ビルのテナント料大幅値上げで保護猫活動が大ピンチ! シェルター閉鎖し、カフェをリニューアル…活動継続へ、岩手・盛岡の団体がクラファン挑戦
岩手県盛岡市で活動する「認定NPO法人 もりねこ」は保護活動だけでなく、保護猫カフェの運営や老猫専門の特別ケアホームの開設、FIV(猫エイズ)キャリアと触れ合えるシェルターの設立など、様々な角度から猫の命を守っている動物保護団体。
自治体と強固な連携体制を築き、盛岡市の6年間殺処分ゼロに貢献してきた。
だが、今年の8月、もりねこに思わぬ壁に立ちふさがる。これまで保護猫カフェを運営していたビルのオーナーが変わり、テナント賃料が大幅に値上げされてしまったのだ。
コロナ禍によって主な収入源となっていた保護猫カフェの売上が低迷し、物価や光熱費の高騰が相次いでいる中でのテナント賃料の値上げは、もりねこにとって大打撃。このままでは、今まで通りの活動が困難…。
そう感じたもりねこはシェルターを閉鎖し、保護猫カフェをリニューアルオープンすることを決意。クラウドファンディングを開始し、支援を募っている。
■ビルのオーナー変更でテナント料が1フロア約7~8万円の賃上げとなって…
閉鎖を決めたのは、ビルの5階にあるFIVシェルター「もりねこプラス」。このスペースは、FIVキャリアの子たちが伸び伸びと暮らせるようにとの想いから作られたものだった。
テナント料の賃上げは、1フロアで約7~8万円。もりねこは5階の「もりねこプラス」と2階の「保護猫カフェ」の2フロアを借りているため、月に15万円ほどの値上げを提示されたという。
そこで、運営方針を見直し、再スタートを切ることを決意。5階の「もりねこプラス」を2階の保護猫カフェと統合して、FIVキャリア専門の保護猫カフェにすることを決めた。
「並々ならぬ思いを込めて立ち上げ、6年間運営してきたシェルターを手放さなければならないことは大変残念なことではありますが、猫たちのためにも、とにかく前を向いて進み続けなければならないと思いました」
なお、これまで2階の保護猫カフェで里親との出会いを待っていたノンキャリアの保護猫たちは一時的に、協力してくれるシェルターや預かりボランティアのもとへ。譲渡会などで里親との出会いに繋げつつ、団体としての運営体制や活動の見直しを行っていく予定だ。
「FIVキャリアの子しかいない保護猫カフェでは、これまで以上にFIVへの理解を進めていきたいと考えております。もちろん、ノンキャリアの子たちの保護猫カフェを再開したいという思いもありますが、今のところ全く目処が立ちません。ただ、もりねこ直営での運営ではなく、パートナー店として活動に参加していただく形で今後、保護猫カフェを増やしていきたいという展望はあります」
5階の閉館は、9月24日(日)を予定。リニューアルのため、同時期に2階の保護猫カフェも臨時休業に入る。
「保護猫カフェのリニューアルオープンは、10月7日(土)を予定しています。リニューアル後はモニターでの写真展示などで、カフェにいない子たちの情報も常時発信していきたい。また、多岐にわたる、もりねこの活動も知っていただける場所になるよう、様々な啓発にも力を入れていく予定です」
■クラファン開始から約2週間後に第一目標をクリア!
