「花嫁姿を見せたい」孫の結婚式に参列した認知症のおばあちゃん「きれい、きれい」と連発 介護福祉士「人生が輝く瞬間に立ち会えた」
「むかし 老人ホームで働いていた時 『おばあちゃんに、花嫁姿をどうしても、見せたい』と利用者さんのお孫さんから頼まれて、結婚式場に付き添ったことが 1度だけある。…」
介護の現場で働く人がポストした認知症のおばあちゃんにまつわる感動エピソードが、X(旧Twitter)で話題になりました。
投稿したのは、介護福祉士のこずえさん(@kozukozu1017)。話題を集めたエピソードは、以前働いていた老人ホームで利用者のおばあちゃんのお孫さんから「おばあちゃんに花嫁姿を見せたい」とお願いされ、結婚式場に参列するおばあちゃんに付き添ったときのこと。おばあちゃんは90歳を超え、認知症でした。歩行することも難しく、車いすでの移動だったためホームからこずえさんが送っていったといいます。
■式場で参列者に「初めまして」とおばあちゃん 花嫁姿の孫から花束を受け取り、涙を流した
式場に到着後、集まっていた親戚をはじめとした参列者から口々に「おめでとう」「お久しぶりです」と声を掛けられると、「初めまして」と答えていたというおばあちゃん。周囲の人たちは戸惑っていたようで、当時付き添ったこずえさんはいたたまれなくなったとか。
ただ花嫁姿のお孫さんを目にした時のおばあちゃんは、「U子ちゃん」と呼び掛けるなどお孫さんのことだけは覚えていたとのこと。そして、式のクライマックスではお孫さんから花束をしっかりと受け取り、泣いていました。そんな様子を見たこずえさんは、「お連れできて本当に良かった」と心から思ったそうです。
ホームに戻ると、スタッフから「良かったね、お孫さんきれいだったでしょう」と声を掛けられたおばあちゃんは「知らん」と答えるなど、当日のことを忘れていました。でも後で、お孫さんと写ったツーショットの写真を見てうれしそうな表情に。娘さんの写真と一緒に大事にしていたといいます。
実は、忙しく働く娘さんに代わって、小さい頃のお孫さんを自宅で預かりとてもかわいがっていたのが、おばあちゃんでした。しかし、数年前、そのお孫さんのお母さんである娘さんを亡くし、うつ病や認知症を悪化させたとのこと。そんな辛い体験を経て人生を歩んできた認知症のおばちゃんとお孫さんとのエピソードについて、こずえさんはポストで気持ちをつづりました。
「介護の仕事は、暮らしやその人の感情に密着しているから、時につらいこともや悲しいことも、たくさんある。でもほんの いっときでも、その人の人生が輝く瞬間に立ち会えるそんな仕事であると思っている」
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■孫の花嫁姿を見たおばあちゃん「きれい」と喜んでいたが…帰りの車の中でもう忘れていた
こずえさんがポストした感動エピソードには、認知症の家族を持つ人たちから共感するコメントなど多数寄せられています。
「利用者のおばあちゃん、お孫さんの花嫁姿を見られて良かったですね。母と重ね合わせて、朝からうるっとしてしまいました。」
「読んでいて涙が出てきました 私も母が認知症で··毎回会いに行っても私のことを分かっているのかな?いないのかな?という感じですがたまに母娘として何と言うか気持ちが通じる瞬間があるんです そんな時はやはり嬉しくて~」
「認知症の家族を持つ介護者としては、どうせ覚えていないんだから、と言われることが一番辛いです。覚えていなくても、その一瞬は同じ感情や感動を持ってくれるはずと信じています」
おばあちゃんとお孫さんの感動エピソードについて、こずえさんに聞いてみました。
──今回のエピソードを投稿しようと思われたのは。
「今回のポストを投稿しようと思ったきっかけはもうすぐ敬老の日であり、ちょうど結婚式が行われた時期と近かったからです。施設で敬老会が行われた翌日に、お連れしたと覚えていました」
──利用者のおばあちゃんは、事前にお孫さんの結婚式に行かれることはご理解されていた?
