怯える
保健所の職員から聞いていたポン吉の過度な怯えは、しっぽの会に来てからもしばらくの間は変わりませんでした。
スタッフが同じ空間にいることはなんとか許してくれましたが、触られることを極度に嫌がりました。特に体の大部分に触れるリードの付け替えなどの際には、飛び上がるほどの怯えようでした。
この強い警戒心から、ときに人間に対して唸り、咬もうとする仕草も見られたため、スタッフは「ゆっくりと時間をかけて信頼を築いていこう」とし、ポン吉のペースを最優先に、慎重に慎重に、距離を縮めていきました。
■美味しいご飯と優しいスタッフに心を開いた
人間への過度な怯えや強い警戒心を持つワンコは、人間が用意したご飯をなかなか口にしないことがままあります。しかし、ポン吉の場合、ビビりながらも食欲だけは旺盛で、保護初日からモリモリ食べていました。それまで、自らがごはんとなるものを探し、必死に行き抜いていたであろう野犬時代と比べれば、ポン吉にとって、しっぽの会は安心して過ごせる環境と感じてくれたはずです。
こういったことも手伝ってか、保護から2カ月ほどが経つと、当初の過度な怯えはなくなり、むしろ甘えてくるようになりました。
スタッフがポン吉がいる部屋に入れば、「散歩に連れてってくれるの?」と尻尾をブンブン。
なでられたりブラシをかけられたりすることも「実は気持ちいいことだ」と理解し、スタッフの姿を見つければ「なでて!」と自ら背中を向けて座るという甘えん坊な仕草も見せてくれるようになりました。
■心を開いてからはトレーニングもどんどん上達
このように、ポン吉がスタッフを信頼するようになると、トレーニングもどんどん上達し、「お座り」や「待て」もすぐに覚えてくれました。
そしてついに、ポン吉の里親募集がスタートしました。かつては檻にかかり、恐ろしい思いを経験したポン吉だからこそ、より優しく迎え入れてくれる里親さんが現れ、幸せな第2の犬生へ導いてくれることに期待します。
「野犬も元を辿れば、無責任な人間に放置された犬たち。1頭でも多く『生涯大切な家族』として迎え入れてくれる里親希望者さんがいると嬉しい」とスタッフは言います。ポン吉が幸せへの第一歩を踏み出すときが、そう遠くない時期に訪れることを願うばかりです。
(まいどなニュース特約・松田 義人)