もりねこがクラウドファンディングで募っているのは、シェルターだった5階の原状回復工事費と保護猫カフェのリニューアルオープン費だ。
リニューアルオープン費は2階部分をキャリアルームにするため、消耗が激しい床の一部を張り替えたり、新しく入ってきた猫や一時預かり中の猫、体調を崩した猫が休めるスペースの仕切りを作ったりするなどのリフォームに使われるそう。
「5階はもともと飲食店が使用していたテナントを居抜きで譲り受けたので、初めから内装や部屋の仕切りなどが少し特殊な雰囲気でした。今回はもとの内装に戻し、全てを次の人が使いやすい仕様にして返すことになっています」
2023年8月7日にスタートした、もりねこの挑戦。すると、クラウドファンディング開始直後から、多くの支援が。「もりねこRe:スタート」と題したプロジェクトは8月24日に第一目標金額を達成することができた。
「このままでは立ち行かなくなるという危機的状況から立ち上がることができ、ほっとしています。だた、今回の決断が納得できるものとなるかどうかは、これからの頑張りにかかっていると思っていますので、気を引き締めて引き続き努力していきたいです」
そう語るもりねこはNEXTゴールの達成を目指し、現在も奮闘中。NEXTゴールで集まった資金は相談依頼が相次いでいる多頭飼育崩壊による避妊・去勢手術の実施費用や、年間約500万円もの資金を費やしている保護猫たちの医療費、保健所からの要請で対応している無償レスキューなどに活用されるという。
「命を守ることができるかどうかをお金の問題にしたくないという思いはありますが、利益を考えずに動くことが続くと、活動が維持できなくなってしまう。資金的な面でのサポートをいただくことができれば、安心してどんな子にも手を差し伸べることができるようになるので、応援していただけたら本当にありがたいなと思います」
なお、クラウドファンディングのリターン品の中には「もりねこ10周年記念パーティーへの招待券」というユニークなものも用意されている。
「ご支援いただいているみなさまおひとりおひとりに、私たちからこれまでの活動の報告とお礼を直接伝えられる機会にしたいと思っております。卒業した猫たちの写真展なども開催し、もりねこらしいアットホームなパーティーにしたいです」
■思い入れのあるシェルターを失ってでも守りたい「猫も人も幸せな未来への希望」
築き上げたものを壊すのは、新しいことを始めるよりも勇気がいる。けれど、変わっていくことを恐れず、今回の「Re:スタート」を、よりよい団体となるためのターニングポイントにしたい。
そう考えるもりねこは、自分たちの変化を応援してくれる支援者に深く感謝し、人生を捧げて、猫も人も幸せに生きていくことができる世の中に近づけていくことで恩返しをしたいと語る。
「今とても実感しているのは、猫の問題は人の問題であるということ。猫たちは生まれた場所で、ただ一生懸命に生きているだけです。悲惨な状況に置かれた猫たちを見ると、どうしても飼い主に怒りの矛先を向けたくなる方も多いかもしれませんが、誰かを責めたところで猫たちを救うことはできません」
多頭飼育崩壊など、これまでに悲惨なレスキュー現場に数多く立ち会ってきたもりねこによれば、悲劇を起こした多くの飼い主は初め、心を閉ざしているものの、必死に猫たちの捕獲やTNR(※野良猫を捕獲して不妊手術を行い、元いた場所に戻す活動)などを進めていくと、少しずつ活動に参加したり、少しでも費用を捻出しようと努力したりと態度が変わってくることがあるのだそう。
「レスキューが完了する頃には、見違えるほど表情が晴れやかになっています。そうした方はきっと、これまでに声をかけられたのが苦情や責任の追求など、追い詰められることばかりだったのでしょう。もちろん、責任がないとは言えませんし、同じことを繰り返さないよう、私たちもお話しさせていただいておりますが、ただ非難するだけでは解決できないことがあると思っています」
だからこそ、猫の問題は人の問題であり、社会の問題。適正飼育を知らなかったり、金銭的な問題や心身の健康上の問題あり、身動きが取れなくなってしまったりした人には、みんなで手を差し伸べ、猫も人も幸せにしていきたい。そんな想いを抱きながら、もりねこはこれからも活動を続けていく。
「大切にしていたものを失ってまで残したかったものは、“猫も人も幸せな未来”へとつながる希望でした。本当に大事なものは小さなひとつひとつの命そのものだということを多くの方に、諦めずに伝えていきたいです」
もりねこのクラウドファンディングは、2023年9月29日(金)23時まで。猫と人の幸せを願う、その温かい気持ちにぜひ触れてほしい。
(愛玩動物飼養管理士・古川 諭香)