「お孫さんの名前は覚えておられたのですが、『結婚式』自体が理解できなくなっておられたので、『私と一緒について来てください』と言って、納得してもらいました」
──式場に到着後、おばあちゃんは親戚の方々のことを覚えていらっしゃらなかったようですね。
「花嫁姿のお孫さんだけは、顔と名前が理解できる状況でした。それはお孫さんがキーパーソンとして、欠かさず面会や担当者会議なども出席されていたからにほかなりません。洋服の入れ替えや季節の果物の差し入れなど、かいがいしくお世話されていました。だからだと思っています。
他の親戚や実の息子さんやお嫁さんを見ておびえておられたのですが、お孫さんの花嫁姿を見て、表情が一変しました。ニコニコして眼に力がこもって、発語も少なくなっておられたのに『きれい、きれい』と何回もお孫さんに言っておられました」
──お孫さんから花束を受け取ったというおばあちゃん。泣いていらっしゃったとのこと。そばでご覧になられた時のこずえさんのお気持ちをお聞かせください。
「式のクライマックスで壇上にお連れして、そでに控えていたので、じっと私の方を見ておられて最初は不安でしたが…花束贈呈がうまくいき、お孫さんをまた理解されて涙を流しておられるのを見た時は驚きとともに、本当に良かった、お孫さんの気持ちが通じたと思って何とも言えないうれしい気持ちになりました」
──とはいえ、ホームに戻るとお孫さんの結婚式のことをおばあちゃんはすっかり忘れていたそうですね…。
「認知症がかなり進まれていたので、車で帰ってくる前にはもう忘れておられました。ただ認知症は何もかも1度に忘れてしまう症状ではなく、その人の抱いている感情、特にその人らしい愛情や昔の記憶は残りやすいのです」
■「親が認知症になったと相談することは、恥ずかしいことではない」
──これまでおばあちゃんのような認知症の高齢者の方々と多数接してこられたかと思いますが、認知症の親御さんを持つ家族の方々に向けて伝えたいことやアドバイスなどございましたらお聞かせください。
「認知症の親御さんがいる方に多く見られるのが、『親の認知症を認めたくない』という気持ちです。それで、早期の段階の治療が遅れる方が多くいます。でも日本も高齢化になった今、まず『認知症は誰もがなる老化の症状』という認識が必要です。
愛してきた親から実の子どもである自分が忘れられる…だんだんと日常生活が送れなくなる…そんなことを目の当たりして、徐々に親子の距離や溝ができてしまわれるご家族も少なくありません。だからこそ、恐れずに関係が悪化する前にさまざまなサービスを利用するなどして、うまく認知症の親御さんと向き合っていただきたいと思っています。親が認知症になったと相談することは、恥ずかしいことではないのですから」
──また介護の仕事に携わるこずえさんは「介護のリアル」を伝えるため、SNSにさまざまな介護に関連するエピソードなどを投稿されているそうですが。
「平成7年に介護福祉士になったので28年になりますが、私の実の母の介護のために8年現場を離れていました。SNSをやるきっかけは、介護とは違って娘の勧めでした。アカウントが大きくなるにしたがって、私と同じように介護の現場で悩む人、そして同じように親の介護で悩む方からのリプやDMが昨年から特に多くなりました。
今回のように介護のことをより具体的に発信しようと思うようになったのは、そんな『うちの親も同じです』とか『悩んでいたのは自分だけではないのですね』と言ってくれるフォロワーさんのおかげです。問題のただ中にいると自分一人で悩んでいるように感じて、心に余裕が持てないですが、少しでも何かの誰かのきっかけになればと思って、ポストしています。それに私の振り返りでもあります」
(まいどなニュース特約・渡辺 晴子)